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フィニッシュガールズ  作者: 鈴神楽
外伝:夏休み編
16/21

珊瑚に眠る少女

特別編も最後、圧倒的な力が爆発します

「ここまで来たという事は、イー達は、敗れたのだな」

 ゼットの言葉に祭壇の間に到着した較が答える。

「珊瑚神の召喚前に到着した、あちき達の勝利だよ」

 ジーが祭壇に隠れて下衆な顔で吐き捨てる。

「あれだけの力を与えてやってどうして負けるのだ! 無能な奴らだ!」

 それに対してゼットがそちらを見ずに答える。

「仕方あるまい、イー達は、珊瑚の復活を願い、集まった者達、戦う事など考えもしなかっただろうからな」

 ジーが自分の感情のままに反論する。

「何を甘い事を! 今回の計画で我々を食い物にしていた列強国に仕返し出来ると喜んでいたでは、ないですか!」

 ゼットが淡々と言う。

「全ては、当初の計画を変更した私が原因だな」

「ゼット様の所為では、ありません! 全ては、あたしが失敗作だからいけないんです。でも頑張りますから、元の計画に戻しましょう!」

 アールが必死に言い募るが、ジーは、怒鳴り返す。

「今更戻れるか! 今回の計画が上手くいけばあのオーフェンで高い地位を得られるのだ!」

 その一言に一気に空気が変わる。

「お前、オーフェンと手を結んでいたのか? あのエレメタルコアの出所が不明だったのを確認しなかったのが失敗だった」

 悔しげな顔をするゼットに較が続ける。

「詰り、今回の計画の裏には、オーフェンが居たんだ、過去形で」

 エアーナが首を傾げる。

「過去系なのは、何故ですか?」

 較が肩を竦めて言う。

「今も関わっていたら間違いなくこの場面で出てくる。切り捨てられたね」

 ジーが必死の形相で怒鳴る。

「そんな事があるか! これが上手くいけば私が珊瑚帝国の力をもってオーフェンの幹部になれるんだ!」

「愚かな、奴らが狙うは、異界との繋がりと八刃への復讐のみ。己が異界の者の血を引くことをもっとも大切にする奴らが、お前を幹部にする訳も無い。騙されたのだ」

 ゼットは、淡々と告げるがジーが感情のままに反論する。

「そんな訳が無い。現にあのエレメタルコアは、まともに動いている。あれがどれだけ貴重な物かを考えれば」

 雷華が較の方を向いて言う。

「確かに凄く貴重な物って言ってたよな。やっぱり切り捨てたなんておかしくないか?」

 較が苦笑する。

「オーフェンが関わってるとなれば話は、別だよ。通常の奴らなら作るのも困難なエレメタルコアも、あの連中だったら簡単に作れる。元々、強力な力を使って裏から人々に干渉している連中だしね」

「八刃も同じじゃ無いのか?」

 良美の突っ込みを無視して較が脅す。

「諦めるなら今のうちだよ。オーフェンが関わっていた以上、八刃は、本気で動く。今度は、珊瑚どころか、この島自体がなくなる可能性が出てくるよ」

 悔しげな顔をするゼットを見てアールが言う。

「お願いです、ゼット様に酷いことをしないで下さい」

 必死に頭を下げるアールに同調するように優子が言う。

「どうにかならないの?」

 較がゼットの方を向いて言う。

「珊瑚帝国が、これ以上の抵抗を見せなければ、多分大丈夫だと思う」

 それに対してゼットが言う。

「駄目だ! ここで計画を諦める訳には、いかない。この計画が成功しなければ……」

 ゼットがアールを一瞥してから較に告げる。

「オーフェンに捨て駒にされたのかもしれない。だが、私は、珊瑚神に賭ける!」

 ゼットが祭壇に己の手首から血を垂らし始めた。

「無駄な足掻き! 召喚がなされる前に戦闘不能にする!」

 較が舌打ちして止めに入ろうとすると、その前に珊瑚の防壁が発生する。

『バハムートブレス』

 一撃で珊瑚を粉砕して、較が接近した時、空間が歪み、その奥から珊瑚で出来た手が現れた。

 較が本能に従って体を捻った瞬間、珊瑚の槍が較の腕を貫いた。

「ヤヤ!」

 良美の叫びに較は、槍をへし折り、脱出して答える。

「大丈夫! それより、召喚が早すぎる。まるで最初から世界の境界に居たみたい……」

 悔しげな言葉に表れた珊瑚の顔が答える。

『我は、珊瑚神なり、この世界に新たな支配者と成ろう』

「召喚されちゃったの?」

 エアーナの言葉に較が首を横に振る。

「まだ、四方からの力が来てないから、完全にこっちに出れてない。出てくる前だったら押し戻せる。少し力技だけど、ヨシ!」

 良美が頷く。

「やっちまえ!」

 較が右手をまだ空間の歪みから抜け出せず、回避できない珊瑚神に向けて叫ぶ。

『ホワイトファング!』

 白い閃光が珊瑚神に直撃した。

 その力を知る良美がヘタリながらも勝利を確信した。

「やったな! あとは、珊瑚帝国の奴らを反省させれば終わりだな」

 しかし、較は、真剣な顔のまま答える。

「駄目、耐えられた」

「……嘘?」

 良美が青褪めるのは、当然だった。

『それは、八百刃獣の力だな? 何度も食らったら危ない、次から弾かせてもらうぞ』

 較が悔しげに間合いを空ける。

「連発しろ!」

 雷華の言葉に較が首を横に振る。

「あいつだったら弾かれる。そうなったら、大惨事になる。そして……」

 その後に続く言葉は、誰もが予想できた。

 ホワイトファングを耐える化け物に通用する手が無い事を。

 ホワイトファング使用による激痛を堪えながら良美が言う。

「どうするの?」

 較が大きく深呼吸をしてから答える。

「あちきに諦めるって言葉があると思う?」

 良美が激痛に冷や汗を垂らしながらも笑みを浮かべて言う。

「必要だったら何発でも撃っていいからね」

 較は、頷くと突進した。

『フェニックス』

 炎の鳥が珊瑚神に直撃する。

『何の冗談だ?』

 全然効いていない珊瑚神だったが、その知覚から隠れた較は頭上に移動していた。

『何をやっても無駄だ!』

「それは、どうかしらね?」

 較は、そう言って腕に刺さった珊瑚の槍を引き抜く。

 大量の血が噴出して、珊瑚神を濡らす。

『我が血を縛とし、封じの白き風を生み出せ、白血縛風ハクケツバクフウ

 突風と共に較の血が珊瑚神ごと異界に引き込まれていく。

『馬鹿な、これ程の力、人の力では、ありえない!』

 困惑する珊瑚神に較が告げる。

「古流の技だよ。力が通じないからってあっさり引き下がれる程度の甘い戦いなんてしてないんだよ」

 それに対してゼットが自分の手首を切って、珊瑚神に掛ける。

「血の力を使った拘束なら、血を濁せば解ける!」

 ゼットの血で濁った部分から拘束から解き放たれる珊瑚神。

『この血、八百刃を信仰する八刃の者だな。もう油断は、しない!』

 巨大な珊瑚の塊が較に迫る。

「ヤヤ!」

 良美が叫び、較が軽くジャンプした時、その体をキッドが回収し、間一髪の所で巨大な珊瑚を避ける。

「グットタイミング」

『避け続けられるつもりか?』

 珊瑚神の言葉と共に次々と巨大な珊瑚が迫ってくる。

 キッドは、それらをかわし続ける。

「近づくのは、無理だよね?」

 較の言葉にキッドが頷く。

「一人じゃ無理ね」

「手伝うわ」

 ユーリアの声と共に糸が巨大な珊瑚の軌道を僅かだがずらしていく。

「この一発は、私が受け止める」

 地龍が現れて珊瑚の塊を無効化する。

 キッドが一気に珊瑚神に迫った。

『甘いな!』

 珊瑚で厚い壁が作られる。

 舌打ちしてキッドが間合いを一度外す。

「どうにか出来る?」

 優子が声を掛けると較が大声で答える。

「一番簡単なのは、祭壇を使って召喚している奴を殺すこと」

「駄目です! ゼット様だけは、助けて下さい! 何でもします、だから!」

 必死に訴えかけるアールに較が真剣な顔で答える。

「友達を護るために必要なら、祭壇を使って召喚している奴を殺す」

「止めてください!」

 止めようとするアールを優子が押しとどめる。

『無駄だ、私がそんな事をさせるとも?』

 ゼットの周りにも珊瑚の壁が生まれる。

「いくよ!」

 較の声と共にキッドが大きく回りこむように接近する。

 その間に地龍がバイクに飛び乗る。

『無駄だと言っている!』

 上下左右から迫り来る珊瑚の攻撃、糸が軌道をずらし、その隙をキッドが駆ける。

 ゼットまでもう少しの所で、今までの中で最大の大きさの珊瑚が迫ってくる。

 地龍が前に飛び出してそれを弾くが、自分も吹き飛ぶ。

『壁は、壊させない』

 珊瑚神が較の動きに集中した瞬間、銃弾がゼットを護る壁を粉砕した。

「今だ、行け!」

 ホープが声に応えて、バイクから飛翔した較が一気にゼットに迫る。

 悔しげな顔をするゼット。

「止めてください!」

 ゼットの前に同一属性で珊瑚の攻撃対象にならなかったアールが立ちふさがった。

 較の拳が止まった。

 珊瑚神が高笑いをあげる。

『折角のチャンスを潰してしまったな!』

 較の手がアールに伸びた時、ゼットが叫ぶ。

「止めろ!」

 ゼットが祭壇から離れた瞬間、祭壇が糸によって破壊される。

 較がアールの頭を撫でながら言う。

「これで、その穴も閉じる。戻る道が無くなるけど良いの?」

 不敵な笑みを浮かべる較に対して意外な事に珊瑚神が苦笑する。

『元からそのつもりだ!』

 較が驚いた顔をする。

「冗談でしょ? そんな事をしたら力の大半を失う筈だよ」

 珊瑚神は、狭くなっていく穴の所で体を切り裂いた。

 穴が塞がり、珊瑚神が叫ぶ。

『失った力の変わりに貴様らの力を奪ってやる!』

 珊瑚神が攻めてくる。

 ホープの弾丸が、ユーリアの糸が、較の撃術が放たれるが、どれも傷一つつけられない。

「あたし達、死ぬのか?」

 雷華の呟きに良美が怒鳴る。

「諦めるな! ヤヤがまだ諦めてない!」

『アテナ』

 較は、珊瑚に吹き飛ばされ、壁に激突するが、直ぐに壁を蹴って珊瑚神に向かう。

『ゼウス』

 強烈な雷撃が、珊瑚神を襲う。

『その程度の攻撃が効くか!』

『シヴァダンス』

 珊瑚神の周囲が一気に凍りつく。

『アポロン』

 莫大な熱量が凍りついた物質を温度差によって破壊していくが、珊瑚神は、無傷だった。

『それでおしまいか?』

 較は肩で息をしながらも言う。

「まだに決まってるでしょうが!」

 ホープ達も少しでも隙が無いか探っている。

『付き合う必要は、無いな』

 珊瑚神が決定的な力を放とうとした瞬間、それは、突如現れた。

 空中を泳ぐイルカ。

 それを見た瞬間、珊瑚神が悲鳴をあげた。

『まさか、もう追っ手が!』

 それは、応える。

『我は、八百刃獣の一刃、船翼海豚センヨクイルカ。八百刃様の命でお前を元の世界に強制送還する』

 船翼海豚が高速で珊瑚神の周りを回る。

『嫌だ! まだ滅びたくない!』

 珊瑚神が必死に珊瑚で船翼海豚を攻撃するが、触れることすら出来ず、そのまま船翼海豚諸共消えて行った。

 呆然とする一同の中、智代が言う。

「どうなってるの?」

 床に倒れた較が言う。

「あいつは、逃げて来たんだよ。元の世界で八百刃様の制裁対象になった。だからこそ力を失ってもこっちに来たかった。召喚が早すぎる事でその可能性も気付くべきだった」

 キッドがアールを確保しながら言う。

「異界の事情までは、読みきれなかったみたいね」

 そんな和やかな雰囲気の中、誰もが失念していた男が動いた。

「こうなったら、お前を殺して、オーフェンへの手土産にしてやる!」

 ジーが手に祭儀用のナイフを持って較に襲い掛かる。

 舌打ちしてホープが拳銃を向けた時、そのナイフは、腹に突き刺さった。

 呆然とするジー。

「どうしてですか?」

 それに対して腹にナイフを食らったゼットが応える。

「もう、終わりだ。八刃にこれ以上逆らえば、残った者達にも被害が及ぶ」

 腕をユーリアの糸で切断され、悲鳴を上げてのたうち舞うジーを尻目にゼットが較の方を向いて言う。

「全ての責任は、私がとる。だから残った者達には、危害を加えないでくれ」

「ゼット様!」

 駆け寄るアールを見ながら倒れるゼット。

 アールは、しがみ付き言う。

「死なないで下さい!」

 涙を流し、懇願するアール。

「ヤヤ、助けられない?」

 優子の言葉に較が複雑な顔をして言う。

「助けられない事は、無い。でも、あの人がそれを望んでいない」

 較の言葉にゼットが頷く。

「全ての原因は、この遺跡、珊瑚復活システムとアールを発見した私にある。短い間だったが良い夢を見れた」

 優しげな顔でアールを見るゼット。

「駄目です! 死んだら駄目なんです!」

 必死に訴えかけるアール。

「最後に一つだけ教えて、珊瑚復活システムの失敗点って何?」

 ゼットが弱々しい笑みを浮かべて言う。

「所詮は、あれを作った珊瑚神には、人の心が解らなかったって事だ」

 そのままアールの手の中で静かに永遠の眠りにつくゼット。

「ゼット様!」

 アールの悲しい叫びが遺跡に木霊する。



 珊瑚神と船翼海豚は、元の世界に戻ってきていた。

 その世界は、地球全部の情報と等価値の珊瑚が乱立する上位世界。

 しかし、その世界の支配者、『透明な珊瑚』は、絶望の中に居た。

「何故だ……」

 不老不死を求めた『透明な珊瑚』は、様々な可能性を求めて数多の世界に珊瑚神達を送って居た。

 その為、八百刃使者である中位の八百刃獣、水流操竜スイリュウソウリュウから下位世界への過剰干渉の禁止通告を受けたが、無視した。

 ホワイトファングに耐えた珊瑚神が雑魚と思えるほどの戦力があったからだ。

 序盤は、優勢だった。

 部下達は、八百刃獣と均衡を保ち、『透明の珊瑚』が出れば一気に押し返すことも可能だった。

 しかし、それは、上位八百刃獣達のたった数時間の参戦で覆った。

 圧倒的な力で、『透明な珊瑚』の部下達を駆逐し、『透明な珊瑚』も幾度も負傷し、忠臣の命懸けの時間稼ぎで上位八百刃獣の滞在可能時間切れを待つしか無くなっていた。

 多くの者が逃走を図った。

 珊瑚神は、その逃走した者の一人でしかなかったのだ。

「お前が最後だぞ」

 船翼海豚に声をかけたのは、多くの『透明な珊瑚』の部下を閉じ込める牢獄と化したスライム、水牢粘スイロウネンだった。

 船翼海豚が不満気に応える。

「こいつが、殆ど干渉を禁じられた下位世界まで逃亡していたんだから仕方ないだろう。まーそのおかげで、久しぶりに目の保養は、出来たがな」

 脳裏にヤヤ達の姿(空間干渉能力を使ったヌード)を思い浮かべる、金海波キンカイハの部下だった事がある船翼海豚。

 そして、世界が鳴動する。

 世界の中心、『透明な珊瑚』の目の前に、人の背丈ほどの白虎を引き連れたポニーテールの少女が現れた。

 珊瑚神が愕然として呟いた。

「私は、あんな者に抗おうとしてたのか?」

 珊瑚神達が居るのは、中心から遠く離れた場所であった。

 しかし、それでも解ってしまう、それが存在するだけでこの世界を破壊できる強者だと。

 船翼海豚が驚いた顔をして言う。

「信じられない、白牙様まで出張って来てるぞ」

 水牢粘が淡々と応える。

「これ以上、こんな世界に余計な手間をかけたくないって言うのが本音だろう。それでも今回の降臨は、随分反対が有ったって聞いている」

 船翼海豚が頷く。

「当たり前だろう、こんな世界の事で八百刃様の手を煩わせるなんて、担当だった、水流操竜様の面目丸つぶれだぜ。よく白牙様が納得したな」

 水牢粘が声を小さくして言う。

「ここだけの話だぞ。今回の件で水流操竜が猛反対した時に、八百刃様が頭を下げてお願いしたらしい」

 慌ててそっぽを向く船翼海豚。

「俺は、何も聞いてないぞ!」

 そんな部下達の会話に顔を顰めながらも白虎、白牙が通達する。

「『透明な珊瑚』、お前は、八百刃様の通告を無視し続けた。そして、お前達の下位の世界に与えた影響は、大きい。依ってこの世界共に完全消滅させる」

「我は、諦めないぞ!」

 最後の抵抗をする『透明な珊瑚』、銀河すら一瞬で押しつぶせる実を持った珊瑚がポニーテールの少女、八百刃に迫った。

 しかし、ポニーテールの少女がただ見るだけで消滅した。

「『透明な珊瑚』、その思いは、遠い昔、娘を失うことを恐怖した、神に準ずる者から引き継いだ物だよ。必死にならなくても大丈夫、あの血筋は、今も生きているから」

 右手を天に向ける八百刃。

『白牙』

 白牙が虎の姿から刀に変わり、八百刃の右手に握られた。

 振り下ろされた白牙。

『ホワイトエンド』

 たった一振り、それだけで白い光が世界を終らせた、一瞬の抵抗も許さず、八百刃と八百刃獣以外の全てが消え去ったのだ。

 そして、八百刃の手の中に小さな透明な珊瑚が有った。

 白虎の姿に戻った白牙が言う。

「まさかそれは……」

 八百刃が頷く。

「『透明な珊瑚』のファーストコア」

「どうしてそんな物を残した!」

 怒鳴る白牙に八百刃が応える。

「あいつの思いを残したかったから」

 舌打ちする白牙。

「しかし、そのまま放置したら、また同じことが起こるぞ!」

 八百刃は、笑顔で答える。

「そこは、安心して、ちゃんと苗床は、考えてある。貴方に侵食されて居る子の所よ」

 白牙が遠い目をして言う。

「そういえば、あいつの血族だったな」

 八百刃の手から転送されたそれは、下位世界に向かって飛んでいった。



「生きてるのか?」

 雷華は、白目で口から泡を吹いている良美をつつく。

 地面に倒れたままの較が応える。

「ホワイトファングを使った直後に、白牙様が物凄い力を使ったのを感じたからきついね。あちきもダメージ大きいよ。だから、すまないけどキッドとアールを残して先に帰ってて」

「でも……」

 ゼットの傍で泣き続けるアールを見て躊躇する優子達をユーリアが先導して、連れて行く。

 地龍に背負われ去っていく良美を見送りながら、較がヨロヨロしながらも立ち上がる。

「その人も連れて行く?」

 較の言葉にアールは、首を横に振る。

「ゼット様は、ここが好きでした。そして、本当に珊瑚の復活を望んでいました。ですから、あたしは、システムの一部になります」

 較は、予測していたのに複雑な顔をして言う。

「その人は、それだけは、認めないと思うよ。主のいう事をきくのが貴女の存在価値だと思ったけど?」

 アールは、屈託の無い笑顔で答える。

「駄目ですね、ゼット様の命令より、ゼット様が夢見た珊瑚の復活をしたいって気持ちが強いんです。やっぱり失敗作ですね」

 較は、説得を諦め、キッドの後ろに乗る。

「頑張ってね」

「はい! きっとのこの島の海を再び珊瑚でいっぱいにします」

 そのアールの笑顔は、輝いていた。



 数日後、プライベートビーチで遊ぶ較達。

 浮かない顔をして優子が言う。

「珊瑚は、無事復活するのかしら?」

 較は、調査結果を渡しながら言う。

「大丈夫だよ、珊瑚復活システム自体には、なんの問題が無いもん」

 優子は、渡された資料を見ながら戸惑う。

「でも、それでしたら、何で失敗作って?」

 較が優子の方を向いて言う。

「アールがシステムの一部なって、会えなくなったの悲しくない?」

 優子が辛そうに応える。

「短い間でしたけど、本当に良い子でした。もっと一緒に居たかった」

 較がため息を吐いて応える。

「珊瑚神には、その気持ちを理解できなかった。発見し、長い時間を一緒に暮らしたゼットにアールを装置の一部として扱うことが出来なくなってしまった。目的を果たす為の道具である筈の生体ロボットなのに感情を持ち、人に愛されたアールは、あちきも失敗作だと思うよ」

 何もいえなくなる優子。

 そんな二人に良美達が水鉄砲を撃って来た。

「何を深刻な顔をしてるの。確かにアールとは、悲しい別れだけど、それでもあたし達にもやれる事があるだろ」

 優子が首を傾げる。

「やれる事?」

 良美が頷き応える。

「アールが再生させる珊瑚を護ることだよ」

 優子が驚いた顔をし、近くで聞いていたエアーナが呟く。

「良美さんも考えるってことあるんだ」

「初めて見たかもな」

 雷華も優子と別の意味で驚いて居た事に良美が怒鳴る。

「あたしを何だと思ってるの!」

 智代が即答する。

「我侭大魔王」

 爆笑する一同、良美が爆発する姿に微笑みながら、較が海を見て言う。

「アールの気持ちに応える為にもやりますか」



 少し未来の話。

 南にゼアと改名された島があり、そこでは、ここだけにしか存在しない透明な珊瑚が群生している。

 その島は、八刃の専用の保養施設として珊瑚帝国の残党共々平和な日々を過ごしている。

 そして、島の人々に御参りする遺跡には、一人の男の墓があり、その奥では、珊瑚の再生を祈り続ける心優しき少女が居ると言われている。

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