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フィニッシュガールズ  作者: 鈴神楽
外伝:VS八刃編
21/21

恋と愛とで完全決着

間結の大仕掛け。ヤヤは、それを超える手を打てるのか?VS編完結です

「後五時間でタイムアップだ。勝ちは、貰ったな」

 余裕満々の良美に較が苦笑する。

「残念だけど、こっからが一番しんどいことになるね」

「どういう意味だ? また長クラスが来るって事か?」

 雷華の質問に較が首を横に振る。

「長クラスがくる力技だったら、もっと先に終らせてる。間結の奴等がやたら大掛かりな魔方陣をこの孤島の周りに張り巡らせている。これが発動したら最後、あちきの力では、破れない」

 それをきいて優子が戸惑う。

「それでは、もう手が無いって事ですか?」

 難しい顔をする較。

「問題は、そこ。複雑すぎて、あちきでも効果が判明しない。でも、どんな魔方陣だとしても、あちきだけの力を削ぐ事は、出来ない。同時に襲撃者の力も削ぐことに成るはず。残り五時間だったら、この屋敷のギミックでなんとかこなせない事も無いと思う」

「勝ち目は、あるって事だよな!」

 良美が元気つくのを嗜める較。

「魔方陣の効果次第だよ。それに殆ど完成している魔方陣を発動させていない。その理由が解らない」

「もう直ぐ日も暮れる。夜襲でもするつもりじゃないか?」

 雷華のその言葉に較がある事実に気付く。

「なる程ね、その手で来ますか。ならばこちらは、それ相応の手を使うまでだね」

 較は、衛星経由の電話で、ある指示をする。

「何処に連絡したの」

 良美の言葉に、較が答える。

「十斗さんの所に爆撃機の手配を頼んだ」

 顔を引きつらせる優子。

「まさか、襲撃してくる人たちを爆撃するつもりですか!」

 較が手を横に振って言う。

「そんな事しないし、効果的じゃ無いよ。今は、とにかく、限界まで踏ん張る事が大切だね」

「頑張るぞ!」

 良美がそう景気づけをしようとした時、優子がしゃがみこむ。

「大丈夫か!」

 雷華が近づこうとするのを較が止める。

「始まったみたい。こっからは、鈴木さんの戦いだよ」

 優子は、顔を真赤にして言う。

「解ってます。この苦しみに勝ってみせます!」

 そのまま寝室に篭る優子。

「もしかして、もう始まったのか?」

 良美の質問に較が頷く。

「そう種虫の覚醒が始まって。発情状態になってる筈だよ」

 雷華が少し考えてから言う。

「吸血鬼に発情させられた奴には、睡眠薬を飲ませたりした。それでなんとかならないか?」

 較が首を横に振る。

「それって発情状態が短い時にしか使えないの。今回みたいにどんどん強力になる場合は、逆に意識を強く持たせて、ジリジリと増幅するそれに対抗させるしかない。最終的に完全覚醒した時に、鈴木さんの意思が勝って居れば、あちき達の技で何とか出来る筈」

「委員長の精神力を信じるしかない。あたし達は、その戦いを邪魔させないようにするのが担当だ」

「絶対に護りきる」

 雷華が強く頷く。

「あちきは、屋敷の外に出るから、雑魚が来た時は、お願い」

「任せなさい!」

 良美が胸を叩き、較が外に出て行った。



 夕日が完全に沈んだ時、魔方陣が発動した。

 それと同時に影が蠢き無数の人間が突如、孤島に現れた。

 そして較の前にそいつが現れた。

 高校生くらいのクールそうな少年、谷走鏡キョウである」

「この魔方陣の意味は、影の力の増幅。それを利用して、影を操る谷走系の人間の大量投入による、力押しで来たわけだね」

「その通り。長クラスの投入は、周囲との軋轢の原因になる。ホワイトファングへの対策でもある」

 鏡の答えに較が苦笑する。

「長クラスだったら防ぐ方法もあるだろうけど、万が一って事を考えて、捨て駒あつかいって事だね」

 平然と頷く鏡。

「それが私達、谷走の仕事。過去に一度勝った実績から、私が現地責任者になった」

 首を傾げる較。

「あれ、あちきは、鏡には、負けたつもりは、無いけどな」

 鏡もあっさり同意する。

「あの勝利は、芽衣子さんあっての物です」

 驚いた顔をする較。

「もう、名前で呼ぶ様になったんだね。芽衣子さんも頑張った」

 複雑な顔をする鏡。

「時間稼ぎのつもりですか?」

 較が頭をかきながら言う。

「ばれた? 正直、残り時間も少ないし、こうやって無駄話で少しでも時間を潰しておきたかったんだよね」

 鏡は、周りに来た仲間に指示を出す。

「焦らず、じっくりと攻めろ。いくら白風の次期長が強くても、魔方陣で強化した我々の力をもってすれば抜けられる筈だ」

 数人が屋敷への突入を行おうとしたが、それと同時に発動した較お手製の式神が防戦に入る。

「一刃や百剣レベルには、通じないけど、分家レベルだったら、あちきの式神でも足止めくらいは、出来るよ」

「無駄です。長い時間をかけて準備した魔方陣の増幅率は、通常の数倍。百母の輝石獣ならともかく、本職でない貴女の式神ならば十分に倒せます」

 鏡の言葉に較が笑みを浮かべる。

「あちきが足止めって言ったのに気付かなかった?」

 鏡は、自分の影に手を当てて言う。

「貴女には、ここで私の相手をしてもらいます。『影刀エイトウ』」

 影から生み出した刀を手に突っ込んでくる鏡に較が答える。

「相手になるよ。『オーディーン』」

 較は、手刀で影の刀を受け止める。



 遠く離れた較達の戦いを影経由で監視する谷走の長。

「鏡と白風の次期長が交戦に入りました」

 それに対して間結の長が問う。

「鏡で、白風の次期長の足止めは、可能か?」

 谷走の長が頷く。

「通常ならともかく、魔方陣による影の力の増幅がある状態ならば残り三時間、足止めし続けられるでしょう。その間に、白風の次期長のトラップを他のメンバーが突破できれば我等の勝利です」

 それに対して間結の長が自信たっぷり言う。

「最初から、このタイミングを狙っていた。強力な爆弾を抱えた白風の次期長に強力な個人を差し向けるのは、爆弾を暴発させる可能性を産む下策。有効戦力を持った者の大量投入だけが安全に勝利を掴む方法だ」

 それを聞いて、興味津々でその様子を見ていた百母の長が言う。

「あの狡猾な白風の次期長が、素直にこちらの作戦に乗ったのは、少し気に入らないな」

 それに神谷の長も同意する。

「相手の策を食い破るのが好きな白風の次期長だ、何か手を隠している可能性があるな」

 それに対して間結の長が言う。

「もしも谷走鏡が破れ、助人を呼んでいたとしても、有効戦闘力を持つあの人数には、対応が出来ない」

 谷走の長が断言する。

「対応できる関係者の位置は、把握しています。制限時間以内にあの孤島に着くことは、不可能。それが我々の判断です」

「白風の長が助力する可能性?」

 遠糸の長が問いに間結の長が答える。

「今回の件には、ノータッチと確約を受けています。元々あの右手の事で無理を言っている自覚があるのでしょう」

 萌野の長が言う。

「だが嫌な予感がする。白風の次期長は、突拍子も無い手を打ってくる可能性があるぞ」

 その時、谷走の長の下に一つの情報が流れ込んできた。

「今入った情報です。白風の次期長の要請で数機の爆撃機があの孤島に向かっているそうです」

 伝令して来た者は、青褪めていたが長達は、一切動揺していなかった。

「下らん。あの魔方陣が無い状態ならともかく、魔方陣で増加した今、影に隠れて直撃を防ぎなんて事は、容易。詰まらない手だ。これでチェックメイトだな」

 呆れた顔をしながらも勝利を確信した間結の長であった。



 較との交戦をしながら爆撃機の情報を聞いた鏡が指示を出す。

「爆撃機が来る。タイミングを見計らって影に潜み、攻撃をかわせ!」

 それと同時に上空に爆撃機が通過し、爆弾ぽい物が投下された。

「これが貴女の奥の手ですか?」

 較があっさり頷く。

「そうだよ。時間的には、ぎりぎりだけど多分足りる筈だよ」

 首を横に振る鏡。

「あの爆撃機にどれだけの爆弾をつんでいるかは、解りませんが、無駄です。あの屋敷ごと潰すのならともかく、こちらの行動を妨害する為だけの爆撃を続ける事など出来るはずがありません」

 それに対して較が自信たっぷりに答える。

「量が解ってないのによくそんな断言出来るね」

 鏡は何か大きな勘違いしている気がし始めたが続けた。

「もしも続けられたとしても、屋敷の周囲には、爆撃は、出来ません。それでは、防ぐ事には……」

言葉を止め、慌てて落下してくるそれ見て愕然とする鏡。

「何でだ! あんな落とし方をしたら、屋敷ごと吹き飛ぶ筈?」

 較が笑みを浮かべて言う。

「あちき、爆撃するなんて言った?」

 次の瞬間、強烈な光が屋敷を中心に辺りを四方八方から照らし出す。

 鏡は目を庇いながら言う。

「照明弾を大量投下したのか?」

 較は、肯定する。

「その通り。あれだったら屋敷に被害は、出ないでしょ」

 鏡は慌てて自分の影を探す。

 しかし、そこには、影は、無かった。

「大量の照明弾で四方八方から照らされたら影が消えるのも当然でしょ?」

 間合いをあけようとする鏡だったが較の方が早かった。

『バハムートホーン』

 較の気が篭ったアッパーが鏡を一撃でノックアウトする。



「馬鹿なこんな手があったと言うのか?」

 驚く間結の長。

 神谷の長が頷く。

「襲撃タイミングから谷走系術者の大量投入を予測し、大量の照明弾を投下させたか」

 百母の長も納得する。

「物理兵器の純粋な破壊力では、八刃の技には、勝てないと踏んで、魔方陣で増幅する力の源である影を消滅させる。見事な作戦だ」

 遠糸の長も頷く。

「褒めるべきは、この手が奇策で長時間もたない事を踏まえて、ギリギリまで溜めて置いた事。影の消失で、戦線復帰に時間がかかる今、タイムアップは、避けられないわ」

 萌野の長が悔しそうに言う。

「これでまたあの小娘が増長する」

 そして、谷走の長が告げる。

「白風の次期長との約束の時間が来ました」

 間結の長が小さく溜息を吐く。

「仕方あるまい。今回は、我々の敗北だ」

 こうして、較と八刃との戦いは、較の勝利で終ったのであった。



「こっちは、終ったよ。鈴木さんは、どう?」

 戻ってきた較と鏡(八刃への証人として連れて来た)に雷華が頬を掻きながら言う。

「それがなんか妙な感じになっている」

 部屋の奥に行くと良美と優子が話していた。

「それでそれで?」

 良美が興味津々の声で聞くと優子が喋りだす。

「ずっとキスを待っていたんですが、相手の男性は、そんな気が全く無い事に気付いて、慌てて誤魔化すのが大変だったみたいです。もー余計な事を喋らないで!」

 途中まで淡々と喋っていたのに、いきなり顔を真赤にして叫ぶ優子。

 この状況に戸惑う雷華と違い較は、鏡の方に確認の視線を向ける。

 鏡は、頷き言う。

「もしかしたら、別の意識、淫虫の魔王の種虫の意識が操っていたのかもしれない」

 較が難しい顔をする。

「それにしては、何か凄く和やかな空気だよね」

「和やかじゃ無いです! 白風さん、どうにかしてください!」

 涙目で訴える優子に近づき、話を聞いていただろう良美に話しかける較。

「何の話をしているの?」

 良美がお気楽に答える。

「委員長の失恋話を聞いてる最中だ。何でもこいつは、恋って奴を知る為にこの世界に来たらしいぞ」

 鏡が真剣な顔をして言う。

「すいません、そこの所を詳しく」

 それに優子(?)が答える。

「はい。私の世界に無い。この世界の恋を知る為にやってきました。私達の世界の平和の為に」

 較と鏡が顔を見合わせる。



 八刃の研究機関で細かい調査を終えた後、長達の会議が開かれ、担当者として鏡が報告を開始する。

「聞き取りと霧流の協力に拠る現地調査によって判明したのですが、淫虫の魔王の世界では、一方的な愛情のみが存在し、相互理解が無い為、争いが過激化し、種の滅亡の危機を何度も迎えていた様です。その為、こちらの世界に召喚された、下位の淫虫の記憶にあった恋、相手を思いやる感情を取り入れようと、何度もこちらに干渉を試みたみたいです」

 複雑な顔をする長達の中から遠糸が手を上げて言う。

「そっちの世界では、その下位の淫虫の記憶からの研究は、なされてなかったの?」

「されたみたいですが、淫虫によって異常を来たしたサンプルからでは、望みえる結果が得られなかったというのが現実みたいです」

 鏡の答えに百母の長が苦笑する。

「だろうな、淫虫を使うなんてそっちの調教しか考えられない。そんな状態でまともな恋心が残っている訳無いな」

 苛立ちを籠めて萌野の長が言う。

「それならもう少し平和な手段が無かったのか!」

 事が大事なので珍しく参加している白風の長、焔が言う。

「無理だろう。あっちにしてみれば自分達の存亡がかかっている。世界の壁を越えた時に大量のエネルギーを消費し、至急にエネルギー補給の必要があった。奴等にしてみればこっちの人間を少し糧にしてからじっくりと研究するつもりだった。もしくは、していたと言うのが現実。今までだって似たような例が沢山ある」

 神谷の長が続ける。

「それが今回、早い段階で八刃に確保されて、糧の確保が行えない状態で問題の少女と融合し、恋についての知識に触れた為、優先項目が変わったって所だな」

 大きく溜息を吐く谷走の長が言う。

「八刃の歴史を紐解けば、そういったこちらの知識や物を搾取しようとする異邪との対決の記録が数え切れない程あります。その中には、愛情や闘争心、物欲なんて感情の場合も」

 こちらも珍しく来ていた霧流の長、六牙が言う。

「問題は、これからだ。その娘は、安定している今、その淫虫の魔王に恋を学習させて元の世界に帰還してもらうのが、今後の襲来を防ぐにも良いと思うが?」

 全員の賛成で、そういう事態になった。



「って事で、暫くそいつをお願い」

 お泊り会で較の口から会議の結果を聞いて優子が涙目で言う。

「もう、こんなの辱めを受けるのは、嫌!」

 智代が真面目そうな顔(ただし微妙に笑いを堪えている)で言う。

「相手も種の存亡が懸かっているんだから協力すべきよ」

 すると優子の口を使って淫虫の魔王が言う。

「すいませんが、よろしくお願いします。優子さんのこの一方的な異性への気持ち。この家庭教師の男性が手を触れたのが、自分への性的アピールと勘違いする気持ち等、物凄く勉強になります」

 頭を抱えて優子が叫ぶ。

「だから、そういう事を口にしないで!」

「そんな事を考えてたんだ、委員長もエッチだな」

 雷華の言葉に落ち込む優子。

 良美も楽しそうに話を聞いていたがふと気になって言う。

「こんなんで本当にあっちの世界が救えるのか?」

 較が苦笑をしながら頷く。

「愛情って一方的な物が多いの。それが悪いって訳じゃ無いけど、恋、片思いみたいに相手の事を考えるって感情が定着する事で限定された範囲での愛情の与え合いから恋愛に発展し、友好の架け橋になる筈だよ」

 頬を掻きながら良美が言う。

「でも、それって余計な争いが増える原因にもならないか?」

 較は、それにも頷いた。

「そうだよ。それでも、一方的な愛情だけの世界より制御がかかり易い。要は、恋と愛のバランスが大切って事。世界を救うのには、一方的な愛情だけじゃなく、相手を考える恋も必要だって事だね」

 こうして、優子の自分の失恋話を人に喋る羞恥プレイこみの淫虫の魔王との共同生活が始まるのであった。



「こんな生活絶対に嫌!」

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