NO.10『美コン3』
ついにやってきてしまった。美コンテスト。金持ち達のサバイバル・・・。
瑠華は黒いベンツの中でなにやら考えていた。
「母さんに、言われたしな」
そう、今日の朝、美コンテストを迎えるということで、母がまた部屋に入ってきたのだ。普段あまり入ってこないのだが、何かの始まりなどにはよく入ってくる。
『瑠華、私楽しみにしてるのよ?見にはいけないけど、ちゃんと一位になってくるのよ?』
あの言葉が、重い負担となってしまう。分かってはいる。なんたって宮塚の一人娘なのだから。世間からは完璧として扱われているのだ。きっちりと、一位をとらなければ。
瑠華はベンツから下り、深呼吸をする。
周りはいつものように瑠華を見ると、道を開け、口々に挨拶をする。
知的でクールなイメージを持つ瑠華は、叫んだりしては絶対にならない。いつでも表情を崩さず、冷静に判断しなければならない。
「おはよう」
その一言だけで、周りは和やかになる。特別明るいムードはいらないのだ、瑠華には。
だが、後ろのやつにはいるらしい。
「おっはよう、みんな」
その言葉に女子は声を上げる。
「キャー、刹那様、おはようございます!」
瑠華は後ろのざわついた空気を気にしないように歩く。だが、刹那は瑠華の隣に来てにこりといつものスマイルを向ける。
こいつも、みんなの前では猫をかぶっている。女好きだが、やさしい王子様。それを演じているようだ。
「あら、おはよう刹那さん。今日は美コンテスト・・楽しみね?」
「そうだな、まぁ、瑠華ちゃんが優勝してクイーンになったらキングは俺に決まりだね」
「がんばって」
笑顔を見せず、瑠華はさっさと歩く。今はそういうキャラなのだ。
さっさとどっか行ってよ。
内心はそう思っていた。
「ちょっと、刹那君。そんな笑いもしない子のなんかといて楽しいの?」
また来た。
瑠華は思わずため息をつく。周りはよほどこわいのか、挨拶もせずにその場から離れていく。
「やぁ、夕維ちゃん」
刹那はにこやかに挨拶する。
「ちょっと瑠華さん。優勝はこの私のものよ」
「まぁ、お互い頑張りましょう」
「あなたは頑張らなくていいのよ」
「手は抜きませんよ」
瑠華は冷たい微笑みを浮かべ、早歩きで校舎の中へと入った。
彼女も所詮、世間知らずのお嬢様だ。彼女は知らない。この世がそう簡単にはいかないことを。自分が言えば、何もかも出来るとでも思っているのだろう。
「何よ、あの態度は」
夕維は鼻をならし、刹那の方へと歩き出す。
「ねぇ、刹那君。もちろん私に票を入れてくれるわよね?」
刹那は夕維の目の前に立ち、しばらく考えにこりと微笑む。
「悪いけど、俺がクイーンにしたいのは、あんたじゃないから」
「なっなによそれ」
夕維は混乱したように刹那の腕を握る。
「だっ誰よ、その人」
「夕維ちゃんより綺麗で、賢くて、でおもしろい人」
その言葉に夕維は思い当たる節があったのか、刹那を思い切り睨む。
「・・瑠華ね」
「分かってるならわざわざ聞かないで。ねぇ、俺調べたんだけど、君、この前の美コンテストで、瑠華ちゃんに卑怯な手使ったんだって?」
「なっ卑怯って・・」
「他のボディガードに襲わせたんだって?瑠華ちゃんを」
夕維はまるで信じられないという風に後ろへと下がる。
「まさか・・私に近づいたのって」
「そ、情報を得るため。じゃなきゃてめぇみたいなのに近づくわけねぇだろ。ねぇ、夕維ちゃん」
刹那は今まで見せたこと無いような冷酷な顔をし、夕維に詰め寄る。
「今度、瑠華ちゃんに何か卑怯な手、使ってみろ。あんたの華道。俺が全力でつぶしてやる」
そう言い放ち、にやりと笑った姿はまるで悪魔。人一人殺していそうな殺人者の顔。
「じゃ、ね。夕維ちゃん。美コン、がんばろーね」
にこりと元通りの笑顔で夕維を見る。だが、もう夕維に笑うことは出来なかった。その場に立ち尽くし、動けなくなってしまっていたのだった。