非常識に負ける率繰大学付属高校
較が久々にマジでバトルしています
その学校は、運動系と理数系がメインの学校で、文武両道をうたっている、率繰大学付属高校。
スポーツ科学がメインで、科学的にどれだけの成績があがるかがこの学校での重要課題である。
その学園にいま、怪奇現象が発生していた。
「ドッペルゲンガー?」
問題の高校に行く車(ヤヤが運転手込みで手配した)の中で良美が聞き返す。
「そう、この学校の格闘技系の生徒が、ドッペルゲンガーと遭遇し、戦って怪我したんだって」
較は、呆れた顔をして言う。
良美も深く頷く。
「それは、不甲斐無いな。同キャラ対戦で負けるなんて才能がない証拠だ」
較が頬をかきながら言う。
「実際は、戸惑っていたって言うのが、本音だろうけど、このドッペルゲンガーの正体が問題だね」
良美が気楽に言う。
「心当たりが無いの?」
較が肩をすくめる。
「逆、心当たりがありすぎて困ってるの。この手の術や現象は、無数にあって、実物を見るまで絞り込むのは、難しいよ」
悩む振りをしながら良美が言う。
「ところでドッペルゲンガーって2Pキャラの事だと思ったけど、普通にある事なの?」
顔を抑える較。
「昔からある怪奇現象の一種で、自分と同じ姿をした物を見る。それを見ると死ぬって説もある。俗説には、幽体が抜け出したものとか色々いわれているけど、脳の病気って説もある。問題は、今回のドッペルゲンガーは、実際に負傷者が出ているって事。それも格闘技経験者となると故意的にやったとしか思えない。大正前までだったら間違いなく、式神の練習だって断言出来たよ。今は、術で相手の技や力をコピーするまでもなく、武器で武装させる方がらくだって多用されないね」
そんな会話をしている間に較達は、問題の学校に着く。
毎度の転校の挨拶後の休み時間には、良美の所には、空手部から勧誘が来ていた。
しかし、放課後は、較と一緒に居る良美であった。
「やり過ぎは、いけないよ」
較の忠告に良美が溜息を吐く。
「仕方ないじゃん、どいつもこいつも、コンピューターで出た通りの練習をして、コンピューターの出した作戦通りにしか動かないんだもん。少しこっちがイレギュラーな行動とっただけで、グズグズになって、苛立ったから本気で打ち込んだら担架送りになるんだから情けないね」
「だからって部員の半分以上を保健室送りにするのは、駄目だよ」
較の突っ込みに良美がにやりと笑って言う。
「そういうことを言う人が、先週一週間で外国の病院一つを貸し切るほどの怪我人を出すの?」
較が遠い目をして言う。
「あちきも丸くなったよ。中学の頃だったら、半分以上は、安楽死を選んでたって話しだもん」
良美が苦笑する。
「確かに丸くなったね、病院に見舞いにいった時に殆どの人間が逃げるか、命乞いを出来るなんて中学時代には、考えられなかったよ」
果てしなく怖い会話を続ける二人であったが、この二人にとっては、日常茶飯事で、逆に比較的に平和な会話なんだろう。
そして、暗くなってから徒歩で下校する二人。
少し行った所で、それは、現れた。
「一発で釣れたね」
良美の言葉に、較が言う。
「あれだけ騒ぎを起こせばね」
そんな二人の会話を無視して、現れたそれ、全身タイツ姿の良美が、物凄いスピードで良美に襲い掛かる。
良美は、即座に鞄を投げ捨てて、回し蹴りを放つ。
両者の蹴りがぶつかりあい、良美が押し負ける。
そのままタイツ良美が攻めに入ろうとしたが、良美は、回転をそのまま活かして逆足の蹴りに繋げる。
咄嗟に後方に飛んでかわすタイツ良美。
「うーん、あたしのドッペルゲンガーの癖に、今程度で驚くなんて不満」
良美の言葉に、タイツ良美の動きが止まる。
「これってあちきが倒したら駄目?」
較の質問に良美が頷く。
「当然でしょ。さあ来い!」
タイツ良美は、良美の攻撃を完全にコピーしていたが、良美は、それを全てかわす。
最後の正拳での一撃を踵で受け止める。
拳を押さえて後退するタイツ良美を見て余裕の笑みを浮かべる良美。
「この程度?」
較が周囲の気配を確認しながら言う。
「一分くらい待ったら、今回の戦闘パターンも学習して、更に動き良くなるよ」
「了解、それじゃあ、休憩」
言葉通り、肩を回したり、準備運動し始める良美。
一分後、タイツ良美は、今さっきの良美の行動まで取り込んで更に鋭い攻撃を放つが、良美は、最初一発をまともに食らう。
そこでタイツ良美の動きが止まる。
「爆裂発勁」
良美の正拳がタイツ良美の腹にめり込む。
そのままタイツ良美が崩れ落ちる。
「これが、空手の試合じゃ使えない、あたしの必殺技!」
較がタイツ良美の体についているマイクに言う。
「漫画によくある気を使った発勁じゃないよ。あちきが教えた、相手の攻撃を受け、その勢いを利用したカウンターの一撃。相手の攻撃パターンが解っている場合に有効で、相手の攻撃の隙に決まれば一撃で勝負を決められる大技」
背伸びをする良美。
「これって組み手に丁度良いからもって帰って良い?」
「クローンの生体品だから、食費が馬鹿にならないから駄目。模擬戦の相手が欲しかったら、うちの倉庫に似たような事できる道具がいくらでもあるからそっち使って」
較の言葉に良美が驚く。
「これが、クローンか、今の科学技術って凄いな」
較が苦笑する。
「科学技術だけじゃ無理でしょ。いくつか魔術要素も感じられる。因みに動きは、タイツについていた電極で操ってたみたい。昼間や、今の戦闘パターンをコンピューター解析して、それにそった動きをさせてたって言うのが正体でしょうね」
感心した顔をする良美。
「魔法科学って凄いんだね」
「なんか、十斗辺りからの流出技術な気がするけど、錬金術と科学のミックスって所。出来としては、学生レベルなら合格点て所だね」
較がそう締める。
すると、数人の武装したタイツの男達が現れる。
「さっきから、人の技術を馬鹿にして! これだけの物を作るのにどれだけの苦労があったと思ってるんだ!」
奥の眼鏡の教員の言葉に良美が言う。
「あの人って何処かで見た気がするんだけど」
較が溜息を吐いて言う。
「あのね、一応空手部の顧問の先生の顔くらい覚えておこうよ」
気にした様子も無く良美が質問を続ける。
「自分の所の生徒を実験台にして、何したいんですか?」
空手部顧問、谷良三が言う。
「私のスポーツ科学は、学会でも十分通用する事を知らしめるためだ。私の作ったこのドッペルゲンガータイツで他のスポーツ化学者が作った選手に勝てば、私の学説が合っていた証明になる!」
自信満々の言葉に良美が首を傾げる。
「そうなの?」
較は、肩をすくめて言う。
「論理の飛躍だね。元々比較する対象が間違っている。正直、これだけの技術があるんだったら、まともにクローンや人工義肢の研究した方が高い評価だと思うよ」
「五月蝿い! 私は、最高のスポーツ化学者になるのだ!」
良三の言葉に較が言う。
「それで、そいつらで何をするの?」
良三が余裕の態度を取り戻して言う。
「まだ発覚しては、困るのだ。ここで叩きのめして、研究所に連れて行く。そして、時が来るまで君達の代わりは、クローンがやってくれるから、ゆっくり休養をとるがいい!」
一斉に襲い掛かってくるタイツ軍団。
較は、平然とその前に進み右ストレートを放つ。
『ギガンデスストレート』
較の前に居た数人が纏めて吹き飛ぶ。
「……なんだ、それ?」
良三が唖然とする。
「白風流戦闘撃術。敵を破壊する為の技だよ」
較の言葉に、良三は、舌打ちし、奥からタイツ較を取り出してくる。
「戦闘力低いと思っていたから出さなかったが、強いんだったら別だ。いけ!」
そして稼動させた瞬間タイツ較の右腕が吹き飛び、暴走を始める。
「どうなってるんだ!」
混乱する良三に較が告げる。
「その体には、歴史が無いからだよ。歴史の無い体であちきの力は、操れない」
良三が怒鳴る。
「非科学的な事を言うな! 歴史が何だ! 完璧なクローニングと成長をさせたあの体は、お前と全く同じ条件、お前に出来てドッペルゲンガータイツに出来ない筈がない!」
「やっぱり魂が無いと意味が無いって事だよね?」
良美がシミジミというが較が手を横に振る。
「違うよ。単純な話しで、あちきと全く同じ素材を使っても今のあちきとあいつとでは、違う。簡単に言えば、ゆっくり伸ばしたビニール袋に入っていた物を伸ばす前のビニール袋に無理やり突っ込めようとした様なもの。力を流すにも慣らしが必要なんだよ。それなしに力を流せばああいう風に壊れるだけ。あんたも科学者なら目の前の現実を受け入れないさい」
良三が膝をつく。
「私がやってきた事は、無駄だったのか?」
それに対して較が言う。
「さっきも言った。スポーツ科学としては、どうだか知らないけど、電気信号でクローン体を操る技術は、人工義肢としては、これ以上のない物だよ。そっちで研究しな。あちきがスポンサーくらい紹介してあげるから」
「本当か?」
良三の言葉に良美が不満気に言う。
「どうしてそんな事をするの?」
較が複雑な顔をして答える。
「あちきが肢体壊した人達の再起に有効だと思うからだよ」
「なるほどね。さて、そうと決まったら後始末をしちゃいなよ」
良美に後押しされて較は、暴走するタイツ較と相対する。
動くだけで破壊を撒き散らすタイツ較。
その様子をみて良三が呻く。
「なんだ、あの物理学を無視した力は!」
良美が平然と言う。
「コントロールされてないからあのくらいだけど、本気のヤヤが暴れたら、この周辺が更地になるよ」
「冗談だろう?」
良三が引きつった笑みを言った時、地面に穴を空けながら進むタイツ較の間合いに入った較が腕を巻き込み投げる。
『スネイクトルネイド』
地面に叩きつけられたタイツ較が血反吐を吐き、その周囲の地面がクレータを作る。
しかしタイツ較は即座に飛び退くと蹴り足で壁を粉砕しながら較に突撃をかける。
紙一重で較がかわしたタイツ較の拳は、電柱を一撃で粉砕する。
『バハムートホーン』
強烈な較のアッパーがタイツ較の顎にクリーンヒットして、その体を上空にあげた。
『イカロス』
較は、重力コントロールをして高速で上を取ると電撃が篭った踵蹴りを放つ。
『トール』
踵が脳天に決まったタイツ較は、地面に叩きつけられ、地面のアスファルトに大きな人型を作る。
その様子を見て良三が言う。
「化け物か? あれだけの攻撃を食らっては、ドッペルゲンガータイツも即死だぞ」
「甘いね、ヤヤのコピーがあの程度で死ぬ訳ないよ」
良美の言葉通り、タイツ較が地面から起き出し、電撃を放出しながら較に攻撃を開始する。
「信じられない。常人なら即死している怪我だぞ!」
良三の驚愕に良美が肩をすくめて言う。
「あの程度の怪我、ヤヤは、日常茶飯事。ほら自動回復まではじまった」
タイツ較の怪我がどんどん癒えて行く。
「あれは、どこの悪魔だ?」
良三の感想に苦笑する良美。
「コントロールされていない力は、そう見える。見てみなよ較は、小さい怪我も回復していない。自分の意思で力の配分を考えている。必要な力を必要な形で出せる。それがヤヤだよ」
較は、回復で動きが遅くなったタイツ較の左腕に手を食い込ませる。
『バハムートクロー』
指先から放たれる気が左腕を壊す。
『バハムートテール』
下段回し蹴りがタイツ較の足を蹴倒す。
『ポセイドンランス』
電撃が篭った肘がこめかみに直撃して、そのまま地面に叩きつけられる。
『ナーガ』
地面が盛り上がりタイツ較を噛みながら上昇する。
『ウー』
上がってきたタイツ較に振り下ろされた較の拳から氷が発生して氷付けにする。
軽く息を整える較。
「これでとりあえず動きをとめた。後で間結に封印して貰って研究機関送りだね」
「ご苦労様」
気楽に近づく良美だったが、一部始終を見ていた良三は、叫ぶ。
「危ない! それは、人間じゃない化け物だ! 早く逃げろ!」
良美と較が苦笑し、そして較が後始末の為の連絡をとる。
良美が良三の横に来て言う。
「少しずつだけどヤヤが良い方向に変わってきた。その足しになるんだったらあんたの事を見逃してあげるから、あんたも頑張りなよ」
良三が恐る恐る尋ねる。
「あんたは、怖くないのか?」
良美が自信満々に答える。
「親友だもん。どんな大きな力でもヤヤがあたしに危害を加えることは、絶対無いと信じてる」
こうして率繰大学付属高校でのドッペルゲンガー事件は、解決した。
この後、良三の研究は、多くの四肢を失った人間を救うのであった。
その中には、較に再起不能にされた人間も多く含まれて居た。