怪我➡微回復➡大怪我
「どうしてこうなった!?」
目の前の光景を見て、俺はそれしか言えなかった。
俺は最初、魔物が治療施設内に侵入したのだと思っていた。だがどうだろう。実際に暴れているのは・・・。
「オイ、あれって正規兵の鎧じゃねぇか!?しかもかなり偉いほうの!」
頭の中の声が叫ぶ。
そう、今問題を起こしているのは市民を守る兵士なのである。
「お前!急にどうしたんだよ!?」
そしてその正規兵を押さえ込んでいるのも正規兵・・・。
暴れているのは紫の鎧を装備した兵士、止めているのは茶色い鎧を装備した兵士、鎧の色だけを見れば紫のほうが階級は上だ。
頭の中の声が「強い」ではなく「偉い」と表現したのは、まぁ階級だけでは強さは分からないという事だろう。
「くっそ!なんなんだよ!!」
よくみると茶色い鎧を装備した兵士は剣を握っていない。対して、紫の鎧を装備した兵士は剣を振り回している。
「危ないっ!」
その剣が茶の兵士を貫こうとした。
俺は横から自分の剣で兵士の剣を押さえ込む。いつもならそれができたと思う。
だが・・・。
「っ!!」
完治していない右腕に力を込めたため激痛が走り、剣を握る力が落ちる。
「ぐああっ!」
そして、防ぎきれなかった紫の兵士の剣が茶の兵士を突き刺した。
「・・・っ!!」
俺は何をやっている!?
こんな痛みなんかで・・・。
「くっ・・・そぉ!!」
腹から声を絞りだし、気合いで痛みを無視して剣を払う。
「おおお!」
勢いそのままに体を反転させ、限界まで足をしならせての回し蹴り。
それは紫の兵士を大きく吹き飛ばし、木造の壁に叩きつけることができた。
「あんた!しっかりしろ!!」
紫の兵士が立ち直る前に、俺は倒れた茶の兵士に呼び掛ける。
「・・・ああ・・・俺なら、大丈夫だ・・・それより、あいつ・・・」
あ、これやばいやつだ声がやばいやつだ顔色とか絶対やばいやつだ!!
「おい誰かこいつを連れていって治療してくれ!」
俺の声に周囲の治療係が動き、茶の兵士を運び出す。
「オイ、あいつら・・・!」
しかしいままで治療係を捕まえて喋ってた兵士たちはただ眺めるだけ。
もう見回り兵士は完全に野次馬と化していた。
「いいよ。あいつらが使えないことは痛いほど知ってるから・・・!」
俺は隠せない怒りを声に籠めて、頭の中の声に返事をした。
言い終わると同時に、土埃から紫の兵士が現れる。
「・・・一体、何があったんだ・・・」
さっきの攻防で分かった。こいつはいままで努力していた。
磨かれた技、鍛えぬかれた力・・・。
「何があったら、そうなるんだ・・・?」
呼び掛けるが返事は返ってこない。
「痛っ・・・」
さっき紫の兵士を蹴り飛ばした左足に痛みを感じた。この感じは、折れてはいないだろう。でもヒビくらいは入ってるかもしれない。
そして、途中まで治療してあった右腕からはまた痛み出し、包帯には血が滲んでいる。
この状態で、どこまでやれるか・・・。
「やるしか、ないよな!!」
うっかりするとしぼんてしまいそうな自分の闘志を大声で励ます。
その声が戦いの合図になった。