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アカガミノドカ  作者: HDK
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第1章 「始業」

第1章「始業」


 それは高校2年生に進級した矢先に起こった。

高校1年の時は、クラスの奴らと意気投合し、平穏な日々を送った。部活動もせず、放課後になれば、クラスの奴らとカラオケにゲーセンと気ままに楽しむ日々を消化した。今思えば、その楽しい1年間が、随分と昔のように感じられる。


俺は、今年も友人と馬鹿騒ぎしたいという気持ちを胸に秘めつつ、クラスの割り振りを見に行った。この紅花学院高校は、男女共学という事もあり、異性との新たな出逢いを何気に楽しみにしていたのだが、学校の掲示板に貼られた割り振り表の中に俺の名前が、どこにも記載されていなかったのだ。俺は、職員室に行き、事情を話したが、ちゃんと見ろと言われ、俺は再度、掲示板をもう一度確認しに行った。じ~っと目を配り、あるクラスを見て、俺の目が点になった。

掲示板の右端の方に「2年10組」と記されたリストの中に俺の名前が書かれていたのだ。

そもそも俺の代の2年のクラスは、全部で5組までしか存在しない。

ホームルームの始まる時間が迫っていた為、仕方なく、さっき見つけた「2年10組」の名簿と教室を確認した。

「これから一緒に過ごす奴らは………と。」

まず俺はクラスの人数を見て、唖然とする。


「たったの6人?」


この時ばかりは、教員が仕組んだ何かの罠だと疑わずにはいられない状況の自分がいた。

俺は頭をぐしゃぐしゃに掻き毟りながらも、俺を除く5人の生徒たちを確認した。

そこに記された名前は―――


椙山 未奈―――黒川 長閑―――長篠 麻利―――日々野 果歩―――久居 美亜

以上………。


「なぜに俺以外………女子なんだ?」

訳のわからんクラス構成に余計に不安が募ったが、その反面、男の性が反応してしまい、変な想像をしてしまう自分が居たわけなのだが………。

次に教室の場所を確認したが、そこには、こう書かれていたのだ。


―――3階突き当たりの資材室………。


「………。っていうか、教室じゃないんですけど!」

掲示板を相手に一人ツッコミを口走ってる俺は、周囲の生徒から、怪しい目で見られていた。そんな周囲の目から逃げるように、すぐその場を離れ、何が待ち受けているかもわからない資材室に足を運んだのだった。

 3階までの階段は、何かと厳しいものがあった。帰宅部の俺にとっては、たいしたスタミナもなく、すぐに息を切らしてしまう。途中立ち止まり、ゼイゼイと言いながら、体内に酸素を補充しては、資材室を目指した。


―――ようやくの思いで、資材室に辿り着いたが、俺の身体は、この部屋に入るなと言わんばかりに拒絶するのだ。しかし、初日から遅刻するのも気分が悪いもの。一呼吸ついて、俺は、未知のクラス「2年10組」の扉をゆっくりと開けた。


その扉の向こう側に別世界があるとも知らずに………。


 室内に踏み入れた俺の目に飛び込んできた光景に絶句した。

赤い液体を流している女子生徒の首を持ち上げ、片方の手には、血で覆われたカッターナイフを持った女の子がいたのだ。この時ばかりは、あまりの衝撃で身体が反応しなかった。目を閉じようにも閉じれない。ただ、俺は眺める以外、どうする事も出来なかった。死にかけている女子生徒は、俺の気配に気付いたのか、首を絞められているのにも関わらず、俺を見ようと必死に振り返り、何かを伝えようと口をパクパクと動かしている。俺は、彼女の口の動きを読もうと神経を尖らせ、解読できた一文字一文字を心の中で読んだのだ。


あ―――か―――が―――み―――。


「あ………あかがみ?」 

その4文字以降の解読を続けようとしたが、もう遅かった………。

カッターナイフが、女子生徒の首のラインを横にかすめた。それから、数秒も経過しないまま、彼女の姿が見えない程の赤い霧が、室内を覆ったのだ。気付けば、返り血が、俺の顔や制服に付着していた。

 女子生徒を殺した彼女の顔は、俺のこの位置からでは、確認できなかった。だが、その彼女の隣に立っていたもう一人の女の子の姿が目に映ったのだ。

 銀色の髪と白い瞳を持つ女の子………。まるでモノクロの世界からやってきた異世界の住人に思えた。銀髪の彼女は、死んだ魚のように無表情だったが、何か言葉を口に出している様子が伺えた。無残に切られた女子生徒は、もう動かなかった。体内の血液をすべて放出した女子生徒の顔は白く変色していた。。

 彼女は、血だらけのカッターナイフを殺しを働いた女の子から受け取り、自分のハンカチで、冷静に拭き始めた。俺は、彼女を見続けた。間もなくして、俺の存在に気付いた彼女が、ゆっくりと俺に歩み寄ってきた。その行動に俺は、恐くなり、自然と足が後ずさりを始めたが、後ろの壁にぶち当たる。彼女は、依然無表情のまま、俺の目の前で足を止めた。片手には、まだ拭き取って間もないカッターナイフが握られていた。もうおしまいだと潔く目を瞑る俺だったが、彼女は俺にこう言ったのだ。


「あなたの為に彼女たちを殺したの………。」


その一言だけを俺に残し、椅子に腰掛ける音が聴こえてきた。彼女の気配が消えたのを見計らい、俺はゆっくりと目を開いた。開いた先に映った室内は、何事もない普通の資材室があった。

 赤に染まった床や壁は、消えており、殺したであろう女子生徒の亡骸もそこには、無かった。俺はひどく疲れているのだろうか?放心した面持ちで、適当に机を選び、椅子に腰かけた。

 しばらくすると、廊下から女子の話し声が聴こえてきた。どうやら、この10組に選ばれた残り4人だろう。そして、彼女たちも俺と同じ心境だったのだろう。一度立ち止まってから、入ってきたのだった。しかし、4人ではなく、3人しかいない。どうせ欠席だろうと思った俺がいた。そんな事よりも今は、入ってきた3人の彼女たちを見て、少し安堵した。なぜかと言えば、3人全てが、去年同じクラスになった女子だったからである。彼女たちも俺の存在に気付くなり、いつものハイテンションで声をかけてきた。

「よっ! アンタとまた同じクラスとはねぇ………。それより10組って何よ?」

初めに話しかけてきたのは、長篠 麻利という女の子だ。コイツは、去年、たまたま席が隣になっただけで、何だかんだ言っては、俺に付きまとってきた。だが、麻利のそういう所を気に入ったのか、何度か二人で遊んだ記憶も残っている。

「俺が知るかよ! 今から来る担任に聞け!」

「良かったぁ………。大鳥くんとまた同じクラスだ! ふふ。」

彼女は、椙山 未奈。学年トップの優等生だ。そんな彼女には、授業ノートを写させてもらったり、困っている時は、何かと助けてくれる女神様みたいな存在だ。

「俺も椙山さんとまた一緒になれて、嬉しいよ!」

「キャー! 照れるような事言わないでよぉ! もう………。」

彼女の赤らめる顔は、いつも可愛い。その時、未奈の隣にいた麻利が、何やら冷たい視線を俺に送ってきた。

「なんかさ! 私と態度まったく違うんですけど?」

「おまえは、さっさと早く席に着け!」

「何? この待遇の違い! おかしくない?」

麻利は、不機嫌なまま俺の右隣の席に着いた。

「大鳥………。あなたとまた同じ時を過ごすのね。これも運命の悪戯かしら!」

そして、3人目のこの女の子は、日比野 果歩。未奈が可愛い系ならば、果歩は、綺麗系だ。だが、その美人とは裏腹に果歩の趣味は暗いものがあった。占いやオカルトといった類をこよなく愛する傾向があり、去年も教室の片隅で、怪しい本ばかり読んでいた記憶しかない。しかし、果歩曰く、俺と果歩の相性は、抜群に良いらしい。それ以降、麻利と同様で絡んでくる存在になっていた。

「果歩………。占いも良いが、今年は最低限勉強しろよ?」

「大鳥くんが一緒に居る時は、ちゃんと勉強するわよ! フフフ………。」

ため息しか出ない………。

 だが、パッと見れば、この3人は何かとバランスが取れているのかもしれない。それぞれ違う性格に異なった個性が、何かと楽しいぶつかり合いを見せてくれるだろうと、俺はそう思ったのだ。


***


 彼女たちが来た事で、10組の生徒が、5人だけ揃った。資材室に用意されていた席は、一列目に3席、2列目に3席と計6人分の席が並べられていた。掲示板で見た生徒リストにあった久屋 美亜という女の子だけが、まだ来ていない。椅子取りゲームのように、適当に座った俺たちがいた。結果、前列中央に座った俺の右に麻利、左に果歩。そして2列目右端に未奈。そして、中央が空席で左端に例の彼女が座っていた。必然的に久屋さんは、俺の後ろの席になってしまっていた。でも、久屋さんよ! 心配する事はないぞ! どうせ、すぐに席替えがあるのだ! それまでは我慢してくれ!

そんな事よりも気になっていたのは、初めに出会った白い瞳の彼女の存在だ。俺は、少しばかり振り返り、彼女を見た。か細い腕を机に乗せ、何か小さな本を読んでいる姿があった。こちらに気付く事なく、自分の世界に入り込んでいる様子が伺えた。違うクラスにいたとは言え、あの風貌であれば、何かと噂は広まるものだが、そんな話は聞いた事がない。いろいろと考えていると、麻利が、小声で俺に話しかけてきた。

「あのさ………。後ろの銀髪の彼女なんだけど。あんな子いた? この学校に。」

どうやら、「生徒通」のこの麻利も知らないようだ。麻利は、1年次から他クラスへの出入りを頻繁に繰り返していたせいか、麻利の友人は、他クラスに結構いた。コイツが知らないとなると、彼女の謎は、ますます深まるばかりだ。

「ここに来たの、あの彼女が一番乗りだったぞ! 人間アドレス帳と言われてるおまえが、彼女を知らないとなると、おまえの記憶もここまでみたいだな!」

「何それ? 人を機械みたいに呼ばないでくれる? ………で、アンタは、もう彼女とは、何か話したの?」

「いや………何も。」

「はぁ………。アンタも早く彼女作って、高校生活をバラ色に過ごさないと、あっという間に卒業よ! 後から後悔しても知らないわよ!」

「彼氏のいねえおまえに言われる筋合いはない!」

麻利に言われた言葉をそっくり返してやると、言葉を返せない自分の悔しさからなのか、怒り顔で俺を睨んできた。麻利は、怒りっぽい性格なのか? 短気なのか? よくわからないが、いつも俺につっかかってきては、話の最後には、必ず機嫌を損ねるのだ。俺には、そんな女心が、わからない。不機嫌な麻利をよそ目に、再び、銀髪の彼女を見ている自分がいた。


―――しばらくすると、資材室の扉が開き、俺らの新担任が入ってきた。

この学校では、号令は決まって、扉に近い席の生徒がするルールに自然となっていたが、そのまま席に着いたままで良いというサインを担任が俺らに送ってきた。薄い出席簿を教壇に置き、俺らを一通り見渡した後、担任は話し始めた。

「おはようございます! 今日からこの10組を受け持つ事になりました担任の由愛 綾子です。1年間よろしくね! あなたたちも不思議に感じたと思ったでしょうが、この10組というのは、特別クラスなの。これは、毎年2年生だけに設けられているクラスで、通常のクラスとは異なり、生徒は6人だけが、職員会議でランダムに選出されます。その結果、今年は君たち6人が選ばれました。もう1人の生徒の久居 美亜さんは、風邪で欠席ですので、今日は君たち5人だけです。何はともあれ、今日からの1年間! 楽しい日々を無事に過ごしてください。」


―――「無事に」という言葉に引っかかった。由愛先生の言葉に、疑問点が浮かぶ。俺は、会話の間を見計らい、由愛先生に質問した。

「先生? 質問! このクラスを作った目的は何ですか? あと………。」

「わかってます! 大鳥くんから受けた質問は、毎年聞かれる事だから、ちゃんと話すわ!」


「無事に」………の問いかけを由愛先生は、打ち消した。以前も俺と同じ質問をしてきた先輩たちがいたという事実だけは理解できた。今は由愛先生に従い、素直に席に着いた。

「大鳥くんから出た質問の答えは、今からお話する会話の中に出てきますので、しっかり聞いてください………。」

室内は、静まり返り、窓の隙間から入り込む風の甲高い音だけが、聴こえていた。

 

そんな中、由愛先生は、ある話を語り始めたのだ。


―――君たちは知らないと思いますが、6年前の4月22日………。

当時2年生だったある女子生徒が、クラスの生徒たちを殺してしまった事件があったの。加害者の女の子は、殺害後に自分の首を切って自殺を図り、その日一瞬にして、クラス全員が、この世から姿を消してしまった。私は、その頃大学生だったけど、あまりにも大きすぎる事件だったから、よく知っているわ………。

現場に駆けつけた教師たちは、無残な光景を目の当たりにして、1週間も経過しないうちに辞職したと聞きました。でも、辞めたその教師たちが、年内にそれぞれの自宅で自殺していた事が、後になって、ニュースでわかったの。そのニュースに出ていた専門家は、事件による精神不安定が原因だろうと言ってましたが、その推論も翌年には、打ち消されてしまう。それは、翌年にも起こってしまったから………。

一人の生徒が、その翌年同じ4月22日に教室内で発狂し、持っていたカッターナイフでクラスの生徒たちに向かって、何ふり構わず振り回し、教室内を暴れたらしいわ。その結果、6人が死亡しました。加害者は、前年と同様に、自分の首を切って自殺してしまった。こんな事が、不思議に毎年続くようになってしまったの………。加害者は、必ず最期自らの首を切って自殺をしてしまう。そんな惨劇が続く教室が………。


「ここなのよ!」


急に叫んだ由愛先生の言葉に僕らは、口から心臓が飛び出る程びっくりしてしまい、生徒たちは、椅子から転げ落ちていた。ただ一人を除いて………。

「っていう、怪談話はどう?」

地面に尻をついた俺らを見て、由愛先生は、笑顔で返答を待っていたが、僕らは、再び椅子に腰掛け直し、由愛先生にブーイングを放つのだった。申し訳なさそうに、謝罪する由愛先生の姿があったが、リアルすぎる話の内容に冗談とも思えない真実味を感じる自分がいた。

その話の後は、至って普通のホームルームの話が続いた。

俺らが選ばれた理由は、教育委員会の指示だった。進む少子化に合わせ、各学校の採用教員の人数を増やす計画らしい。クラスを何人まで定員縮小できるかを数年前からテストしているとの事だ。俺らはその話を聞くと胸を撫で下ろしたが、このスッキリとしない気持ちのブルーさだけは、どうしても抜けきれなかった。

由愛先生は、今後のスケジュールと時間割表を配り終えると、笑顔で解散の言葉を発し、高校2年生初日は、あっさりと終わってしまったのだった―――。


 その後すぐに俺らは、個々の机を中央に引き合わせ、由愛先生の話について、話し始めようとしたが、銀髪の女の子は、颯爽と筆記具を鞄に納め、帰ろうとしている姿が、目に止まった。麻利ら女子生徒は、気味の悪い子と言った感じの様子で、彼女が出て行くのを見ていた。俺は、朝見た不可解な体験もあった為か、麻利たちに侘びを入れ、無心に彼女の後を追いかけたのだ。

 資材室を出ると、彼女の姿はもう居なかった。しかし、何かを知っていると、俺の第6感が反応していた。階段を2段飛ばしで一気に駆け降りていく。

ようやくの思いで、1階まで降りきった俺だったが、自分の足に2段飛ばしの負担が、一気に押し寄せ、すぐに走り出せなかった。自分の運動不足をこの時ばかりは、腹立たしいと思ったが、校舎の玄関口で俺を見つめる彼女の姿があった。変わらない無表情に加え、吸い込まれるような白い瞳で俺を見つめていた。俺は、急ぎ上履きから下靴に履き替え、やっと彼女に追いついた。俺の準備ができたのを確認した彼女は、俺の左隣に身体を移し、小さな声でこう言った。


「私になんか用?」


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