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彼女との思い出

「なぁ葵、半年って……」

「私の余命よ」

武田の言葉を遮って、葵がぴしゃりと言い放つ。

「……本当なのか?」

「いくら貴方相手でも、こんな悪趣味な嘘は付かないわ」

「けど、それって、ただの目安なんだろ? 実際には、それよりずっと長生きすることだって……」

「あるでしょうね。逆に早死にすることだって」

「な……」

「貴方も言っていたでしょう? 半年なんて、ただの目安だもの」

いつものように、葵が意地の悪そうな笑顔を見せた。

「まぁ、仕方が無いわね」

「……」

「次は、また来週かしら?」

「いや、今は大学も休みだ。……また明日来る」

「そう……」

武田はそのまま1分ほど押し黙った後、何も言わず病室を後にした。


帰りの電車の中、武田の脳内に、ふと中学生の頃の思い出が蘇った。

「その髪飾り、気に入ってるのか?」

「どうして?」

「いや、顔合わせるとき、いつもそれ付けてる気がして。少し大きいけど、良い色だな」

中学三年の頃、友人の悪ふざけで推薦され、所属することになった委員会での活動中。

偶然一緒に居残ることになった、隣のクラスから来たという少女に対し、これから顔を合わすことも多かろうと、柄にも無く気を使った武田少年の一言であった。

「そう……」

一方の少女は、そんな武田少年の気持ちを鑑みる様子も無く、ただの二文字でそれをあしらった。

以前、他の生徒から綺麗だの、頭が良いのと褒められていたときの、彼女の喜色に満ちた表情と応対を偶然に見たことのあった武田少年は、なるほど、この少女は今時の女子によく居る手合いの、陰日向のある人間だったのだと、その反応を解釈した。

少女の名は、葵といった。

その後、偶然彼女と同じ高校に進み、何度か顔を合わせて話をする内に、武田は、その時の印象が誤解であったこと、そしてこの葵という少女が、自分とは違った意味で不器用な性格の持ち主であることを知った。

容姿、才能……彼女は自分の表面しか見ない相手の言葉を、まともに取り合おうとはしなかった。

いつも形だけの作り笑いで応じ、相手の名前さえ覚えようとはしない。

人当たりの良さの割に友人の居ない彼女の病室には、見舞いの品も見舞いに来る人間も無く、いつも静かで殺風景だ。

教師に請われてではなく、自発的に見舞いにきたクラスメートは自分がはじめてだと彼女に告げられた時、武田は驚きつつも、ようやくそのからくりを理解した。


「まぁ、仕方が無いわね」

病室でそう呟いた時、彼女は薄ら笑っていた。

「こんな時まで、天邪鬼な奴だな……」

電車に揺られながら、呆れたように武田が一人呟く。

ふと、向かいに座る男のスポーツ新聞が武田の目に入った。

有名な俳優の訃報が、一面に載せられている。

「縁起でもない……」

八つ当たりをするように、武田は目の前の新聞を睨み付けた。


葵がいつも付けている髪飾りが実は祖母の形見で、日頃から大切に扱っていることを武田が知ったのは、彼が高校を卒業する頃であった。

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