NO.9『美コンテスト2』
「瑠華ちゃん。帰り、どこか寄るの?」
瑠華はびくっと体を凍らせて、後ろを向く。
くそ。さっさと帰ろうと思ってたのに。
「関係ないでしょう、刹那さん」
「いいじゃないか。色々と知ってる中だもん、ね?瑠華ちゃん」
「何もないわよ」
刹那は耳元でぼそっと言う。
「いいの?言っても」
まじで、うざい。
舌打ちをし、瑠華は刹那ににっこりと微笑む。その微笑が怖かったのか、刹那はたじろぐ。
「悪いですけど、私は一人で買い物をしたいのです」
「買い物?どこに行くの?」
「聞いてないわね・・・。あんたには関係ないってば」
「いいじゃんいいじゃん。さっ行こ。じゃあみなさんさようならぁ」
刹那が手を振ると周りの人間はすぐにお辞儀する。
「さようなら、宮塚様、東郷様」
取り巻きたちはさっと身を整え、声を張り上げる。瑠華も軽く微笑み、刹那はにこりとして手をふった。
「ほんと、変わってるよなこの学園」
「美コンなんかがある時点で変わってるわよ」
つんと瑠華は早歩きのまま答える。それでも刹那は喋り続けながら同じスピードで歩いてくる。
「ちょっと、ついて来ないでよ。あんた車は?」
「用があるから来なくていいって言った。なぁ、何買いに行くんだよ」
「・・別に何も」
「あ、分かった。美コンのための服だろ」
瑠華は急に立ち止まる。
なんでばれてんのよ・・。
「なんで知ってんの」
「分かるって、普通に」
大通りを抜けたすぐ近くに、瑠華の行きつけの服屋がある。もちろん、高級ブランドが売っている場所だ。そこはセレブが通う、セレブの街だ。聖薔薇学園から徒歩で十分。車を使うのもめんどい瑠華は、歩きで来ることが多い。
「へぇ、こんなとこにあるなんて知らなかった。知ってる人は、知っている店だね」
周りを見渡し、感心したような顔をする刹那を、瑠華はほっといて店へと入る。
「あっ・・いらっしゃいませ、宮塚様。ご来店有難うございます」
店員や店長までが瑠華を見た途端、顔色を変えたように傍に駆け寄る。
「そちらは・・・」
店員の一人が刹那の方をちらりと見て問う。
「あぁ、これは東郷財閥のお坊ちゃんなの。まぁ、気にしないで」
「まぁ、東郷財閥?!それはそれはようこそいらっしゃってくださいました。どうぞご自由に見回ってください」
「ありがとう」
いつもの御曹司ススマイルをすると、店員は頬に手を当てて眺める。
「今日はちょっとドレスを買いに来たの」
瑠華の言葉で元に戻った店員たちは急いで探し始める。
「ドレス、でございますか」
「そう。とっておきのね。色は、白。アクセサリーは金。選んでくれるかしら」
「かしこまりました」
そういい、店員五人は慌ただしく店内を探し始める。
ここいいね。なんか雰囲気が。綺麗だし」
刹那は満足そうに傍にあったソファに寝転ぶ。瑠華はあっそ、と小声で言って、じっと店内を見つめる。
「こちらはどうでしょう。有名なデザイナーが作ったパーティドレスです。色も純白ですが。レースはアメリカのデザイナーが限定品として作ったものを使用している、当店一番のものでございます」
「ひょー。まるでお姫さんだね」
「あなたは黙ってて」
瑠華がぴしゃりと言い放ち、ドレスをじっと見る。確かに、いい素材だ。ドレスにも宝石がちりばめられている。
「ついている宝石はなになの?」
「もちろん、ダイヤでございます」
「へぇ」
さすがの瑠華でも見入ってしまう。まさに最高のドレス。最高の作り。
だが、これを着ることに抵抗は瑠華にはない。たまにお嬢様にはあるが、最高のドレスを着ていても、それに見合う自分の価値というものを知っていなければならない。いくらいいドレスを着たって、そのドレスに自分が負けていれば意味がないのだ。
それでも、瑠華はこんなものを買うのだ。それは、自分の価値を、分かっているから。
「じゃあ、これでいいわ。アクセサリーは?」
また店員たちが騒ぎ出す。
「さすがだね・・瑠華ちゃん。そのドレス買うなんて」
刹那はにやりと笑いながらソファから腰を離す。
「悪い?これでも私は自分の価値、知ってるのよ」
「それはそれは。ますます君が好きになるよ。自信がある女の子は好きだからね」
「あんたが相手してた女と一緒にしないで」
「それはすまない、姫様」
そんなことを言ってる間に店員が瑠華の方へ歩いてくる。
「ネックレスと、指輪とブレスレットでよろしかったですか?」
「えぇ、いいわよ」
「それでは、こちらは。これもダイヤのネックレスです。六カラットのダイヤを一個、後はすべて三カラットです」
「ぜんぶで何個?」
「十五個でございます」
それはそれは。
金色の紐に、真ん中に六カラットのダイヤ。その周りに三カラットのダイヤがちりばめられている。
もちろん、普通では買えない品物だ。
「まぁ、それでいいわ。後は適当に入れといて。ああ、ネックレスはこれでいいけど、ブレスレットは三つ、指輪は二つね」
「分かりました、宝石はどれに」
「ダイヤメインで、ルビーとサファイヤでいいわ」
「かしこまりました」
店員はいたって普通の営業スマイルをし、他の店員に包みを指示する。
「おい、いいのかよ。店員に選ばして」
「めんどうだもの。ここの店員はちゃんとあたしに合ったものを選んでくれるわ。だからよ」
刹那はへぇ、と感心する。
「お会計失礼します、お値段は・・こちら・・・・でございます」
「なっ高!!」
瑠華ではなく、刹那が叫ぶ。まるで庶民の反応だ。瑠華は少し恥かしそうに睨み、カードを出す。
「そっそんなに服にいるのかよ」
刹那は呆れ顔だ。
「男には分からないでしょうけど、女の服は金がかかるのよ」
「たかが美コンに億単位かよ」
「悪い?負けるのだけは、プライドに触るの」
刹那はじばらく沈黙し、ふふっと笑い出す。
「確かに、瑠華ちゃんらしいな」
そうして、億単位の金を支払って、瑠華達は店を出たのであった。
何円払ったかは・・ご想像にお任せします(笑)