蜂矢昴の多分きっと運命の出会い
俺の周りは昔から賑やかだ。
俺も明るいのが好きだし、賑やかなのは楽しいし、なんかハッピーって感じ。
でもそれが毎日いつでもって感じで続くと、ちょっとしんどいなーってなる時がある。
あの日も、そんな感じだった。
「蜂矢くーん、一緒にご飯食べようよー」
「うっわお前もう女子から誘われてんのかよ!」
「中学の頃からこんな感じだよ?」
「っかー! 腹立つ!」
高校に入学しても俺の周りは中学の頃とそんなに変わらなかった。
別にそいつらが嫌いなわけでもないけど「高校生になってもおんなじ感じかー」ってちょっと残念に感じたのを覚えてる。
「はいはいあんたたちすばちゃんはマスコットでもなんでもないんだから取り合いしないのよー」
「猪瀬」
俺より背が高くて緩いパーマの赤髪で、それでオネエ口調。猪瀬千春は中学からの友達で、多分親友って言ってもいいくらい仲がいい。
あと普通にイケメンだから、猪瀬が来てくれたら一部の人たちの意識は猪瀬に持っていかれる。
「ちーたんじゃん! じゃあちーたん一緒に食べよー」
「あらいいわね。あんたの女子力見させてもらうわよ」
「ウケる。お弁当作ってくれてんのママだし!」
「じゃあ美佐子の女子力判定ね」
「千春お前なんで母親の名前知ってんの……?」
わいわいと話しながら猪瀬が俺を見る。みんなに見えない位置で「早く行け」って感じで手をしっしってしてた。
俺は心の中でありがとうって思いながら昼ごはんのパンを持って教室から出る。
昼はできるだけ一人で食べる。
それが俺のちょっとしたこだわりだった。
そしてそのこだわりのおかげで、俺に生まれて初めて好きな人ができた。
「……一組の三宅光」
一個上のミケ先輩。
明らかに俺みたいなタイプが苦手そうな人。
それに俺もあんまり関わったことがないタイプの人。
こういうタイプの人ってなんか俺見たら怯えるんだよなーって思ってたし、実際ミケ先輩も俺を見て怯えてた。
でも、なんだろう。
俺を視界に入れようとしないし、全身で「面倒だから話しかけんな!」ってオーラが出てて、なんかおもしろかった。
それでちょっとイタズラしたらリアクションもなんかよくて「あ、この人いいな」って思ったんだよね。
そんな興味が好意に変わるのは、あんまり時間かかんなかった。
「すばちゃん、最近あんたマジで昼休みどこ行ってるの?」
「内緒」
「あら水臭いわね、アタシとあんたの仲なのに」
「う、そう言われたなんか悪いことしてる気がしてきた」
「冗談よ。でもなんか楽しそうだから話してもいいかも、ってなったら教えてちょうだい」
「うん、その時は教える」
って猪瀬に言ったのがいつだったっけ。
気がついたら俺はずっと猪瀬にミケ先輩の話をするようになってた。
「猪瀬! 猪瀬聞いて! ミケ先輩すげーかわいいの!」
「はいはいそうねかわいいわね〜」
「あ、真面目に聞いてねーだろ」
「聞くわけねーでしょうこんな惚気。アンタの口から「ミケ先輩かわいい」って言葉出るの何回目だと思ってんのよ」
「何回目?」
「数えてるわけないでしょ」
それもそっかって俺は大きく頷いた。
ミケ先輩は優しい。やっぱりたまに俺に怯えてるけど、それでもわがまま言ったら頭撫でてくれるし、俺の話もちゃんと聞いてくれる。
普通にいい先輩だし、今まで俺の周りにはいなかったタイプ。
新鮮でおもしろいって感じでもあったんだと思うけど、とにかく俺はミケ先輩に懐いてた。
多分ミケ先輩も俺のことそこまで嫌いじゃないと思う。
ていうかむしろかわいいって思ってもらってるっぽい。
だって俺のこと「ハチ」って呼ぶし!
なんか犬っぽいけど、ミケ先輩に呼ばれるのは好き。先輩の声はなんていうか落ち着く。
小さいけどちゃんと響いてて、聞いててきもちーってなる声。
あだ名で呼んでもらえて、昼ごはんもほぼ毎日一緒に食ってて、絶対仲良いって思ってた。
そうやって調子乗ってたら、ミケ先輩に距離置かれた。
「触んな!」
初めて聞く大きな声と、少しだけ痛む手。
でもそれより驚いたのは、ミケ先輩の今にも泣きそうに潤んだ目だった。
「せんぱい」
待ってって言うよりも先にミケ先輩が教室から出て行った。
俺は何が起きたかわかんなくてチャイムが鳴っても空き教室に座ったままだった。




