NO.17『見えない影1』
「もっ申し訳ありませんっ!宮塚様・・本当になんてお詫びしたらいいか」
聖薔薇学園の理事長、内藤千里は、いつもの濃い化粧を見えないほど薄くして、青ざめた顔をし、瑠華にお辞儀をする。
「ほんと、お詫びなんかされても許すはずありませんけど」
瑠華は理事長を冷たい瞳で睨み、言葉を吐き捨てる。
「でっですが。お願いです。すいません・・・」
その言葉を聞き、刹那は理事長の椅子から立ち上がって聞く。
「こんなことが二回も続いていいと思ってんの?しかも宮塚だよ。この学園潰すぐらい簡単なんだよ」
その言葉に、理事長は、さらに戸惑う。
「まぁ、実際何もないから、いいけれど・・。それでも、この私の心を傷つけたとして、覚えておきますからね?」
「みっ宮塚様・・」
「いいわね。行きましょう刹那さん」
「あいよ。じゃあねー、理事長。この大切な学園。お大事に・・・ね」
にこりと最後に刹那は微笑む。理事長は腰を抜かし、その場に倒れこんだ。だが、そんなの気にしない。気になんかする、はずもない。
「瑠華っ!」
その声に、瑠華は理事長室の扉を閉めた後、目を輝かせる。
「レナ。待っててくれたの」
「えぇ。当たり前じゃない。今日は買い物?に行くんでしょう」
黄金の美しい髪を風に乗せ、お人形のように可愛らしい顔は、ゆっくりと瑠華の手を取る。
「どこ行くんだ?」
刹那のその表情と、その言葉が、あまり一致しなかったことが気になる。顔は冷たい表情のまま、だが声はいつもの明るい刹那の声。
「えっえぇ。ちょっと庶民の遊びを体験するの」
あまり、気にする必要はないか。
「俺も行く」
「は」
「俺も、いくって。いいよね・・・レナちゃん」
なぜレナに聞くのかと首をかしげる。レナは一瞬動きが止まったが、いつもの笑顔で刹那に微笑みかける。
「ええ。もちろんよ東郷さん。いいわよね瑠華」
「あたしは、レナがいいなら」
ちらりと刹那の方向を見ながらそう答えると、刹那の顔が少し引きつる。まるで、誰かを睨んでいるような。
「どうしたの、東郷」
「なんでもない。さっ行こうよ」
「ほら、行きましょ瑠華」
二人にせかされ、瑠華は苦笑いをしてしまう。でも、この時、歯車が一致していないのは分かっていた。
分かってはいたけど、でも、嫌だったのだ。何もない、そう思うことにし、瑠華達は街へと出て行った。