NO.14『甦る過去1』
「こりゃ会えないな」
遠い向こうの壁を、暗闇の中で感じながら刹那はつぶやく。
「待てよ?」
刹那は少し考え、その壁をじつと見てみる。
調べたところに寄ると、瑠華は去年襲われている。暗闇の中で。それをしたのは夕維だった。だが一つおかしな点があった。それは、バックにもっと巨大なものがついていたということ。しかも、複数だったのだ。つまり、そいつらすべてが宮塚を狙っている。夕維はおそらくその下っ端だ。
「まさか・・・」
刹那は顔を上げ、何か思いついたように向きを変える。
夕維には釘はさしといた。でもそれはあまり意味のないこと。ましてやその上に居る奴らにはなんの関係もない。この『美コンテスト』は聖薔薇学園のイベントでも大きな方だ。
狙うなら、今・・・・。
その言葉が刹那の頭の中をよぎる。
「しまったっ!!」
刹那は血相を変え、辺りでうろついている男子達をのけて後ろへと全力で走る。
もしかしたら、間に合わないかもしれない。
そうも思った、が、なぜか体は自然と動く。まるで本能に、従うように。
「瑠華お姉さまっ!もう嫌です!」
入ってから約二分。もうこのお嬢様たちはびびって逃げ腰になってしまっている。
早いって。
瑠華は心の中でそう思いながらも後輩達の頭をなぜる。
「落ち着いて。十分の我慢よ」
そう言葉を発した時、左からお化け役の特殊メイクをした人間が出てきた。
周りの後輩はもう叫ぶしかない。泣き始める人もいる。
うざい。
「あんたな、こんなことしていいと思ってんのか。このお嬢ちゃん達をなかせるとはいい度胸じゃねーか。ちなみにあたしも切れ気味だから、あんまりこういうことしないほうがいいよ」
そう早口で言ってしまえばこっちのものだ。宮塚を怒らせることはあってはならない。ましてその宮塚の人間が早口でとてもお嬢様とは思えないような言葉を発しているのだ。向こうも言葉がでないだろう。その人間は何も言わなくなり、その隙に瑠華たちは通り抜ける。
入ってきて、一番に思うのは、やはり暗いこと。とにかく前が見えない。昔、家を抜け出して、遊園地に行ったことがあったが、その時に入ったお化け屋敷よりリアルに怖いかもしれない、と瑠華は少し慎重に足を進める。
「お嬢さん」
後ろで声がする。他の後輩は悲鳴を上げる。その瞬間瑠華はその声の方を向き、冷ややかに笑う。
「あんた、こんなことしていいと思ってるの?」
微笑みを浮かべてそう言うと、やはりもう手出しができない。
「ふん、つまんないの」
瑠華は独り言をつぶやく。
しかし、この暗闇は少し嫌いだ。過去にあったことを、思い出してしまうから。もう二度とあんなことあって欲しくないのに、なぜか不安が募る。お化けとかとは違う、人間の殺気。
瑠華は後輩たちより一メートルほど先にいた。
ほんの、一瞬の隙だった。後輩も、誰も見ていないほんのわずかな時間。瑠華はとっさに後ろを振り向いた。だが、遅かった。男が一人、瑠華の首に手を回している。
「なっ・・・!」
叫ぼうと瑠華は懸命に手を動かす。だが動かない。前と、同じ状況。それに、気をとられて一瞬判断が遅れたのだ。
過去ほど、怖いものはない。
瑠華はその時、そう思っただろう。
何個も部屋があるこの館の、一つの部屋へと引きずられる。
男は相当力が強いのか、瑠華がもがいても何も動かない。勢いよく投げられ、瑠華は尻餅をつく。
「てめぇ、何すんだよ」
つい男言葉になってしまう。だが、そんなことを選んでいる暇はない。
「こんにちは、宮塚さん。去年もこんなこと、ありましたよね」
男はにやりと笑い、瑠華の方へ一歩踏み出す。瑠華は壁にもたれ、身動きがつかない。
「あんた・・去年の?」
「さすが、怖がらないのはほめましょう。ですが、思い出したらどうなるか?去年。あなたはあまり深く考えないようにしていたでしょう。ですが、思い出してください?」
その男の声は、まるで催眠術のようで、自然と頭が動かなくなる。そして、過去の記憶が蘇ってきてしまうのだ。それが、瑠華が願っていることじゃなくても。
「・・やっ、やめろ!思い出させるな」
『思い出しては、駄目』
頭の中はそういっている。自分に、信号を出している。けれど、聞かない。脳が勝手にさかのぼるのだ、過去に。