NO.4『転校生』
『どちらの飲み物を所望致しますか?』
自動販売機の前に立った瑠華は、何回もこの機械を見ているが、やはり呆れる。
「なんでコンピューターがしゃべってんだよ」
自動販売機を睨むがコンピューターは答えない。
『どちらの飲み物を所望致しますか?』
同じ事を繰り返す。これには赤外線センサーがついていて、前に立った人間が分かるらしい。
「えーっと、紅茶とコーヒー」
『かしこまりました、紅茶とコーヒーをお出しいたします』
「早くしてね」
瑠華はそういい、自動販売機の横のベンチに座る。この学園はどこにでもベンチがあるらしい。この無駄に金をかけてる自動販売機は早くて五分かかる。とにかく遅いのだ。
瑠華はベンチに大またで座る。
「ったく・・おそいなぁ・・」
風が強い。草木が激しく揺れる。
「何が?」
「何って自動販売機だって・・・・え?!」
瑠華は背筋を正して目の前をじっと見る。強風が止んだ瞬間に、前に誰かが立っていることが分かった。
「女の子は大またでベンチに座ったら・・駄目なんだよ?」
その言葉にさっと足を閉じる。
「ね、俺二年A組行きたいんだけど、知ってる?」
瑠華はレナの言った言葉を思い出す。その瞬間、その男の顔がはっきりと見えた。
「情報」通りの、美形な男。茶色い髪に銀のピアス。背も高くて顔立ちも整っている。
「・・・転校生?」
「そう。知ってるの?」
瑠華はベンチから立ち、いつものお嬢様スマイルで答える。
「えぇ。私も同じクラスよ・・・私の名前は宮塚瑠華。よろしくね?」
「宮塚?あぁ財閥の・・・。ふーん、あんたがアルテミスか、月の女神さんか」
この名前を聞いて動揺する様子を見せないとすると、結構な大金持ちか。
「あら、知ってるの?そんな名前・・・恥ずかしいわ」
「そ。俺の名前は東郷刹那。よろしくね、瑠華ちゃん」
「・・東郷?」
東郷といえば・・・東郷財閥・・・。
「あの・・・?」
「お、知ってんの?世間知らずのお嬢様が」
こいつ・・・頭にくる言い方しやがる・・。
「悪いけど、普通のことはしってるのよ」
「そうなんだ、ごめんね、瑠華ちゃん」
馬鹿にしてやがる・・・。
東郷財閥は、宮塚財閥と競っているライバルだと父には聞いている。まぁ、つまりは御曹司ってことか・・。
「えぇ、そうなの。じゃあクラスでまた会いましょ」
自動販売機から飲み物を取り出し、さっさと去ろうとする瑠華をじっと見つめ、刹那はにやりと微笑む。
「ねぇ・・・お嬢様の姿、かぶってて楽しい?」
瑠華はぴたりと足を止める。
「え?」
「大またでベンチに座ってる子が・・・本当のお嬢様だとは思えないなぁ」
「・・・何が言いたいの?」
刹那はにこりと微笑み瑠華の傍にいく。
「おもしろいねって、言ってんの」
そういい、刹那は瑠華に顔を近づける。
「なっ・・なっ、なっ・・・」
瑠華は驚いて顔を真っ赤にする。
「いいじゃん、ほっぺにキスぐらい」
「なっお前・・・」
「あっお前っていったぁ」
瑠華はぐっと口を強く閉じる。刹那はやさしげに微笑み、手をふる。
「ふふ・・じゃあね、瑠華お嬢様・・。俺明日入学だから、またね」
刹那はそのまま消えていった。
瑠華は頭が真っ白だ。『お嬢様』じゃないってばれた。しかも・・・
「・・・あの野郎・・・きっききキスまでしゃがって・・そりゃ頬だけど・・・!」
瑠華は雄叫びを上げる。
「くっそぉ・・ゆるさねぇ!」
瑠華は手に持った少し冷めたコーヒーを一気に飲み干し、もう一つの紅茶を急いで持っていった。
これから・・大金持ち達の格闘は始まる・・・。