不闘者に狙われる富士芸能学園
芸能界のストーカートラブル? あの英志の兄、不闘の映市が登場します
その学校は、芸能人が多く通う富士芸能学園。
簡単に言えば、馬鹿でも通える学校。
そこに通う、イブニング娘のスジちゃんのローアングル撮影予告文章が届いたのだ。
「なんで、あたし達が転校する羽目になったの?」
良美のごく当然の突っ込みに較が遠い目をして答える。
「あちき達は、色々と大事にし過ぎてて、減点が多くてね、ここら辺でオエラさんが個人的にファン倶楽部に入っているアイドルのストーカー退治でもして得点を稼がないといけないのよ」
「ゴマすりでやるの? そこらへんは、ヤヤの権力でどうにかならないの?」
良美のクレームに較も溜息を吐く。
「そうしたいのは、山々なんだけど、ヨシのお母さんから何重にもそういう事してくれるなと言われててね。何故か希代子さんと顔見知りらしく、こっちの件で無茶なテコ入れしたら発覚するルートが出来てるのよ」
「そういえば、ヤヤの両親も地元の学校に通ってたんだもんね。知り合いでも不思議じゃないね」
ヨシも諦める。
「そういう事で今回は、正攻法で、お偉いさんの使い走り。なに、どんなストーカーだか知らないけどさっさと片付けましょう」
正攻法と言いながら、立派な裏工作をする較。
「頑張るか」
あまり考えない良美も納得して、問題の学校に到着する。
「もー本気でウザイのよ」
同級生の女子を小間使いのようにしているスジちゃんに良美が言う。
「一発殴っていい? そんくらい揉み消せるよな」
「だから、それやると希代子さんからばれるって」
較が抑える。
そんな二人を余裕たっぷりな態度で見下しスジちゃんが言う。
「中学で空手やってたか、どうだか良く知らないけど、早くこいつをボコってよ」
そういってファンレターを床に投げつける。
「やっぱり、一発殴っとこうぜ。その方が本人の為になる」
良美が怒っているのを抑えながら較が問題のファンレターを指差す。
「ほら、とりあえず、トラブル解決を優先しようよ」
良美は、舌打ちしてファンレターを拾う。
「えー、『僕は、あなたの大ファンです。貴女の全てを撮りたいのです。僕は、予告します。次のイベントの時、ローアングルから貴女の下着を撮ることを』って最低なカメラ小僧だな」
「そうなのよ、そういう困ったファンが多くて。事務所の人間も色々やってくれるんだけど、トラブル対応が得意なんでしょ? とっとと見つけて」
スジちゃんの横柄な態度に良美の怒っているのを気づきもしないスジちゃんがファンレターの一枚を指差して言う。
「こんなへんな町の名前みたいな奴なんて直ぐ捕まるでしょ」
何気なく較がその名前を見て動きが止まる。
「谷走映市こんな所まで手を出していたか!」
いきなりの怒気に場が凍りつく。
「誰?」
良美の言葉に較がファンレターを握り締めながら言う。
「谷走鏡は、知ってるよね? その従兄弟の一人」
良美が手を叩く。
「そうなると、八刃の本家系の人間じゃん。偉いんじゃないの?」
較がこぶしを握り締めて言う。
「三兄弟で、次男の英志さんは、父親に代わって次期長になるとさえ言われている秀才で、今は、イギリスに執事の留学中。三男の栄蔵も立派な人なんだけど、この映市だけは、特大の問題ありなのよ」
「ヤヤを筆頭に、八刃の人間に問題ない人が居るの?」
良美の突っ込みを無視して較が説明を続ける。
「覗きに盗撮、八刃の集まり等で奴がしでかした悪事の数々、奴を殺すためなら、八刃の女性陣が一致団結するよ」
黒い闘志を燃え上がらせる較にスジちゃんが顔を引きつらせて言う。
「何? もしかして大変な事になってない?」
良美が苦笑して言う。
「何か知らないけど一番の貧乏くじ引いたみたいよ」
東京ドームその中央に特設ライブ装置が設置されていた。
大量の女性スタッフが動く中、スジちゃんが顔を引きつらせて言う。
「どうなってるのよ、昨日の今日でどうしていきなりソロコンサートイベントが開催されるのよ!」
協力に来ていた、双子の少女、姉の谷走右鏡が言う。
「当然よ、あの谷走家の恥の塊、不闘の映市を捕縛するチャンスの為なら、この程度のイベントくらい、開催されるわ」
隣の妹、左鏡が静かに怒りを込めて言う。
「力こそ全ての八刃に生まれながら、戦わず、逃げ続ける映市に八刃の女性陣の怒りは、限界を超えてますから」
そこに霧流家の長の娘、七華がやって来て報告する。
「間結の結界の上に、お母さんが、空間閉鎖したから、もう谷走の技でも逃げ出せないって」
そこに良美が来て言う。
「今日の観客って全部、サクラって本当か?」
右鏡が頷く。
「そうよ、八刃か、その関係者で、戦闘能力を有してる者だけ。絶対に逃げられない包囲網だよ」
スジちゃんが悲鳴をあげる。
「冗談でしょ! 東京ドームを貸しきって、お客さんまでサクラにしてそんな事をしたらいくらかかると思ってるの!」
「実際、いくらかかってるの?」
良美が細かい作戦の詰めに入っていた較にふる。
「聞かないほうが良いよ。特別な機材も使ってるから億単位の金が紙一枚で動いてるから」
較が何気なくスタッフに渡した紙をスジちゃんが見てしまう。
「……大掛かりなびっくりだよね?」
良美が苦笑して言う。
「軍事と八刃は、予算の桁が違うって話をよくきくよ。実際、そんだけのお金を何処から捻出してるのか?」
左鏡が少し考えながら言う。
「能力使って地上げ屋土地転がし、神社や仏閣が手におえなくなった化け物の始末をとんでもない暴利で受けたり。経営してる会社もライバル会社を陥れる為に、平然と能力使うって聞いてます。一万回に一回しか起こらないだろう事故を、運勢コントロールで起こして、信用を失墜させたって話がありますからね」
「それって問題にならないの?」
スジちゃんのストレートな疑問に右鏡が答える。
「八刃がこのレベルで金儲けしてる間は、文句を言わない。だって、その気になれば地震だろうが天災だろうが自由に起こせそうな人間が山の様にいるから、下手に突っつけない。ちなみに、あそこに居るのがその一番の候補者」
較が指差される。
「冗談よね?」
スジちゃんが涙目で質問すると誰も否定しない。
左鏡が大きく溜息を吐いて言う。
「地球ってここ数年、元の大きさより小さくなってるって話があります。もちろん誤差の範囲なんですが、一度も大きくなった事が無いそうです。それもヤヤさんがトラブルを起こすたびにその小さくなってる数値が僅かずつ増えてるって話です」
「それってホワイトファングの影響だろう? いつも言ってるからな、大地に向かって撃つと、地球が削れるって。南極のあのクレータ分の質量は、どこいったんだろうな」
良美の平然とした言葉に、固まるスジちゃんであった。
東京ドームの外、八刃女性陣による、見回りの中、空間が開く。
「本気で行くんですか?」
空間の中から、まだ小学生の少年が問いかける。
それに対して、そのカメラを持ったまだ二十歳前後の男が答える。
「男には、やらないといけない事があるんだよ、一刃くん」
「映市さん、やっぱり貴方は、男の中の男です! 応援しています!」
その強い決意を持ったカメラを持った男、谷走映市の横顔に感動する七華の兄、一刃であった。
「僕は、きっとやり遂げてみせる。そして応援してくれた人々に、その成果を送る」
映市の言葉に一刃が応援する。
「期待して、待っていますからね」
一刃の異世界移動を利用した輸送で、鉄壁の包囲網に潜り込むことに成功した映市。
「こっから先は、危険だ。合流ポイントは、指示した所で」
「はい。解りました」
一刃が頷き、空間の穴に消えていく。
そして映市は、素早く女装する。
「女だけにすれば、発見し易いなんて甘いわね」
完全な女装である。
そのまま、映市は、スタッフに紛れ込むのであった。
「今日は、あたしの為にありがとう」
弱々しく台本通りの台詞を言うスジちゃん。
当然、会場は、殺気に包まれていて、とてもアイドルのライブ会場とは、思えなかった。
そんな中でも、契約なので泣く泣く下着の見えそうなスカートで歌って踊るスジちゃんであったが、傍で見張っていた較が動いた。
「そこまでよ、映市! 『オーディーン』」
セットの柱を切り裂く較の手刀をスタッフのふりをしていた映市が避ける。
「どうしてばれたんだ?」
較が油断無く構えて言う。
「気配も動きも完璧な変装だった。あんたの事だから、貴方を探すのは、不可能と思って、スジちゃんの下着からの反射光に気を送ってた。それで、漏れ出しもしなかった貴方の助平な気配を捉えたんだよ」
周囲を取り巻く殺気に映市が高笑いをあげる。
「甘いな、見よ、これが僕の奥義だ!」
次の瞬間、無数の影法師が立ち上がり、超小型カメラで東京ドーム中の女性の下着等の恥ずかしい写真を撮り始めた。
『万華鏡影撮』
技名を高らかに宣言し、勝ち誇る映市。
良美が、自分の足元の影法師を蹴りつけながら言う。
「何なんだよ、これは!」
較が思いっきり呆れた顔をして言う。
「相手の城や基地に侵入して、情報を入手する技。正直、ここまでの数を同時に操るのは、天才的といっても良い。でもね」
較は、指を鳴らすと東京ドーム全体が強烈な照明で照らされる。
「この為に、影を弱らせる強烈な全方向からのスポットライトを用意しておいたの。因みに、一機で数十万から数百万単位。今回の作戦の費用は、映市が労働で返して貰う事になってるからね」
流石に怯む映市。
「さすがは、白風の次期長だ。今回は、僕の負けだ。だが次こそは、イブニング娘のスジちゃんのローアングルショットを撮る」
そのまま、床の割れ目の影に吸い込まれていく映市。
「『影走』で逃げるつもりかもしれないけど、地下を含めた全領域に結界があるから、逃げられないわよ!」
較が怒鳴り、八刃の女性陣も追撃に出るのであった。
翌日の学校。
「結局逃げられたね」
良美の言葉に較が舌打ちする。
「一部の八刃の男性陣が裏で協力体制を作ってたらしい。逃げ回るチキンなのに何故か男共には、人気があるのよ」
因みに校庭では、捕まった一刃が罰当番として、誰も使ってないグラウンドの整地を行っている。
「次こそは、絶対に捕まえるから、協力お願いね」
較がそういって逃げ出そうとしているスジちゃんを見る。
「もう嫌です! あんな怖くて、非常識で、恐ろしいライブは、やりたくありません!」
泣きが入るスジちゃんに較が宣言する。
「プロダクションやテレビ局の方には、圧力かけてこっちの作戦を優先するようにしてあるから」
「誰か、助けて!」
スジちゃんの泣き叫ぶ中、映市と八刃女性陣との戦いは、数回繰り返され、スジちゃんが一生ズボンしか履かない宣言をし、ローアングルの意味がなくなり、再び雲隠れする映市であった。
一度もまともに戦わず、多くの猛者を葬り去ってきた八刃女性陣を振り回す男、不闘の映市。
彼が次に較の前に姿を現すのは、いつの日か?