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ぬいぐるみ戦争に巻き込まれる姫母河高等学校

ぬいぐるみの可愛さって何でしょうか?

 その学校は、良妻賢母を育てるのが目的の私立の女子高校、姫母河キモカワ高等学校。

 実際は、何処にでもある普通の女子校だった。

 しかし、最近女子生徒の中で様々な犯罪行為が行われるようになっていた。



「これ可愛いよね?」

 そういって、較の新しいクラスメイトが見せてきたのは、左右の目の大きさが明らかに違う上に、片腕がもげたライオンのぬいぐるみだった。

 較は、沈黙して答えないので、隣に居た良美が答える。

「正直、不細工だと思うよ」

 するとその女子生徒が指を振って言う。

「解ってないな、そこが可愛いんじゃない!」

 較は、本当に珍しく、その日は、クラスの誰とも話さなかった。



「あんなぬいぐるみがうけるなんて、あちきは、絶対に許せない!」

 近場の為、自宅に帰った較の第一声がそれだった。

 珍しく熱い較に良美がひく。

「まあ、確かにあの学校で流行っていたぬいぐるみは、ヤヤが作るぬいぐるみと違って、バランスが悪いのが多いね」

 叫んで少し落ち着いたのか較が話し始める。

「一応、キモ可愛いってジャンルに入るぬいぐるみだよ」

 首を傾げる小較。

「ヤヤお姉ちゃん、キモ可愛いって何?」

 較が嫌そうに説明する。

「ある種の母性本能で、弱い者や弱っている者を護りたくなる。キモイものは、弱者と見られて、そこが、母性本能を擽る。得に満たされた環境の学生には、人気があるタイプなんだよ」

 小較が驚いた顔をする中、良美が言う。

「それで今回も、原因は、解ってるの?」

 較は、鞄から取り出した学校で流行っているぬいぐるみを取り出して引き裂く。

 すると中から匂い袋が出てくる。

「この匂いが人の自制心を抑制するの。短い間だったらストレスの解消等に用いられるものだけど、長期間嗅ぎ続けると、自分の欲望に素直になる。このぬいぐるみの入手先は、一人の生徒で、只野タダノ姫矢キヤの親からの試供品を配ってるって話し。そんな事で調べてみたら、その生徒の親は、薬品会社の社員。非合法な薬品のテストを自分の娘の学校でやってたみたいだよ」

 今度は、良美が首を傾げる。

「そんな薬品を何に使うんだ?」

 較が肩をすくめて言う。

「実は、こういった非合法な薬品って裏社会では、需要が高いの。ちゃんとした効果が保障出来れば危険に見合ったリターンがあるんだよ」

「そんなもんなのか?」

 良美が不思議そうな顔をする中、小較が言う。

「そういえば、家で使ってるシャンプーもそういった非合法薬品だよね?」

「まあね、ブレンドは、あちきのオリジナルだけど、材料は、問題の会社からも高値で買ってたりする」

 較があっさり答える。

「何気に犯罪行為を暴露していない?」

 良美の言葉に較が笑顔で答える。

「何を今更、万が一にも立件されたらあちきは、傷害と器物破損だけで一生裁判を行う事になるよ」

 過去の思い出が走馬灯の様に流れた後、良美が一言。

「それは、置いといて、対処法は、あるの?」

 あっさりスルーした良美に、較も特別気にした様子を見せずに答える。

「あのぬいぐるみを捨てさせれば数日で元に戻る。だいたい、匂い袋の効果も長く続かない。一定期間で新しい試供品が渡されているから今回の事件になったんだよ」

「今回もあっさりとした事件だったな」

 既に事件が解決したと良美は、この時は、思っていた。

 しかし、較は暗い笑みを浮かべて言う。

「あちきの未来のぬいぐるみの店主として、あんなぬいぐるみがブームになるなんて許せない。絶対に正常に戻してみせる!」

 燃える較に良美が言う。

「まー大事にならないようにやってくれ」



 翌日、学校の正面玄関に較のぬいぐるみプレゼントブースが現れていた。

「可愛い、ホワイトアニマルぬいぐるみ。今日は、サンプルって事でタダですよ!」

 デフォルメされた白い動物のぬいぐるみを配り始める較。

「かわいい!」

「白っていいよね!」

 百個以上あったぬいぐるみは全てはける。

 ロングヘアーの女子、姫矢が悔しそうにその様子を見ていた。

 較がVサインを出すと、姫矢は、悔しそうにする。



 その翌日、姫矢も新たな新作ぬいぐるみを出して来た。

「今回の新作は、『頭割れシリーズ』ですよ。この零れる脳みそがプリティーですよ!」

 本当だったらグロイだけなのに、ぬいぐるみにすると何故か愛嬌がでる頭割れ状態に、女子生徒の人気が高まる。

「あたしにも頂戴!」

「あー一人で二つとってる!」

 こうして次々とはけていき、全てが女子生徒の手に渡る。

 その様子を見ていた較に姫矢は、勝利の笑みを浮かべた。

 較は、直ぐに屋上まで移動すると携帯を取り出す。

「大量生産状態、お金だったらいくらでも払うから、人数を集めなさい!」

 電話先の相手がこの後、深夜作業の人間を集める為に走り回って入院する事になる。



 翌日は、双方とも新作ぬいぐるみをもってきた。

「こっちのぬいぐるみは、なんと頭が二倍の『デカ頭アニマルズ』ですよ!」

 頭が胴体より大きい、スーパーデフォルメで較が巻き返しを図るが、姫矢も負けていない。

「こっちは、なんと内臓がでている『みまで出ていますシリーズ』ですよ!」

 縫製で上手く、内臓が出ているように見せるかなりの上手な一品が出てくる。

 女子生徒たちが二人の間で迷い始める。

 混乱が巻き起こるのであった。



「今日の所は、引き分け、明日こそ勝負を決める!」

 情熱を燃やす較であった。

 そこにいかにもヤクザと言う集団が現れる。

「嬢ちゃん、ぬいぐるみをただで配ってるんだって? それだったらおじさん達にくれないかい」

 明らかに馬鹿にした口調。

 後で何人もの小物が苦笑している。

 すると良美が問答無用でその一人を蹴る。

 悶絶するヤクザ。

「ヤヤ、これって正当防衛だよね?」

 良美の言葉に較が頷く。

「当然だよ、こんな怖いおじさんに女子高生が囲まれて、脅されてるんだもん」

 話しかけてきた先頭のヤクザが怒鳴る。

「ふざけるのも大概にしろよ!」

 良美の肘がそいつの顎にクリーンヒットする。

「その言葉、そっくり返す。人数に任せて囲めばこっちが言う事を聞くなんて思わないでね」

 ヤクザ達の顔に怒気が篭る。

 その中、奥に居た偉そうな奴が懐から拳銃を取り出して言う。

「謝るんだったら今のうちだぞ。いまだったら、まわすだけで勘弁してやる」

 眉を顰める較に首を傾げる良美。

「まわすってどういう意味?」

 性欲の強そうな禿のヤクザが答える。

「お前等をここに居る全員で犯すって言ってるんだよ!」

 良美が較を見て嫌そうに言う。

「悪い事は、言わないから、そっちの話題は、止めときなよ。ヤヤがきれるから」

「こんなガキが切れてどうなるっていうんだ!」

 禿の自分に向けての言葉に較が笑みを浮かべる。

「やっぱりそうなんだ、あちきの名前を知ってるって事は、只野さんの親側からの妨害工作って訳だね。だったら手加減は、不要だよね?」

 良美が肩をすくめる。

「ヤヤ、時間かけないでね」

「大丈夫、直ぐに全員、あの悪趣味なぬいぐるみの仲間入りをするから」

 較が突きつけられた拳銃を握りつぶす。

 青褪めるヤクザ。

 その後、病院に運ばれた彼等は、姫矢の配っているぬいぐるみと大差ない姿になっていた。



 翌日、較がぬいぐるみを配るのを見て姫矢が父親に電話を入れる。

「お父さん、どうなってるの? 昨日は、もう手を打ったって言ってたじゃない?」

『それが、失敗したらしい。それも、相手の少女は、そっちの業界じゃ、有名人らしく、もう何処も仕事を請けてくれない』

 父親の答えに姫矢が戸惑う。

「あんなぬいぐるみ作りしか能がなさそうな子がどうして?」

「ヤヤに喧嘩を売るんだったら、正攻法がベストだよ」

 後からの良美の声に姫矢が冷や汗をたらす。

「貴女、何処から話を聞いていたの?」

 良美は、たいして気にした様子を見せずに言う。

「事情は、粗方知ってるから。ヤヤが珍しく燃えてるから、あたしは、傍観って所。でもね、裏技を使えば使うほどヤヤの得意分野だから。特に荒事になれば、軍隊が相手でも平気で勝てるからね」

 姫矢が言う。

「だったらどうして、あんな事を?」

 良美が苦笑する。

「志向の問題みたいだね。ヤヤとしてもキモ可愛いが許せないみたいだね」

 それに対して、姫矢が拳を握り締めて言う。

「何を、あんな女子供に媚びるぬいぐるみの何処が良いの。弱りながらも必死に自分を主張するこの子たちの方が可愛いに決まってるわ!」

 姫矢の目玉が飛び出ているハイエナのぬいぐるみを突きつけてくる。

 良美は呆れた顔をして言う。

「まーそこ等辺は、正面からやりあってて」



 この後、ヤヤのキュート派と姫矢のキモカワ派の熾烈な戦いが続いたが、姫矢側の資金不足が発生して、ヤヤの圧勝で終わった。

 供給が無くなった香りは、直ぐに効果を失い、この学校の問題は、解決した。

 そして転校しようとする較に姫矢が宣言する。

「今回は、資金の差で負けた。でもそれがあたしのぬいぐるみの敗北では、ない。次にあった時こそ、真の勝負よ」

 較も頷く。

「その時は、お互いに、お客様により多く買ってもらえるかで勝負しましょう!」

「望むところよ!」

 姫矢も同意して、次の勝負への闘志を燃やすのであった。

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