嘘
組織の幹部名、人数、拠点地、改造人間の使用用途……尋問内容は全て判明している事実だった。
何なんだ。一体何なんだ。
分かりきっていることを再確認しているだけで、重要なことは何一つ任務に入っていないじゃないか。組織は一体何を考えているんだ。
男はニコニコと始めから変わらぬ笑顔で質問に答え、勇珠の鼻のあたりを見ていた。
「……」
結局分かったのは個体数だけで収穫はなしだ。
事前に渡されていた尋問リストをすべて頭に叩き込んでいるが、いつもは信頼できる自分の脳が信用できなくなった。
本当に終わったのだろうか?
何も言えずに目線を左に逸らす。
「さて、尋問は終わったみたいだけど。帰らないのかい?」
重罪人は机に肘を立て、口元に手をやった。
勇珠は動かない。いや、動けないという言葉が正しいだろう。
男の瞳孔はしっかりと勇珠を映している。ターコイズに意味もなく身体中を縛られているような、そんな感覚が手を、足を、呼吸さえ停止させるような感覚に勇珠は少しばかり焦っていた。
「あーあ……。こりゃダメだね」
はあ、と鼻でため息をしながら男は足を組んで小さく伸びをした。コキコキと背骨から音が聞こえる。
「俺も随分とナメられたものだねぇ……。未熟で、しかも尋問型でない君を俺の
尋問官にするなんてさ」
ひどい話だと思わないかい、男は口先で嗤った。
未熟者は不快そうに眉間にしわを寄せた。
「見下し上等だ。貴様ら科学者にとって我々は道楽の結晶だろう」
「ハハッ、いいねぇ。道楽の結晶か……。悪くないよ」
「チッ……」
こいつが犯罪人でなければ今すぐにでも殴りたい。
嫌悪感丸出しにして睨むが、奴は笑顔を崩さない。嘲笑っている様にも見える。
気色悪い。
殺したい。
今すぐにでも殴りたい。
乱暴に立ち上がった。
「おや?どこにいくんだい?」
問いかけられる。
「俺の任務は終わった。貴様に付き合っているほど暇ではない」
冷たく言い放つと男の笑顔が崩れた。
焦ったように席を立ち勇珠の右腕を掴む。
「本当に?」
「俺は臨時の尋問官だ。上に報告しなければならない」
「それは変だな」
掴まれた右腕が圧迫されて痛い。
この痩せ細った男のどこにそんな力があるのかと思うくらいの力だ。
何を言っているんだ、と眉をひそめた。
男は先ほどの笑みを浮かべ、机から身を乗り出して小声で言った。
まるで誰かに口元を見られないように、声を聞かれないように。
「そもそもおかしいんだよ。
君のような経験のない人造人間がA級犯罪者である俺と話ができること自体がね。組織は経験の浅いものは信用しない」
「これは俺の推理だけど、君は誰かに手引きをしてもらって臨時尋問官になるために経験を横取りしたんじゃないのか?そこまでして俺に聞き出したいことがあるんじゃないのかい?
君個人として」
顔をさらに近づけ、にんまりと笑ってから男は核心の一言を言い放った。