吉か凶か
短編シリーズ 第7弾
「そこのおねえさん、占いは信じますか?」
「はい? あ、ええ、まぁ」
ワタクシの名前は角谷 咲。こんな道端でちょっとした占いをしている、変な女です。
「ワタクシ、ここで占いをやっていまして。よく当たると評判なんですよ。どうです? お金は一切受け取っておりません。1度試してみてはいかがでしょう」
そう。お金は取っていない。ワタクシの趣味でやっているだけですから。
「あ、はい……じゃあ、やってみます」
「それでは、始めます。ここに、2枚のカードがあります。1枚には『吉』、もう1枚には、『凶』と書かれています。1枚引いてもいただき、出た方が、本日の運勢となります」
ワタクシが話しかけた女性は、いかにも胡散臭いと思っているような顔をした。それはそうです。胡散臭いんです。ワタクシ。
「そんな、簡単なことなんですか? もっとこう、水晶とか」
「あーあー、そういうのは一切ございません。なにせ、無料でやっているものですからコストが……いや、コホンコホン。なんでもありません。ワタクシの売りは、無料であることと、手軽であることですから」
「そうですか……じゃあ、引きます」
女性はカードを1枚、本日の運勢を占うカードを1枚、引きました。
「……吉、でした」
「そうですか。それはおめでとうございます。きっと、良いことがあるのでしょう」
「ありがとうございました」
女性は素っ気なく、ワタクシの前から去っていきました。それはそうです。こんな小さな占いで、今日の運勢が変わるなんて誰も思わないでしょう。
しかし、運勢は変わるんです。
「そこの坊や、占いは信じますか?」
「ウラナイ? 何それ何それー!」
「では、これを、どちらか1枚、取ってみてください」
「……うーん、おねちゃま、これ、なんて読むのー?」
「おね、おねちゃま!? そう言われたのはワタクシ、はじめてです。そうそう、これは、吉、きちと読むんですよ。この文字は、今日、坊やに良いことがあるという印です」
「えー! 良いことー!? ありがと! おねちゃま!!」
……そう、運勢は変わるんです。
なぜなら、
「ねぇねぇおねちゃま! もう1個のほうには、なんて書いてあるのー?」
ニコリと、ワタクシは満面の笑みを浮かべて、この坊やに、もう1枚のカードを見せた。
「なんだー。どっちも同じじゃん」
そう。ワタクシは占い師。ただし、『吉専用』の、ね。
しばらくして、あの女性がワタクシのもとにやってきました。
「いかがされましたか」
「あ、あの、先日占いをしてもらった者なんですけど……その、占いをした日に、私、好きな彼にアタックしてみたんです。そしたら、OKもらえちゃって……その、占いのおかげだと思って……お礼をいいにきました」
「そうですか。それはおめでとうございます。良いことがありましたね。わざわざ礼を言いにいらしたのですか。律儀な、優しい方ですね、あなたは」
「私、最近全然、良いこと無かったんです。でも、あなたの占いをしてみて、なんとなく良いことが本当に起こる気がしたんです。本当に当たるんですね。ありがとうございました!」
人の気持ち次第で運勢は変わる。
吉も凶も関係ないのです。
「おねちゃまー!! さっきね、さっきね!! お母ちゃまがアイス買ってくれたんだよー! 良いことあったー!!」
「良かったですね。坊や」
ワタクシは占い師。人々に良いことが起こるよう導く、変な女です。
今日はちょっと、いい気分です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました




