選ぶ決意
気がつくと、闇の中にいた。
ここは・・・。
「よう。目が覚めたか?」
すぐに聞きなれた声が頭に響き、
「ああ。おはよう」
と、俺も返した。
「お前が気絶したあと、やってきた兵士たちが暴れてた奴を気絶させたぞ」
頭の中の声は俺が訊きたいことを、俺が訊く前に答えてくれた。
「そうか・・・よかった」
心からそう言ったとき、
「いや、よくねぇ」
と頭の中の声が少し怒ったように言った。
「お前、あのとき手加減してたろ」
それはさっきの戦闘中にも言われたことだ。
「してないよそんなの。俺は全力で戦った」
「ああ、そうだな。お前は確かに全力だったかもしれない」
かもってなんだよ。
そう言おうとするが、次の台詞に遮られる。
「だがな、お前は相手を殺さないように全力を出していた。そんなの長年お前を見てきた俺には分かる」
「・・・」
それについては何も言えない。
魔物を相手にしているときと、人を相手にしているときでは、自分の感覚が違うのくらい分かっていた。
「今回はよかった。助けがきたからな。だが次はどうする?一人だったらお前は殺されていたぞ」
「・・・」
「それだけじゃない。あの場でなりゆきを見守っていた治療施設の人たちや、野次馬連中・・・は死んでも別にいいけど・・・も、殺されてたかもしれない」
「・・・」
何が言いたいのか、もちろん分かってる。
でも、俺は。
「人を殺すために、鍛えてるんじゃない」
それだったら、俺は・・・。
「いいか、よく聞け」
頭の中の声は、諭すように俺に言った。
「別に、邪魔な奴を片っ端から斬り殺せと言ってるんじゃない。そんなの正しいはずがない。ただな・・・」
頭の中の声はそれから少し間をおいてから言った。
「自分の命か、他人の命かを選択しなくちゃいけなくなったら、自分の命を選べ。それはなにも悪いことじゃない。他人のために命を投げ出すのは、お前の悪い癖だ」
「・・・」
そうかもしれない。いままで誰かの為に動いて死にそうになったのは一度や二度ではない。
頭の中の声が言うことが正しいのかもしれない。
でも
「・・・殺されそうになったのは俺が弱いからだ」
「違う。お前は強い。だが今回は利き腕と片足を・・・」
「それも全部ひっくるめて、俺が弱かったからだ。手加減なんてしていない」
認めたくない・・・。
「・・・はぁ」
頭の中の声は大きなため息をつき、
「まぁいい。最後に選ぶのはお前だからな。でも、これだけは覚えておいてくれ」
それからさっきよりも間をおいて、頭の中の声はこう言った。
「お前が自分の命を選んでも、俺は何も言わない」
そうなのだ。
頭の中の声は結局、俺の心配をしていて。
「ほら、わかったらもう起きろ!さっさとメシ食って体力戻して傷を治せ。そしたらまた戦え」
突然の態度の変化に、俺は心の中で苦笑した。照れ隠し下手すぎか。
「分かったよ。起きるよ」
早く復帰できればいいけど・・・。