仮想世界に戸惑う和留土高校
とある進学校で流行る体感ゲーム、その正体は?
東大合格者を多く出した進学校、和留土高校。
「この学校嫌!」
一日目の放課後で弱音を吐く良美。
「我慢する。進学校ってこんなもんだよ」
珍しく学校の勉強の予習をする較。
「第一おかしいわよ、体育の時間が週に一回しかないなんて!」
良美のクレームに苦笑する較。
「まあね、家庭科も殆ど無いしね」
そんな会話をしているとクラス委員長、雨宮雫がやって来て言う。
「当然です。東大に合格するには、余計な事をしている余裕は、ありません」
較は、真面目な顔で言う。
「学校は、勉強をするだけの場所じゃないよ。それに料理とお裁縫を一通りは、出来ないとまともな大人には、成れないよ」
雫は、余裕の態度で言う。
「そんな物は、出来なくても生活出来ます」
較が言う。
「よくテレビで見る、料理もろくに出来ない女性ってまともな大人だと思う?」
口篭る雫。
「そうそう、運動も出来ないとね」
胸を張る良美に突っ込む較。
「お馬鹿回答する芸能人もまともな大人じゃ無いと思うけどね」
そんな中、生徒会長、八王子金倶が来て言う。
「これは、転校生のお二人さん。そうだ、僕達は、これから物凄く楽しいゲームをやるんだけど参加しないかい?」
その言葉に、雫が体を軽く震わせたのを較は、見逃さない。
「解りました」
較の返答に満足そうに頷く金倶。
「それじゃあ、雨宮さん、二人を例の場所に案内してくれたまえ」
「……解りました。生徒会長」
雫は、辛そうに返事をする。
金倶が去っていった後、雫が較達に視線を合わせず言う。
「無理しなくても良いのよ?」
良美が笑顔で言う。
「ゲームだろう。楽しみだよ」
較も頷く。
雫は、小さく溜息を吐いて、歩き始める。
「こっちよ」
そんな背中を追いながら良美が小声で言う。
「これ、今回の事件関係だよな」
頷く較。
「この学校で、犯罪を起こす生徒が頻発に出ている。その生徒達が口を揃えて言う。ゲームって単語の正体がこれで解るよ」
較と良美が連れてこられたのは、不思議なカプセルの設置された部屋。
「この中に入ると、リアルな体感ゲームが出来るの。リアルなだけで後は、オンラインゲームと一緒です」
雫の説明に良美が言う。
「面白そうだな」
そして、カプセルに入る。
「あちきも入りますか」
較も入り、付属されたマスク等をつけてログインした。
「おー、まるでアニメのネット世界みたいだな」
格闘家の格好をした良美が楽しそうに言う。
賢者風の較は、周囲を見回し、答える。
「なるほどね、だいたいの仕掛けは、解ったよ」
「へー、それでどうするんだ?」
良美の言葉に較が言う。
「やることは、普通のゲームと一緒。ラスボスを倒すよ」
こうして、良美と較の旅が始まった。
「レベルあげって言葉が虚しくなるな」
良美が、詰まらなそうな顔をする中、較が最初の中ボスのドラゴンを素手で倒す。
「所詮は、ベースは、オンラインゲーム、操作次第では、低レベルでも、十分勝てるって訳だよ」
そして、中ボスを倒して手に入れたアイテムを持って、町の宿屋に泊まる。
するとその夜、襲撃があった。
それも同じプレイヤーから。
「へへへ、ラッキーで中ボスを倒した低レベルキャラからイベントアイテムを奪う方が中ボスを倒すより楽だよな」
「ついでに、可愛いから回そうぜ」
「良いな、どうせゲームなんだ、犯罪じゃないしな」
そんな下衆の会話に良美が肩を竦める。
「ゲームだからこそ、ルールを守ろうって気にならないのか?」
後からの声に驚き、振り返った下衆プレイヤーの前に立ち、較が笑顔で言う。
「ゲームだから、トラウマになっても恨まないでね」
下衆プレイヤー達は、地獄を見て、普通のオンラインゲームすら関わらなくなった。
「何だろうね、あれ?」
次の目的地に向かう途中で良美が眉を顰めて言うと較が答える。
「あれが犯罪の元だね。リアルすぎるこの世界と現実の区別がつかなくなった馬鹿が犯罪をするんだよ」
そんな中、一人の女魔道士が現れた。
「ここから先には、行っては、いけません!」
その声に、良美が首を傾げる。
「どっかで聞いた声の様な……」
較が頷く。
「雨宮さんだよ」
驚く女魔道士。
「私は、そんな名前では、ありません!」
較が苦笑して言う。
「人の声は、いくらボイスチェンジャー等で変えても解るものなの。でも何でこのゲームを始めたの?」
女魔道士、雫は、諦めた顔をして答える。
「最初は、ストレス発散の為。自分でない自分に成れるって。最初は、何でも出来たから楽しかった。でも……」
言いよどむ雫に較が問う。
「こっから先に行くと何が待っているの?」
雫が答える。
「この先には、生徒会長いえ、この世界の神の神殿があるわ。この世界は、その神によって作られ、この世界に入った以上、誰も神には、逆らえないのよ。私も無理やり……」
何があったのかは、良美にも解った。
「最低な神様だな。ヤヤ、ほっておくのか?」
驚いた顔をする較。
「どうしてほっておくと思うの?」
良美は、笑顔になって言う。
「神殺しといきますか」
雫は、慌てて言う。
「駄目よ、神には、誰も逆らえないのよ!」
「相手が神様でも関係ないよ、敵対者には、抗うのみ」
較がそう答えて前に進む。
驚く雫に良美が言う。
「安心しなよ、あたし達は、神や魔王と戦うのは、慣れてるからね」
そして、あっさり神と呼ばれ、それっぽい格好をした金倶の居る神殿に到着する較。
「神の僕に何の用だね?」
余裕たっぷりな態度に良美があっさり言う。
「神と名乗ってスケベの事をするセクハラ野郎の退治に決まってるだろう」
高笑いを上げる。
「神に逆らう等、無駄な事だ!」
次の瞬間、較と良美の装備が外れて、裸にされる。
「もう、呪文も技も使えない。ついでに言えば、神である僕には、誰もダメージを与えられない」
較は、自分の裸を見て言う。
「肌の色も違う、やっぱりこれって貴方の想像な訳だね。雨宮さん、いい事を教えてあげる。このゲームの中の事は、全て、見られた裸も、この自称神様の想像だよ。だから、貴女は、穢されて居ない」
雫が、戸惑う。
「どういうことですか?」
較が言う。
「これわね、体感式のネットゲームと見せかけた幻術の類。ゴテゴテしたシステムは、ゲーム要素をカバーするだけの物で、見てる映像も体感も、この自称神様が作り出した物だよ」
顔を引き攣らせる金倶。
「どうして解った」
較が肩を竦める。
「あのね、自分の裸ぐらい、見分けられるし、周りの風景、特に太陽の大きさ等があちきの見てる大きさと全然違う。これは、幻術を使っている人間のイメージを無理やり送りこんでるからだって直ぐ解った」
怯むが虚勢をはる金倶。
「仕掛けがわかった所で、僕に危害を加えられない事実は、変わらない」
苦笑する較。
「幻術使いの言葉とは、思えないね」
そして良美が近づく。
「近づくな!」
次々と放たれる魔法。
しかし、良美には、当たっても無効だった。
「どうしてだ!」
良美が拳を振り上げて言う。
「幻術と解ってるのに、怖がる必要がどこにあるんだよ?」
そして拳が振り下ろされる。
クリーンヒットするが、金倶に痛みは、無い。
「そうだ! 僕がお前達にダメージを与えられないのと一緒で、この全てが幻覚だとわかってる僕がダメージを受ける事は、無い!」
自信を取り戻す金倶に連続して攻撃する良美。
どれも無効になる。
「無駄だと言っているだろうが!」
金倶がそういいながら、ゆっくりと後退し始めていた。
「無駄なんだろ、逃げるなよ」
良美は、そのまま攻撃を続ける。
無効な攻撃を喰らう度に体を震わせる金倶。
そんな金倶を見て雫が言う。
「どうして?」
「あのね、幻術は、解ったからお終いって簡単な術じゃ無いの。幻術だと解っていても攻撃されれば怖いのが普通の人間。平気なヨシが特別なの」
較の説明し、良美が攻撃を続けながら言う。
「さあ、どれだけ我慢できるかな?」
「嫌だ!」
金倶は、呻き、ゲームの世界が消滅していく。
精神集中の為の特別室で目を開ける金倶。
「まさか、あんな目に会うとは、とにかく、もうあの二人をゲームに入れるのは、止めよう」
汗を拭う金倶にタオルが差し出される。
「ありがとう……」
言ってから驚き、タオルを差し出された方を向くとそこには、較が居た。
「馬鹿な、僕の幻術に掛かってる状態じゃ、五感がまともに働かないから動けるわけが無い筈だ!」
較が笑顔で言う。
「別に難しいことじゃ無いよ。普段からやっている微少な気の放出によるソナー探索を利用すれば動けるし、幻術をかける為に放たれた術波を手繰るなんて朝飯前だもん」
顔を引き攣らせる金倶。
「お前、何者だ?」
較は、黒いオーラをだしながら言う。
「ゴメンね、あちき強姦魔だけには、手加減出来ないの」
次の瞬間、金玉を潰されて意識を失う金倶であった。
ゲームの事は、闇から闇に消えていき、較と良美の仕事も終わった。
そして、二人は、高校生活の二度目の夏休みを迎えるのであった。




