見回りの誇り
「いいか?本当にあったことだけを、落ち着いて喋ればいいんだからな?」
「分かってるよ。これで何度目だよ」
俺は緊張を隠すためにちょっと意地をはって言う。
ここは、この王国の兵士の全てを束ねる元帥の部屋の、堅牢な扉の前・・・。
何故俺のようなただの見回り兵士がここに呼ばれたのか。
ことの次第は昨日。俺は久々の休暇だとでも思って病人生活にいそしんでいた。
するとそこへ伝令が届き、至急ここへ呼ばれたのだ。
最初はなんかやらかしてしまったのかと焦ったが、なんてことはない。国民を守るためにいる兵士が暴れた件について、事情聴取するだけだった。
「テイル!入りたまえ」
「はっ!」
俺は扉を開け、部屋の中へ踏み込んだ。
そこにいたのは、金髪の女の人とその秘書と思われる、これまた女の人だった。
そう、この国の元帥は女なのである。
名を、ミュヘル・ロールルという。
その元帥が威圧するようなハスキーな声で俺に命じた。
「テイル、これから君にいくつかの質問をする。正直に答えるように」
「はい」
この状況で嘘をつける奴がいるんだろうか・・・。
「テイル、君は現場にいたそうだが、何故あの正規兵が暴れだしたのか、原因を知っているか」
「いいえ、知りません。私が現場に到着したときには既にパニックになっていました」
俺の発言を秘書がすらすらと書類に書き込んでいく。
「ふむ。では君はなぜ事件が起きたことを知り、対応できたのだ?」
それは偶然居合わせただけなんだが・・・。
「そのとき私は怪我の治療をしていました。それで悲鳴が聞こえて・・・」
「ちょっと待った」
そこで元帥は待ったをかけた。なにか不審な点があったのか?俺はめちゃくちゃ焦った(もちろん顔にはださない)が、なにやら元帥の顔が輝いているように見える・・・。
「君は怪我の治療をしていたのか?」
「は、はい」
そりゃあ治療施設にいたんだからそうだろう。
「では、君は怪我が治っていない状況で戦闘をしたということか?」
「?はい、そうですが・・・」
確かに完治してなかったが、それが今回の事件となにか関係があるのだろうか?
「ふむ、ではそのときどこを怪我していたのだ?」
それ訊く!?
「右腕です」
「・・・つまり、利き腕を怪我した状態で戦ったと?」
「そうなりますね」
なんなんだ?なぜこんなに俺の怪我に食いつくんだ!?
「テイル、これで質問は終わりだ。帰っていいぞ」
これで終わりなのかよ!?
「はい。では失礼します」
なんか事件に関係が無いことばかり訊かれた。すぐ終わったし、いったいなんだったんだ?
そんな疑問を感じつつ、俺はその場をあとにした。
「なんで俺のことばっか訊いたんだろうな」
病室で俺は頭の中の声に訊いてみた。
「ああ・・・俺も考えていたんだが、そうとしか考えられない」
「どうとしか?」
「つまり・・・事件よりも重大なことがあったってことだ」
それに俺はさらに訳がわからなくなる。
「俺の怪我の具合がそんなに重要なのか?」
「いや、怪我じゃなくてお前の実力だろう」
「?」
どういうことだ?
「いいか?お前はただの見回り兵士だ」
「そうだな」
「で、その兵士が正規兵を相手取って時間を稼いだ」
「うん」
「しかも利き腕怪我した状態で」
あ、そういえば。
「なんで俺が右利きって分かったんだろうな?」
「んなもん剣の鞘がどっちにあったかで分かる」
「あ、そう」
それはそうか。
「話を戻すが・・・とにかく見回り兵士がそれだけのことをやってのけたと」
「うん」
「で、今は正規兵が足りてない。そのくらいは知っているな?」
「当たり前だ・・・ろ」
正規兵は常に人手不足だ。
危ない兵士の仕事をやりたがる奴がいないし、そもそもそれにみあった実力を持った奴が少ないのだ。
「・・・まさか」
「その、まさかだ」
まさか俺を・・・。
正規兵に・・・。
その時だった。
「失礼する。ここはテイルの病室であっているか?」
例の元帥が、俺の病室にやって来たのは・・・。