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子犬は何も知らずに

作者: 西表山cat

 そこにいるのは、小さく、まだ可愛い野良の子犬だった。その子犬は保健所で殺処分される直前にある優しそうな男に引き取られた。


だが子犬はまだ多くを理解できず、また理解される事もなかった・・・もともとの気性も荒く、飼い主を噛んでしまったのだ。


この子犬はもしかしたら遊んで欲しかったのかもしれない。


だが飼い主にそれは伝わらず、また飼い主も自らを噛んだ小さな犬を疎ましく思い始めた。


小さな出来事だった。


だがその小さな出来事が無ければ起こらない事だったのかもしれない。

男は次第に犬を"虐待"し始める。


噛んだら殴り、エサを上げる前に殴り、エサを上げた後に殴り、散歩に出る時はサッカーボールのように蹴る。犬はそれからおとなしくなる事を覚える。


飼い主を噛む事はなくなり、従順になり、尻尾を震わせ、大分気弱な性格になった。ここで飼い主が優しくなればもしかしたら、子犬をただ気弱にして仲良くなった飼い主、と納まったかもしれない。しかし飼い主は虐待をやめる事は無かった。


尻尾をふりながらうれしそうに足元にまとわりつく子犬を遠慮なく蹴飛ばす。蹴飛ばされた子犬はなぜ自分が蹴られたのかわからず、飼い主に怯え始める、怯えてる様子をみて、またいらつく飼い主は、


ほーらおいでー


と言いながら子犬を呼び寄せる。子犬は、


優しくなってくれた!


とでもおもったのか嬉しそうに尻尾を振りながら飼い主に近づく。



 そいて近づいてきた犬をまた思い切り飼い主が蹴り飛ばす。



 しばらくその無意味な虐待が続き、子犬は徐々に"おかしく"なってしまう。飼い主はもちろんの事、他の人間にも過度の恐怖を抱き触られる事にも恐怖から声を上げる。そして煩わしくなった飼い主は少し大きくなった子犬を白いスーパーのビニール袋に入れてある施設に持っていく。保健所・・・ようするに"殺処分"をしにいく。手続きがおわり、子犬は処分を待つだけになった。他の犬と一緒に待つその子犬は明らかにどの犬よりも"おかしい"ものだった。




 子犬は引き取られなかったほうが良かったのかもしれない。そうすれば殴られることも蹴られる事もなく、ただ死ねただろう。


 飼い主は引き取らなかったほうが良かったのかもしれない。そうすれば後日、監視カメラに偶然写っていた映像が原因で逮捕される事も無かっただろう。



 もし元々、子犬が気弱な性格だったなら。

 もし飼い主がもう少しでも、この子犬を理解しようとしていれば。

 もし最初から、優しい飼い主が先に現れていたら。


無意味な"もし"だが、どれか一つでもあったなら子犬は虐待される事もなく、飼い主も逮捕されることが無かったかもしれない。




 保健所に戻ってきた処分を待つこの子犬はその後、不幸続きだったが、結局殺される事は無かった。"欲しいです"と・・・、飼いたいと申し出た新しい飼い主は"おかしい"と理解した上でその子犬を欲しがった。


この小さな子犬がいいですね。


虐待されて、おかしい子ですか? もっと見てみたいです


どうしてこんなに怯えているんですか?


前の主人が・・・そうですか


是非この子犬を


いえいえ、大丈夫ですよ。自分が死んでも手放しません


ははは、はい。死んでも、ですよ。


 

飼い主がその子犬を選ぶまでに発した言葉はわずかだった。


 結局新しい飼い主と子犬はどうなったかというと、極短期間で驚くほど犬は"おかしさ"が無くなった。ものすごく懐いたのだ。最初"おかしい"子犬は新しい飼い主に怯えた。撫でられれば恐怖し、頭を伏せる。首輪をつければ、恐怖のあまり失禁する。でも当たり前の事かもしれないが、飼い主は殴らなかった。そして抱きしめれば、最初は震えていた体も安心したのかそのまま眠りについた。


 それから特におかしい事も無く飼い主と子犬は普通に散歩や遊びをして過ごす。少し変わっている事といえば、子犬がやけに従順で、他人には絶対に近づかない事だった。飼い主と子犬はわりと、お互いに楽しんでいた。


その幸福が長く続かないと知らずに。




 その結末を知っている主人は寝転がりながら過去を思い返し、つぶやく。

「本当にわがままな主人だったな。・・・おれは」



 光溢れるその世界でただ一人だった男は、走り寄ってくる子犬に目を向ける。

「ごめんな? 付き合わせて」

 抱きしめる。この世界まで付き合わせてしまった責任を感じながら。


「わん! わんわん!」



 子犬は何も知らずに、主人に再会した喜びで・・・ただ嬉しそうに吼えた。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 出来るだけわかりやすい表現を用いたつもりですが、ぼかすところはぼかしてます。わかりずらい所があれば是非ご指摘を!

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