友情パワーで大脱出
竜夢区脱出を阻む八刃の悪の手が伸びる
「と言う事で、この施設から抜け出して、竜夢区を脱出する事にするよ」
較は、全員を集めて、事情を説明して、最後にそう付け足した。
「本当に良いの?」
優子の言葉に良美が言う。
「良いんだよ、あいつ等は、元から話して解る連中じゃ無いからな」
較は、建物の地図を広げて言う。
「どうにかして、地下の駐車場に移動して、車を奪取し、空港まで逃走後、白風家所有のジェット機にのる予定。エアーナ、風太さんに連絡とって、空港で待機してもらっていて」
エアーナが頷く。
「解った。委員長の命がかかってるもんね」
携帯で連絡をとるエアーナ。
地図を凝視しながら較が言う。
「当座の問題としては、どうやって駐車場まで移動するかが問題なんだよ」
雷華が言う。
「普通に移動するわけには、行かないのか?」
較が首を横に振る。
「通常のルートを通れば、あちきでも勝てないトップクラスを相手にする事になる。それは、避けたい」
それを聞いて、智代が手を上げる。
「こんな時こそ、あたしの出番だよね」
あの魂を消費して、目的の物を見つけ出す指輪を見せる。
較が嫌そうな顔をするが、良美が言う。
「きっちり働け。それより、移動メンバーは、どうする?」
較が言う。
「エアーナと智代と雷華とは、ここでお別れ。人質は、使わないって事で協定組んであるから」
それに対して雷華が反論する。
「あたしは、ついていくぞ、多少は、戦力になる筈だ」
「解った、行こう」
即答する良美に較が言う。
「ヨシ、相手のレベルが解ってるの?」
それに対して良美が言う。
「ヤヤだったら、必ず勝てるレベルの相手でもないだろ?」
較が言葉に詰まると良美が言う。
「友達を助けたいって思いは、一緒なんだから、行く意思があるんだったら一緒に行く。智代とエアーナは、どうする?」
智代が残念そうに言う。
「ごめん、あたしは、これが限界だよ」
そういって、地図に複雑な道順を書いて較に手渡す。
「あたしの代わりに風太叔父さんが頑張るよ」
エアーナがOKサインを出す。
「それじゃあ、行動開始!」
良美の掛け声と共に行動を開始する一同。
駐車場の通気口から飛び降りる較。
次に降りる良美は、一人で着地、優子は、較が受け止める。
「大丈夫?」
頷く優子。
「だけど、本気で大丈夫?」
較が笑顔で言う。
「大丈夫、あっちだって鈴木さん以外の命をとろうとは、しないよ。だからこそ、鈴木さんは、自分の命を最優先に考えて」
複雑な顔をする優子。
「家の方だったら智代が、お泊り会って誤魔化す事になってる。事件が解決したら、本当にお泊り会するんだからね」
良美が付け足す。
そして、最後に雷華が降りて来て言う。
「ここまでは、無事だけど、車を奪うって、運転は、誰がするんだ?」
較が手を上げる。
「一応乗り物は、一通り操縦出来るから安心して」
そして、丁度入ってきたワゴンに目をつける。
前方に飛び出し止める。
「何だ!」
出てきたのは、意外な人物だった。
「雷斗!」
それは、嘗て別組織に属していたが、自分の治療費の為に八刃で働いている、雷華の知り合い、如月雷斗だった。
「雷華、お前な、何度も言ってるが八刃とあまり関係もつなよ」
それに対して雷華が言う。
「丁度良い、空港まで運転して」
それを聞いて雷斗が戸惑う。
「いきなり、何を言うんだ」
それに対して雷華が近づき言う。
「あんたは、あたしの借りがある筈よね? これでチャラにしてあげる」
その言葉に無理やり吸血鬼退治をさせて居た事等が脳裏に浮かび、溜息を吐いて雷斗が言う。
「解った、乗れ」
こうして、較達は、足を確保し、空港に移動するのであった。
空港に向かう高速道路を走る中、事情を聞いた雷斗が青褪める。
「それって本気でやばいぞ!」
「だから、こうやって逃げてるんじゃん」
雷華の言葉に対して雷斗が怒鳴る。
「お前は、八刃がどんなヤバイ組織か解ってない。俺達が居たシルバーアイもとんでもない組織だったが、八刃は、比較にならない程にヤバイんだ!」
優子が息を呑み言う。
「そうなのですか?」
雷斗が頷く。
「普通は、どんな組織にも『やれる事』、『やれない事』そして『やり辛い事』がある。その配分がその組織の力を意味するんだが、八刃には、『やれない事』というカテゴリーが存在しない。極端な事を言えば、どんな組織だってアメリカ政府に正面から喧嘩を売らない。だが、八刃は、必要ならそれすらやってしまう。奴等にとって、どんな事もやり辛くてもやれない事じゃ無いんだよ」
顔を引きつらせる雷華。
「冗談でしょ? 幾らなんでもアメリカ政府に喧嘩なんて売れるわけ無いじゃん」
良美が淡々と言う。
「ヤヤ、一度、正面から殴りこみかけてホワイトハウスを半壊させたぞ」
信じられない物を見る目で較を見る雷華と優子。
「それだって、八刃の後ろ盾があっての事だろ?」
雷斗の言葉に較が頷く。
「まあね、政府組織に喧嘩売るなんて、八刃でも正式決定が無いと駄目だよ」
雷斗が舌打ちする。
「それが普通じゃ無いんだよ! 正式決定があれば政府にも喧嘩を売って、実際に相手をねじ伏せられる。一般の連中が八刃を毛嫌いする理由が解る」
その時、雷斗が怒鳴る。
「捕まってろ!」
その次の瞬間、ワゴンが大きく横に曲がる。
「何よ!」
雷華がドアにぶつかりながら怒鳴り返した瞬間、ワゴンが通るはずだった場所に炎が立ち上る。
「八刃の専用車で来て正解だった。術の波動を感知する装置がついてたから、咄嗟に避けられた」
雷斗の言葉に較が窓を開け始める。
「あちきが外に出て応戦するから、空港に向かって全速力で進めて!」
そのまま外に出る較。
良美は、慣れた様子で窓を閉めながら言う。
「それにしても、本気で手段を選んでないな。けが人も出ているだろうな」
「嘘!」
優子の言葉に雷華も嫌そうな顔をしながら言う。
「後ろで、数台の車が炎に煽られて壁に激突してる。もしかしたら死人も出ているかもな」
愕然とする優子。
「そんな事をしたら、大変な事になるわ」
雷斗が淡々と答える。
「このくらいは、日常茶飯事だ。明日の新聞にも載りやしねえ。これが八刃だ!」
車内が重い空気につつまれる。
較がワゴンの屋根の上にあがると、同系のワゴンが前後左右にあった。
「右手の力で増長した小娘に、真の力を教えてやろう」
前方のワゴンの屋根に乗っていた萌野の長が右手を向けてくる。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼』
炎が較に迫る。
『カーバンクルラージシールド』
両手を交差して、気の盾で炎を弾く較だったが、炎の勢いにじりじりと後退させられる。
「どうした? こっちは、基本技を使っているだけだぞ」
その言葉通り、技的には、較の使っている技の方が遥かに高度で強力である。
元々カーバンクルラージシールドは、攻撃を完全に防ぐ技で、こんな風に弾く技では、無い。
それなのに、炎を弾くのに精一杯で、後退させられているのは、双方の力量差の為だった。
それでも較は、逆転の一手を組んでいた。
カーバンクルラージシールドを解除し、気で最低限の防御をしながら炎の直撃を食らいながら技を放った。
『フェニックスリボーン!』
弾いていた炎が不死鳥の形をとり、萌野の長に襲い掛かる。
較は、勝利のチャンスを掴む為、不死鳥と平行して動く。
「甘い!」
萌野の長は、不死鳥を無視して、較に攻撃する。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ敵を撃て、撃炎翼』
直撃を食らって吹き飛び、雷斗が運転するワゴンのフロントガラスを突き破り、車内に叩き込まれた。
「白風さん!」
優子が悲痛な叫びをあげる中、良美が萌野の長を睨みながら言う。
「あの炎の塊が空中で消えた。どうなってる?」
較が肩で息をしながら言う。
「遠糸の長だよ、遠糸の長があそこからバックアップしてる」
較が指差したのは、高速道路からかなり離れた高層ビルの屋上だった。
舌打ちする良美。
「長クラスが一気に二人なんて大人気無い奴等だな」
較が萌野の長を睨みながら言う。
「下手なプライドなんて不要。勝つため、大切な者を護る為なら何でもするそれが八刃だよ。そしてあちきも」
しかし、立ち上がろうとする較の足を、窓を破り飛び込んできた氷の矢が凍らせ封じる。
『フェニックスボディ』
体に炎を立ち上らせて、氷を溶かそうとする較だったが、次々と氷の矢が命中し、確実に較の動きを封じていく。
「尋常じゃ無いぞ、どうしたら全速力で走っている車内にあんな精密射撃が出来るんだ!」
驚愕する雷斗。
その時、雷華が射線に割り込んで。
「これ以上は、やらせない!」
「駄目、常人が喰らったら即死だよ!」
必死に止めようとする較だったが、体は、動かない。
そして氷の矢が雷華に命中する直前に弾けて、突き破った窓を氷で封じた。
それを見て較が良美に言う。
「あちきの携帯を出して、遠糸の長にかけて!」
良美が即座に実行する。
そして繋がったところで較が怒鳴る。
「交換条件です。ここで手元を狂わせて下さったなら、白風で受け持っている遠糸の分家に百億の特別補助金をあちきの個人が行います」
次の瞬間、前方で悠然と状況を見守っていた萌野の長に氷の矢が直撃し、高速道路に落ちる。
「買収が成功したって事か?」
雷斗の言葉に氷を砕いた較が答える。
「単なるこうじつ。雷華を殺さないでくれた事も含めて味方だった。立場上こっちに協力出来なかっただけなんですよ。本当に遠糸の長には、借りを作ってばっかりだ」
そういいながら、周囲のワゴンに砕いた氷をぶつけて、追撃不能にしていく。
「その内、返せば良いさ」
良美の言葉に頷く較であった。
空港で待っていた風太が言う。
「さあ、こっからは、俺の出番だ」
「あんたも付き合いが良いな。自分が相手をしてる物の強力さくらい解ってるだろうに」
雷斗の言葉に風太が言う。
「借りがある。それにエアーナの親友の命がかかってるんだから仕方ない」
そして、較達は、白風家専用飛行機に乗り込む。
「このまま、脱出出来ますかね?」
優子の言葉に較が言う。
「多分、一番の難関が残っている。ヨシ、覚悟は、良いよね」
良美もあっさり頷く。
「智代や雷華が体張ってるのに、あたしだけ逃げるわけ無いだろう」
そして離陸した飛行機が海上に出た時、それが居た。
「あれ何だ?」
飛行機の前に無数とも思える尋常ならざる鳥が居た。
風太の言葉に較が答える。
「最後の難関、八刃三強の一人、万能なる超獣、百母の長の使役する輝石獣の群れです。まともに相手してたらきりが無いでしょうね。チャンスは、一度だけ、このまま全速力で前進してください」
そういい残し、較は、飛行機の外に出て、前方に右手を向ける。
「これがあちきの全力全開」
大きく息を吸って叫ぶ。
『ホワイトファングバハムートウイング!』
白い閃光が無数とも言える輝石獣を消滅させていく。
だが、それも一瞬だった。
即座に輝石獣達は、増える。
しかし、風太は、その一瞬を逃さなかった。
一気に加速し、輝石獣達の群れを突っ切った。
機内に戻った較が床でのた打ち回っている良美に言う。
「本格的な処理が出来ないけど、頑張ってね」
良美は、無理やり笑顔を作って言う。
「任せとけ!」
そして、雷華が後ろにある輝石獣の群れを指差して言う。
「あいつ等は、追ってこないのか?」
較が頷く。
「百母の長は、竜夢区を護る守護の任務があるから、出ることは、出来ないの。一応、これで脱出は、成功だよ」
それを聞いて優子が辛そうに。
「あたしの為にとんでもない事に……」
較は席に着きながら言う。
「まだだよ、こっからが本番。今回は、こっちの奇襲みたいな物だからね。攻めに回った八刃は、とんでもなく怖いよ」
深刻な空気の中、飛行機は、飛び続けるのであった。




