天地万象と呼ばれるもの(笑)
旧西部遺跡の最深部。
祭壇の前に並ぶ学士と騎士たちは、息を潜めてこちらを見ていた。
「……本当に、お越しくださったのですね」
年配の学士が、震える声で言う。
「天地万象様」
(やめてくれーーーー!!)
表情は変えない。
変えられない。
(それ、当時の俺がイキって使ってた二つ名だ!
今思い出すと布団に潜りたくなるやつだ!!)
学士は、古びた石板を差し出した。
「三百年前の封印文です。
『天地万象、理を写し、世界を正す』
この一節が、再び発光しまして……」
(刻むな!!
なんで刻んだ!?
あれ日記だ!!
夜テンションで書いた自分用メモなんだ!!)
石板には、確かに見覚えのある文字列が浮かんでいる。
(あーーーー!!
それ、世界の理とかじゃない!!
“この魔法便利だから次はこう使う”って殴り書きしたやつ!!
石板に刻む内容じゃない!!)
「……問題ありません」
口から出たのは、冷静な声だった。
「これは起動しません」
(頼むから深読みしないでくれ!!
条件が足りないとか以前に、
俺が途中で飽きたやつだ!!)
騎士たちが一斉に膝をつく。
「さすがは天地万象……!」
(さすがじゃない!!
途中で放り投げただけだ!!)
「伝承通り……
ご自身の功績を語られない……」
(語りたくないんじゃない!!
恥ずかしいんだ!!)
「必要なときだけ現れ……」
(たまたまだ!!
晩御飯の時間があるだけだ!!)
俺は、何も言わなかった。
訂正すると、余計に話が広がる気がした。
「もう、よろしいですか」
それだけ告げると、全員が慌てて道を開ける。
「どうか、お気をつけて……!」
(気をつけたいのは過去の自分だよ……)
遺跡を出る直前、案内役の男が小声で言った。
「……やはり、天地万象様は違いますね」
「……」
(違わない。
昔の俺が、
調子に乗って石板に日記刻んだだけだ)
空は穏やかに晴れていた。
(頼むから、
これ以上“天地万象”の資料、
発掘しないでくれ……)
このときの俺は、まだ知らなかった。
この話が家に持ち帰られた瞬間、
どんな笑い地獄が待っているのかを。




