NO.6『やな奴2』
「ちょっと、そんなに笑わないでよ」
瑠華は慌てて止めるが刹那は笑い続ける。
エレーナ先生は何事もないように授業を始めだす。この学園では先生に権限はないのだ。
「あぁ、おもしろかった。でもさ、この学校って先生何も言わないんだね」
瑠華はその質問に平然と答える。
「何言ってんの?当たり前でしょ。先生は何もいえないわよ。特にあたし達みたいなんにはね」
「へぇ。変わってるね」
「変わってる?普通でしょう」
刹那はしばらく黙り、そうなの?とだけ言った。
「あんたこそ変わってるわよ。そんな考え、この学園にはないし」
「あ、もう言葉遣いは気にしなくていいの?」
はっと我に返って普通の言葉で話している自分に驚く。
なんか、この男としゃべっていると全身丸裸にされたような感じがする。
「うるさいわね、それよりなんであんたはこの学園に転校してきたのよ」
「してきちゃ悪いの?」
瑠華はなんとか拳を振りかざすのを我慢する。それより瑠華は刹那の言葉遣いが気になっていた。普段も口が悪いみたいだし、東郷の跡取りがそんなことでいいのか、と思う反面羨ましい。
「別に、いいけど。それより、あんたその言葉遣いいいの?」
刹那は意味深に微笑み何が?と答える。この言い方がむかつくのだ。
「だから、あんたお坊ちゃまなのにその感じはいいのかって言ってんの。いちいちむかつくわね」
「別に?注意されたこともないし?俺は俺の道を生きるからね。でも瑠華ちゃんは違うみたいだね。親の言うとおりにしといて楽しい?俺はやだね。操り人形なんてさ」
胸に突き刺さるような痛みが瑠華を襲った。本当のことを言われると案外きつい。
しかもこいつ、性格悪い。サドか、こいつ。
「・・・悪い、ちょっときつい言い方しちゃった。瑠華ちゃん可愛いから」
「は?」
何、突然言ってきてんだと瑠華はまた呆れる。本当に分からない奴だと瑠華はよく分からない感情に捕らわれていた。
「ごめんね、瑠華ちゃん。許してよ」
「許すとかそんな問題じゃないんだけど」
「あら、そうなんだ。じゃあ許してくれてるんだね。ありがと」
「そりゃ、どう致しまして」
だんだんめんどくさくなってきた瑠華はさっさと話を終わらす。
「冷たいな。でも俺、そんな瑠華ちゃん好きだよ。まぁ噂とはまったく違うけどね。噂を聞いた時別にどうでもいいって思った。でも、あの大またで座ってる美女を見た瞬間、俄然興味がわいたね」
「おっ大また大また言うな。あれはたまたまで」
瑠華が慌てて反論するが、刹那はため息をつく。
「あのね、気にするとこそこじゃないんだけど」
「え?何よそれ」
「俺が瑠華ちゃんを好きって言うこと。ね、俺と付き合ってくれる?」
また突然な。殴りたい。
「無理」
一言そういうと刹那はえーっと小さく言う。
「えー残念」
全然残念がってないし、と瑠華は肩を落として刹那を睨む。
「あんたなら女ぐらいいっぱいいるでしょ」
「そりゃあ、経験豊富ですよ?俺は。だから俺の相手してよ、瑠華ちゃん」
「絶対に嫌!」
今の一言でまったくその気がなくなった。いや、その前からなかったけれど。
「ただの遊び人?」
「当たり。なんなら試してみるか?瑠華お嬢様」
「お坊ちゃまに言われたって嬉しくない」
そらそうだ、と笑う刹那はなんだか子供のような笑顔だった。話してる内容には沿わないような、明るい笑顔。こんな顔を人前でも出来るのがとても羨ましい。
瑠華の場合、お嬢様スマイルで会釈し、にこりと微笑みながらその相手の話を聞き続ける。それが、両親に教わったことだ。この男だって、ちゃんとしたとこではもっときっちりしているのだろう。けれど、瑠華はこんな校内の中で大笑いできるこいつが羨ましい。
「どしたの、重い感じになっちゃって」
「何にもないわよ」
瑠華の声は一時間目のチャイムに重なり、消えていった。A組の連中はすぐに刹那の元へ駆け寄る。断然女子が多い。
瑠華は席から立ち廊下へと出る。刹那に興味の無いのか、瑠華に一途で自分の株を上げようとしているのか知らないが、少数の取り巻きがついてくる。そしてその後ろからレナがついてくる。
「どうしたの?やけに転校生と楽しげに話してたけど」
レナの言葉に瑠華は立ち止まる。
「楽しそう?!何言ってんのよ、ありえないわ」
「少なくともいつもよりは楽しそうだったわよ?」
いつも、というとあの取り巻きと話している時か。
「とにかくあたしはあんな奴大嫌いなの!」
瑠華は小声でだが、感情をこめて強く言った。
すると、廊下を歩いていた瑠華の目の前に、これまたややこしい奴が現れた。
「うわ」
瑠華はもうやめてくれ、という風にその先にいる女子を睨んだのであった。
さて、その先にいた女子は誰でしょう?(笑)