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第五話 少し背伸びをした夜
就活が終わった少しあと、
二人分のチケットが届いた。
仕事先から送られてきた、
音楽のライブだった。
大人向けの、落ち着いた会場らしい。
最初に思い浮かんだのは、彼女だった。
誘うと、
「そういうところ、行ったことない」
と言いながら、来てくれることになった。
当日は、彼女は練習帰りだった。
動きやすい服のまま、少し急いだ様子で現れた。
会場に入ると、
照明は暗く、音も控えめだった。
席に座って、飲み物と軽食を頼む。
ポテトと、
見たことのない名前のカクテルと、
サンドウィッチ。
選んだのは、彼女だった。
音楽が始まると、
自然と会話は止まった。
演奏は派手ではない。
でも、一音一音が、きちんと届く。
隣を見ると、
彼女は静かに、リズムを取っていた。
途中、
何気なくスマホを向けられて、
写真を撮られた。
「記念」
そう言って、すぐにしまった。
終演後、
そのまま一緒に電車に乗った。
感想を少し話して、
次は何を聴いてみたいか、
そんな話をした。
駅で別れて、
改札を抜ける前に手を振る。
帰りの電車で、
今日のことを思い返した。
楽しかった。
それだけで、十分だった。
でも同時に、
こういう時間を、
どこまで重ねていいのか。
そんな考えも、
少しだけ頭をよぎった。




