NO.19『見えない影2』
「へぇ・・これがマンガっていうやつ」
刹那は不思議そうに手に持っている物体を眺める。
「私も、はじめて見ましたわ」
レナも同じような反応をする。それを見た瑠華は、疲れる、と独り言を言ってしまう。まるで小さなこともを相手にしているようなのだ。
この二人は商店街には出ていなかったらしく、周りにあるすべてのものが珍しいらしい。辺りを歩き回って眺めては、いちいち報告してくる。
「もう、うろうろしないでよ。レナも!ちゃんと横に並んで」
「はいはい。分かったよ」
「すいません、瑠華。ちょっと浮かれてしまって」
「別に・・・いいんだけど。それよりそんなに珍しいの?」
同じ金持ちの瑠華はなれたものだ。よく暇だったらここへ来る。もちろん、変装して。黒いニット帽をかぶり、そこら辺に売っている古着というだぼっとした服をきて、歩いているとまるでばれない。
現在も、その格好だ。
「ええ、珍しいわ。それに好きよけっこう」
黄色いパーカーを着て、赤いキャップを嬉しそうに被るレナ。だが、そんな今風の服を着てても、やはり目立ってしまう。というか、逆にいつもの服装よりも目立っている。
だが、なんというか、以前から明るく、可愛らしいレナだ。どんな格好をしていてもやはり可愛い。
「それに、動きやすいほうが好都合だもの」
にこりと微笑み、キャップを深く被る。その言葉がまだ、意味深だ。
「なんで」
「だって、こんな商店街は歩きやすいほうがいいでしょ」
「ああ、そりゃそうだね」
瑠華は深く考えず、そのまま進む。
「もしかしたら、他に使い道があるのかもよ?」
歩き出そうとするレナと瑠華に、刹那はまぜか怒ったようにそう問う。
「どういう意味?」
「別に、、ただなんとなく思っただけだよ。忘れて」
「・・ふん。何よなんか暗い感じになって。どうせ行くんなら明るく行きましょうよ」
心の中に秘めた思いをなぜか隠すように、瑠華は大声をあげる。その思いは、まだ本人も気づいてはいないだろう・・。
「あっそうだ。レナ、これ渡そうと思って」
取り出したのは『月』の形をしたネックレス。
「・・・これ、どうしたの?」
レナは驚いたようにそのネックレスを見る。
「商店街の中にあったアクセサリー屋に売ってたの。かわいいし、どうかなって思って」
しばらく黙り込んだレナに、少々不安を感じた瑠華は恐る恐る顔を近づける。
「ごめん、変だった?」
するとその言葉に反応し、肩を震わせながらにこりと笑う。
「ううん。可愛いわ、ありがとう。大切にするから」
その言葉とは裏腹に、相変わらず顔色は悪く、細い腕を力いっぱい握り締めて、何かに震えているような顔をする。
心配だった。だが、なんだか聞けなかった。聞いてはいけない、と思ったから。でも、それだけじゃない。『聞きたくない』。確かに、そう思ったのだ。