NO.16『甦る過去3』
「ほら、楽にしてください?宮塚瑠華さん」
男は瑠華の額に手のひらを当てる。そして、言葉をはっする。
「見えてきますよ。もうすぐ・・・ね。ほら・・見えました?」
その言葉と同時に、今、瑠華は座っている地面も、もたれている壁も、すべての空間がねじれ、今、どこに座っているのかも分からないようになっていた。
声が・・・聞こえる。
『・・・気絶しましたね・・・どうしましょうか?まぁ、あの方は好きにしていいって言ってたしね。
でもね、別に私はあなたに特別恨みなど持っていないのですよ。だけど、それは別。私はね、あなたに消えて欲しいだけなのです。じゃないと、私は殺されるんですから・・・』
「・・・何?今の」
目を瞑ったまま、瑠華は問う。男は黙ったまま、手のひらにこめる力をわずかに強くして、そのままの状態で静止する。
『多分。来年同じ時。私はまたあなたを襲うでしょう。まぁ、こんな事を言っても、この状況を知れるのはその時ですけどね・・・。私はこんな術を使えるのですから。では、そろそろ失礼しますよ、宮塚瑠華さん。覚えておいてください。消えることを』
「・・どういうこと」
「・・・操るための、前置きとでもいうやつでしょうか。今あなたの頭に、死という文字を植えつけたのです。これを、思い出したとき、あなたが死ぬように」
聞いてはいけない、秘密の呪文。本当にそんな事があるのかと、確信がもてるくらい、自分の体は勝手に動く。
「すいませんね。だますみたいな形になって。私はあの時、あなたにもう、術をかけていたのですよ。そして、このことを、聞いた時・・あなたは消える。そうですよね」
しまった。瑠華はそう思い、なんとか動きを止めようとするが、何を思っても止まらない。頭の中に出てくる文字は『死』という一文字。
男から手渡された果物ナイフを、ゆっくりと、自分の心臓へとむける。
やめて・・・
でも、言うことを聞かない。
もう、終わりだ。自分はこんなにあっけなく死ぬのか。やはり、悲しい生き物・・・・。
「なぁーに、言ってんだ馬鹿。お前にそいつが殺せるか」
聞き覚えのある、男の声。瑠華の動きが一瞬止まる。
「せ・・・つな・・・」
小声で、そう言う。
「遅れてわりぃな、瑠華。これはこれは、手にナイフなんてもっちゃって。でも間に合ってよかったよ。じゃないと・・俺は人一人、殺さなきゃいけなかったからね」
男の顔が、凍りつく。
また、あの顔だ。まるで魔物の顔。美しい、魔の美貌。
「さっさと術解け。三年A組の、加藤重義さん?あんたの情報は入ってきてんだ。俺に潰されたくなきゃ、さっさとしろ」
重義はためらいながら、瑠華から手のひらをはずす。その瞬間、呪縛が解けたように、瑠華は首をななめに傾け、ナイフを下に落とす。
「・・・東郷。お前、なんで」
瑠華は苦しそうに息をしながら、周りを見渡す。
「んー、それは後。なぁ、加藤。あんたが慕ってる『あの方』。分かったぜ?お前のおかげで。サンキュ。遠慮なく、潰してもらうよ。これであんたら加藤も終わりだな。じゃな」
にこりと笑い、刹那は瑠華の腕を握る。
「よく、頑張ったな」
その微笑が、瑠華を少し落ち着かせる。ゆっくりと抱きかかえられ、よく考えるとお姫様抱っこ。
「おっお前、何してんだよ!」
「まぁまぁ、あっもうお化け屋敷終わってるよ?みんな慌ててた。瑠華様がいないって。多分これじゃサバイバルゲームは中止だな」
そう一人でしゃべり、あっけにとられている瑠華の顔を見つめ、微笑みながら歩き出す。
瑠華は気がつき、声をはりあげる。
「おっおい、下ろせ!何適当に流そうとしてんだよっ、聞いてんのか、東郷!」