NO.21『繋がった糸』
静まり返る裏庭。
は?今なんてったこいつ。
「・・なんて言った?今・・」
「お前が好きだって言ってんの。この鈍感女」
「どっ鈍感って何よ。しかも何よこれっ!なんで突然告白になるのよ」
「お前が言わしたの!あーむかつく。腹立つな・・・。なんで俺から告白なんてしなきゃいけないんだよ」
瑠華はこの身勝手な男の本性を見た気がした。まぁ、前から知っていたからあまり驚きはしないけれど。
ため息をついている瑠華に、刹那は横に座れとと言う。しかも命令口調で。
「何よこのプレイボーイナルシスト」
「プレイボーイは明るい王子様の役柄だっつうの」
じゃあ、ナルシストはと聞きたくなったが、まぁ、言わないでおく。
「何よ。最初会った時あたしのこと馬鹿にしたのに」
「馬鹿になんかしてない。俺と一緒の匂いがしただけだ」
『同類』この言葉が脳裏に浮かぶ。
世界的に有名な財閥の一人娘、一人息子で、同じく猫をかぶっている。
これだけでも同じ匂いがするのに、二人には裏がある。そしてそれを誰にも知られてはいけない。瑠華の場合はレナがいたけれど。それでも心が晴れることがなかった。瑠華にとってレナは学園に来る唯一の理由、だけ。
そんなに、心が弾むわけもない。
周りからは期待され、そして宮塚財閥の一人娘という大きな看板をもたされて、それを背負って生きてきた。だから、瑠華は努力した。毎晩遅くまで勉強や読書に励み、決して、宮塚の品を落とさないように、悪い噂もなくして、完璧な人間になった。
けれど、それがなんだと言うのか?
ただ過ぎてゆく時間。本当の自分も出せず、それを語れる人間もいない。聞こうとする人間もいない。
「そうだろ、瑠華。俺とお前は同じ。別の人間だけど、同じ境遇で育ってきた。周りの媚びた面。本当のことを言ってくれない周りの人間。俺を見ようともしないクラスの奴ら。すべてが俺にとって無意味だった。存在さえ、いらなかったんだ。お前は?」
そう、刹那と『同じ』。
自分だけの世界に、生きてきたのだ。今までは。
「・・・あたしら、同類なんだ」
「ああ。そうだろ」
「同じ、生き物?」
「ああ」
心の中で、何かがはじけた気がした。今まで溜めていた『何か』がひび割れ、崩れ去ったような。
自分だけの世界が、なくなって、自分の領域に何かが入り込んできたような。
「刹那」
瑠華はただ、名前を呼ぶ。
「何」
刹那も淡々とそれに答える。それだけの会話が、今までのなんの味気もないくだらない雑談より、何倍も嬉しかった。
生きている。
そう思えた。自分の居場所が、ようやく見つかったのだと、実感できた。
「あたしら、生きてたんだね」
「これからは、な。で、告白の返事は」
「またにしとく」
刹那の不満げな顔を微笑み見ながら、瑠華はベンチを立つ。
「じゃあ、問題は後一つだね」
「あと一つ?」
刹那は忘れているらしく、ベンチに座ったまま制服を整える。
「レナよ」
瑠華のその声に、異様に反応した刹那は、瑠華の口からその言葉が出てきたのが意外そうな顔をした。
さぁ、クライマックスに突入です。