NO.23『灯台もと暗し2』
「そっか」
刹那はただ、そう言った。その少しそっけない感じが少し瑠華の心を揺さぶる。だが、一度決めたことだ。それを覆すわけにはいかない。
「じゃ、いこっか」
刹那は軽く微笑んで、足を進める。それに瑠華はついていく。この先に、何があるのかが気になって、胸の鼓動がだんだんと早くなってゆく。
「ここ、西園寺の会社が作ったって言ったろ?裏に何が・・・あると思う?」
「裏?どういうこと?」
「こっち」
連れてこられたのはゲームセンターの裏出口を抜けた所。暗い、駐車場のようなところである。水の滴り落ちる音が、ゆっくりと、まるで心臓の音のように落ちていく。
「ここ何?」
「西園寺グループの闇ルート。情報で探ったら、ここだった」
『闇ルート』。その言葉がまるで刃のように瑠華に振りかかる。
「じゃ、何?西園寺は、闇ルートを持ってるって事・・」
「そういうこと。それで、それを取り仕切ってるのはレナの両親じゃないんだ。それを操ってるのは・・・レナ自身ってこと」
体が、止まった。一瞬にして何も動けなくなった。手も、足も、まるで木の棒のようで、今なにが起こってるのか、刹那が何を言っているのかを理解するのに時間がかかった。
「どう、いうこと。レナが、何だって?」
「落ち着けよ。混乱したら終わりだからな。実は今日俺レナに呼び出しされてるんだよね」
「なんて」
「話があるからこのゲームセンターの裏口を抜けたところに来てくれって。後五分だけど」
意味が分からない。この目の前にいる刹那の言っていることがまるで理解できない。レナが何?闇ルートを取り仕切っている?じゃあ何、あのレナは。あの妖精のように微笑んでいたレナは。偽者だったというのか。
「瑠華っ!」
放心状態に陥っていた瑠華に、刹那は話しかける。少し、心配そうな顔をして。
「ちゃんと息をして。現実を見るんだろ。俺は嘘は言ってない、事実だ。しっかりしろ」
わかってはいるけれど体はまるで動かない。
「わか、て・・る。大丈夫。息するから」
だが、だんだん胸が苦しくなっていくのは気のせいか。しているつもりだけど、息が入ってこない。
「もう、時間だ。ちゃんと自分を持てよ・・・・来る」
心の中で、何かが回り始める。機械のように、ぎこちなく。それは今までしまっていた何かを、動かすように。
「・・・あら、東郷のお坊ちゃま。もう来てたの。早かったわね」
聞き覚えのある、声。だがそれを聞いたことがあるのは、あの暗い倉庫の中で、暗示をかけられたとき。微かに聞いた、あの女の声。
ハイヒールの靴音が、空気を伝わって瑠華達に届く。暗闇の奥にうっすらと見えたのは金色。まるで本物の黄金のような、『アポロン』の、太陽の色。
そして次に見えたは赤色。まるで血のような唇は、『あの時』を思い出させる。
「れ・・・レナ」
その声を耳にした彼女は、微かに足を止める。そして、足音は急に早くなる。ようやく姿が見えたとき、彼女は少し戸惑った様子を見せた。
「・・・瑠華?なんであんたここに」
それは普段のレナを思わせるものは何もなく、高いピンヒールのハイヒールに豹柄のミニスカート。そして派手な化粧。
金色に輝くその髪だけが、悲しくも今までのレナだと確信を持たせた。
「レナ・・・本当に?なんで・・・」
その言葉をさえぎるようにレナは刹那を睨む。
「おい。東郷のお坊ちゃま。これはどういうこと?話に聞いてないんだけど」
話し方までまるで別人。
「いいだろ。どこでも。何か特別困ることでも?」
その言葉にレナは反応しない。ただこの空気を長く続けることは嫌なのか、やたら周りを見回している。
「場所を、変えましょ」
そうつぶやくとレナは暗闇の方へと歩きだす。刹那もそれにさっさとついていくので、瑠華はまだ手足が動かなかったが、なんとかゆっくりと歩く。
瑠華は、聞きたいことがたくさんあった。それは、レナも、同じだったかもしれない。