表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

彼の朝

彼の一日は、いつも小汚いベッドの上から始まる。

もちろん、小汚いのはベッドだけではない。

床にはいつ脱いだかも覚えていないシャツやズボンの山。

無論洗濯などしていない。

部屋の真ん中に置かれている小さなテーブルには、ビールの空き缶が五本ほど放置されていた。

引っ越して一月ほどの間は、彼にも、せめて身の回りくらいは最低限整えておこうという、僅かばかりの良識はあった。

しかし、それから一ヶ月、もう一ヶ月と暮らしていくうち、徐々に生来のものぐさが顔を出し始め、この部屋で暮らし始めておよそ半年後、彼はこの小さなワンルームマンションの一室で、とうとう開かなくても良い悟りを開くに至った。

どうせ誰かが遊びに来るわけでもないのだから。


目を覚ました彼は、空き缶の横に置いてあった袋の中から、乾燥した食パンを取り出して口へと運ぶ。

口中の水分をもって行かれそうになるのを、期限ギリギリの牛乳で誤魔化しながら、一気に飲み下した。

見るからに味気なさそうな食事だが、彼の顔に不満の色は見られない。

腹に入ってしまえば、後はみな同じだ。

食べている自分が満足なら、それで良いではないか。

どうせ誰かと一緒に食べるわけではないのだから。


食事を終えると、彼は足元のシャツの山から、汚れていないものを目で探し、これと思うものを摘み上げた。

鼻を近づけてみるが、特に臭いも気にならない。

同様の方法でズボンと靴下を選んだ彼は、早々に着替えを済ませて玄関へと向かった。

靴べらを探す彼の姿を、傾いた姿見が映し出す。

顎には、薄っすらと無精ひげが生えていた。

まあ、いいだろう。

どうせ、誰かに会いに行くわけでも……。

「おっと……」

そこまで考えて、彼はようやく今日の用事を思い出し、洗面所へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ