昔の悪行が蒸し返される各戸高等学校
ヤヤの過去の悪行暴露編です
その学校、都立各戸高等学校は、比較的普通な学校で、較達が来たのも、次の学校までの場繋ぎであった。
しかし、そんな学校で、較が非常に困る事態に陥る事になるのであった。
「平和な学校だね」
良美の言葉に、ぬいぐるみを作っていた較が頷く。
「当たり前、そうそうトラブルが起こるわけ無いよ」
そんな較に良美が竜夢区の方を向いて言う。
「うちの中学校も、平和だと思ってたけどね」
痛い所を突かれた顔をする較。
そんな二人の所に、クラスメイトの女子が近寄ってくる。
「白風さん、ぬいぐるみを作れるんだ?」
良美が胸を張って答える。
「腕前は、プロ級だぞ」
「凄い、あたしも教えて欲しいな」
その子の言葉に、較が答える。
「良いよ。家に寄らせてもらえば、家にある道具で簡単に作れるぬいぐるみを教えてあげる」
すると、その子は、躊躇する。
「うちは、お兄ちゃんが居るから……」
言葉を濁すが、良美が強気に言う。
「気にしない気にしない。森本の所に行こう」
こうして、良美の強引な発言で、較達は、クラスメイトの女子、森本妙子の家に行く事になった。
帰り道、良美が先を歩いている所で、較が妙子に小声で尋ねる。
「迷惑じゃなかった?」
複雑な顔をして妙子が言う。
「あたしは、別に良いんだけど、お兄ちゃんが二人に不快な思いをさせるかもしれない」
較が微笑する。
「それだったら大丈夫、ヨシは、不快だったらその人にぶつけて発散するから」
軽く顔を引きつらせる妙子。
そんな三人の前に一人の学ランの男子が現れる。
「妙子、そいつ等は、友達か?」
「転校してきた、大門良美さんと白風較さん。こっちが、お兄ちゃんの森本勉です」
妙子の説明を聞きながら良美が上から下まで見て言う。
「格闘技をやるよね? あたしは、これでも中学時代は、空手で全国大会に出たことあるんだよ、一手やらない?」
武闘派の良美の言葉に勉が苦笑する。
「残念だが、女子供と交える拳は、持ってないんだ。それに、俺のは、実戦派だ。学生のオママゴトと一緒にされても困る」
「何でだって!」
良美が闘志を燃やすが、直ぐに較が止めに入る。
「駄目だよ、ヨシ。すいませんでした」
頭を下げる較、そして勉が言う。
「それより、親父を知らないか? 久しぶりに一手交えたいんだがな」
暗い顔をする妙子。
「駄目だよ、お父さん、もう戦わないって言ってるもん」
勉は、反論する。
「馬鹿を言うな! 親父は、生まれながらの闘士だ! 絶対にもう一度戦える様になる!」
首を横に振る妙子だったが、勉は、取り合わずその場を離れるのであった。
較達は、妙子の部屋に入って、ぬいぐるみの指導を始めた。
単純作業に入った所で良美が言う。
「さっきの話だけど、貴女のお父さんが戦えないって、試合か事故で体を壊したの?」
妙子は、自嘲気味な笑みで答える。
「数年前、あたしが小学校の頃、当時のお父さんは、手のつけられない乱暴者だったの。全てを拳で解決させるタイプで、仕事も長続きしなかった。酒を飲んでは、闘士として一旗あげると言ってた。それが、ある非合法な戦いで重症を負った後、戦いを避けるようになったの。それからは、真面目に働く様になって、お母さんやあたしは、安心なんだけど、お父さんに憧れていたお兄ちゃんが、納得がいかないみたい」
「少しずれてるよ」
興味なさげにぬいぐるみの作り方に指導を出す較。
「少しは、気にならないの?」
良美の言葉に較が遠い目をして言う。
「人生そんなもんだよ、現実って壁にぶつかり、普通の道に落ち着いていく、良い事じゃない」
「まるで自分は、真っ当な道を歩いているみたいな口ぶりだね」
良美の言葉に較が顔を逸らす。
「さて続きだけど……」
その時、扉が開き、一人の男性が入ってくる。
「妙子、友達が来てるんだってな? お菓子いるか?」
「お父さん、気にしなくても良いよ」
妙子の言葉に、その男性、妙子の父親、岩男は、微笑みながら娘の友達に視線を移した瞬間、飛びのく。
「何でお前がここに居るんだ! 俺は、もうバトルから手を引いたんだ!」
取り乱す岩男に戸惑う妙子。
「お父さん、どうしたの!」
近寄ってきた妙子を背中に隠し、岩男が土下座をする。
「お願いだ、娘だけには、手を出さないでくれ!」
事情を察知した良美が視線を合わせようとしない較に言う。
「詰り、森本のお父さんと戦いってトラウマを負わせたのってヤヤだった訳だね。どんな酷いことをしたの?」
「森本さんのお父さんには、そんなに酷いことは、してないよ」
顔を向けない較を良美が問い詰める。
「正直に白状しな」
較がため息を吐いて話し始める。
「あれは、まだあちきも小学校の頃だね……」
小学校六年生の較は、赤いランドセルを背負って下校途中であった。
そこに現れた一人の男、バトルで名を上げようとした森本岩男であった。
「お前が有名な最強の鬼神の娘だな?」
小学生の較が頷く。
「そう、対戦相手の人だよね?」
岩男は、不敵な笑みを浮かべて言う。
「お前を倒し、お前の父親を引っ張り出す。そして、お前の父親に勝って、最強の名を貰い受ける!」
地面が陥没するほどの踏み込みから放たれる正拳。
常人の域を超えた拳であったが、小学生の較でも常人の域など遥かに超越していた。
『アテナガントレット』
片手でそれを受け止める。
「正面からやりあうなんて久しぶりだね」
「受け止めたか、親の七光りじゃないようだな!」
岩男は、そのまま膝蹴りを顔面に向けて放つ。
『アテナヘルメット』
小学生の較は、額でそれを受けて、逆にカウンターダメージを与える。
怯む岩男に接近し、両手をお腹に当てる。
『バハムートブレス』
激しい衝撃が岩男を襲った。
そのまま壁に激突し、岩男は、ダメージから動けなくなったのを見て小学生の較が言う。
「次は、もう少し準備して来なよ」
「待て! 情けなどいらねー、止めを刺していけ!」
岩男が叫んだその時、銃弾が小学生の較のコメカミに直撃した。
岩男が弾道の元に向かって激怒する。
「お前等は、手出ししない約束だろうが!」
それに対して、岩男と協力関係にあった男達が苦笑する。
「馬鹿言うなよ、こいつに勝てば大金が手に入るんだ。お前を無力化して油断した、こいつが悪かったんだよ」
邪な心がそのまま出てきた笑みに岩男が吐き気を覚えた時、それは、起こった。
「あんたらは、正面から来る気ないみたいだね」
小学生の較が平然と男達の方を向いた。
顔を引きつらせる男達。
「冗談だろ? 頭に銃弾が直撃したんだぞ……」
小学生の較が嬉しそうに言う。
「やり足らなかったから、丁度良い」
消えたとしか思えないスピードで男に近づくと拳銃を持った手をそのまま握りつぶす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げる男を無視して、その隣の男に腕を掴む較。
『グリフォンクロー』
男の腕があっさり引き千切られた。
大量の返り血が降り注ぐ中、残った男達を見て小学生の較が告げる。
「逃がさないよ」
そこからは、描写するのも悲惨な地獄絵図であった。
岩男は、赤いランドセルを背負った自分の娘より小柄の少女が大人の男達を一方的に破壊する一部始終を見てしまった。
そして、岩男の闘士としての心は、折れてしまった。
「正面から来た、岩男さんとは、普通に戦ったんだよ。あちきが壊したのは、下手な不意打ちしてきた奴らだけなんだよ」
較の言い訳とは、言えない言い訳を聞きながら良美が言う。
「普通の人は、人が破壊される所を目撃したらトラウマになるな」
娘を必死に庇いながらも震え続ける岩男を見て較が言う。
「えーと、良い精神科の先生を知ってますよ、治療費は、あちきが持ちますから掛かっては、如何ですか?」
近づくと両手で顔を覆い泣き出す岩男。
「許してくれー!」
「お父さん、落ち着いて!」
妙子が必死に落ち着かせようとするが、混乱は、強くなる一方であった。
較は、諦めた顔をして、高速で近づき、額に指を当てる。
『セイレーンファインガー』
意識を失う岩男。
「お父さん!」
妙子が慌てるが較が言う。
「眠らせただけです。部屋まで連れて行きますから」
そこに勉が来た。
「おい、何を騒いでるんだ?」
「お兄ちゃん、お父さんが混乱して……」
妙子が困った顔をするのを見て勉が舌打ちする。
「ここ暫く無かった、また例の発作か……。こっちで預かる」
勉が岩男を受け取り部屋に連れて行く。
そして、勉と妙子が岩男を部屋に寝かせた後、リビングで経緯を聞いて、勉が憎々しげに較を見る。
「お前が親父をあんなにしたのか!」
困った顔をする較。
「まー正直、若気の至りって感じですが、そうです」
「俺と勝負しろ! 親父の仇は、俺がとる!」
勉の言葉に妙子が必死に止める。
「話を聞いてなかったの! この人は、化け物なのよ! お兄ちゃん殺されるよ!」
「妙子、失礼な事を言っては、駄目ですよ」
妙子達の母親、雛罌粟が頭を下げてくると較が思いっきりばつの悪い顔をする。
「えーと治療費等が必要でしたら、言ってください、これでもお金は、ありますから」
雛罌粟は、首を横に振る。
「あの人も全て承知の上で戦って、負けてああなったのです。哀れみは、要りません。お帰り下さい」
それは、勉の様な怒りでもなく、妙子の様な感情的な否定でもない、全てを認めた上での拒絶に較は、何も言えずに森本家を後にした。
「落ち込んでる?」
良美の言葉に較は、素直に頷く。
「あちきってガキだったと思って」
良美が明るく言う。
「今だって同じ様な事をしてるじゃん」
較が首を横に振る。
「今は、ああやって責められる事も覚悟の上でやってる。それが必要だって解っているから。でもあの頃は、違う。ただ戦うために戦っていたよ。その結果、周りの事も考えずあんな人を生んだ。本当に何やっていたんだろうね?」
良美が較の頭を叩きながら言う。
「あのねー、十六のガキが大人みたいな事を言わない。もっとガキだった頃の失敗なんて、本当に大人になってからするもんだぞ」
較が少し微笑んで言う。
「ありがとう。ヨシと出会えてあちきは、幸せだよ」
「お礼に今日の夕食は、豪華に外食な」
のんきな良美の言葉に較が×を出す。
「家で小較が待ってるから駄目だよ」
「小較も呼べば良いだろう!」
しつこく外食しようとする良美とふざけ合う較であった。
「勝負しろ!」
較の机に果たし状を叩きつける勉。
ざわめくクラスメイト達、較は、席を立つと、次の瞬間、勉は、頭から床に落ちていく。
ぶつかる直前に止まる。
「勝負を挑むのだったらせめて、今の動きくらい対応出来ないとね」
較は、優しく勉を足から床に降ろし、席に着く。
勉は、悔しそうに駆けていく。
「あれは、また来るぞ」
良美の言葉に較は、頬をかきながら言う。
「自業自得だから仕方ないよ」
良美は、妙子の方を向くと、妙子は、強い拒絶を示す様に前を向く。
「荒療治が必要みたいだな」
良美が何かを決心した。
森本家の庭で良美が言う。
「ヤヤには、妙子のお父さんと戦ってもらう。それも本気で」
較が困った顔をする中、妙子が言う。
「どうしてそんな事になるんですか!」
良美が答える。
「正面から戦うことで、ヤヤの本質を解ってもらう為。あの頃は、ともかく、今のヤヤは、怖いだけじゃないから」
怯える岩男が激しく首を横に振る。
「こんな化け物と戦えるか!」
それに対して較が言う。
「そう、でも勉さんから勝負を挑まれてるから、いずれ本気で戦うかもね」
その一言に、岩男の震えが止まる。
「駄目だ! あいつは、俺の夢なんだ! それだけは、あいつだけは、俺が護る!」
岩男が打ち込んでくる。
紙一重でかわす較。
「腕を格段上げてるね、力だけで押すだけのあの頃とは、違う。洗練された突きだよ」
流れるような動きで服を掴む岩男。
較は、相手の力に逆らわず、投げられると同時に、空中で体をひねり、相手を巻き込むと投げ返す。
それでも岩男は、受身をとって立ち上がる。
「負けられない!」
強烈な下段蹴りを放つ岩男。
『アテナレッグアーマー』
較は、脛で受けると岩男の足から骨にダメージが出た音が聞こえた。
しかし、その足を地面につけるとその反動で逆の足で上段蹴りを放つ岩男。
較は、体勢を低くし足払いを掛ける。
岩男は、空中で体を回転させてハンドスプリングで間合いを空ける。
だが、較は、後ろに回っていた。
較の右手が岩男の背中に当たる。
『バハムートブレス』
岩男が吹っ飛び、勝負が決まった。
「親父、確りしろ」
勉の声に、意識を失っていた岩男が目を覚ます。
「勉、あれと戦うな」
「何でだよ、親父の仇は、俺が絶対にとる!」
勉の言葉に岩男が怒鳴り返す。
「黙れ、俺は、まだ終ってない! 絶対にあれに有効打を入れてみせる。俺は、まだまだやれるんだ!」
意外な回答に驚く勉に岩男が告げる。
「今日はっきり解った、俺が怖がっていたのは、あれじゃない、負ける恐怖だ。そんなの誰だって持っている。それでも全力を尽くし、戦えばその後には、続く者が居る。お前の出番は、俺が終った後なんだ」
強く頷く勉であった。
「恨んでるんだからね」
お昼を一緒に食べる妙子の言葉に較が言う。
「理解してます、父親を病院送りにされて恨まれないとは、思っていません」
妙子が首を横に振る。
「そっちじゃないよ。お父さん、白風さんと戦う為に、折角続けてた仕事を辞めちゃったんだよ。これからは、もっと時間に余裕が出来、トレーニングになる重労働に変えるって言ってる。それで来月からお小遣い減るんだからね」
「それは、大変だ、割の良い仕事を紹介してやれば?」
良美の言葉に較が遠くを見て言う。
「人間、真面目に働くのが一番だよ」
比較的平和な高校生活を送る較達であった。




