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02 葛木先生の采配

            第一章

 


 あの日以来、図書室には行っていないのだが凛太郎には一つ日課が増えた。


 学校から帰宅していつものルーティンでアニメ鑑賞をしていた深夜二時。


 前日徹夜の疲れもあり今夜は流石にちゃんと寝ようと布団に潜り込んだのだが、目を瞑った時に頭に浮かんできたのは昼間に見たあの写真。


「……たしか、そらだったっけか」


 暗い部屋の中でベットの縁に置いてあるスマホを取り検索をかけてみた所、あの写真のブログは案外とあっさり見つける事が出来た。


 例の写真は近々のものではなく少し前の投稿ではあったのだが、夕暮れの図書室の写真を見つけて確信を得る。


 どうやらこのブログ主は不定期に写真と共に日記のような事を投稿している様で日常の話や、その時に自分が感じた事が一枚の写真と共に綴られていた。


 内容や一人称を見た限り女子生徒というのは分かったのだが、最近の女子高生というか、綴られた文章の言葉選びなどがとても綺麗で、中学の最後以来現実の女子に対して一定以上の距離感になると拒否反応が無意識下で出てしまう凛太郎なだけにブログとはいえ一抹の不安はあったのだが、その文章や載せられている写真は何故だかスッと自分の中に溶け込む様な不思議な感覚があった。


 思春期の女子高生の悩みや恋愛話などそういう面は全く感じさせず、どちらかといえばそれこそ二次元や小説のヒロインに近しい感覚の純粋な自分自身が感じた日常での出来事や思った感情。


 短い文面の中ではあるが、この人の人間性みたいなものがやんわりと感じ取れる内容だった。


 記事の下にスクロールしていくとコメント欄もあるのだが、コメントの掲載は管理人の許可制になっており、たまに写真に対しての感想などを述べている人もいるが文面からは同じ高校生らしい人は見当たらないので、恐らく友達や近しい間柄の人には教えてない自分だけの日記の様な活用方法なのだろうと言うことが見て取れた。


 この人は一体どんな人なのだろうか?


 ブログを過去に遡って眺めていると不思議と興味が湧いてきたのもあり、同じ学校の生徒ということは伏せた上でコメントをしてみようかとも考えたが、この更新が終わる可能性の方が凛太郎としては嫌でコメント欄をタップしようとした手を止めた。


 その日からこのブログ閲覧もラブコメアニメ鑑賞とはまた違った、でも現実とも少し違う不思議な感覚の密かな楽しみになっていた。




「お前ら席につけー!」


 騒がしい教室内の視線が葛木に集まると、授業前にざわついていた生徒達は各々の席に向かい動き出す。


 誰かと話しているわけでもなく自分の席で腕を枕にしながら、うたた寝していた凛太郎もその声に意識を覚醒させると教壇に視線を移した。


「さて! 今日はお前ら分かってると思うが、我が校恒例の夏休み前の林間学校の班決めを行うぞ」


 ニヤリと口の端を上げた葛木が、集中する視線の中で言い放つと一度静かになった教室内は再度騒がしくなり明るい声に包まれる。


 この高校は修学旅行とは別にこういった行事が複数あり生徒の独自性や社会への適応などを促す校風らしいが、正直この高校に入学を決めた理由は〝当初〟では積極的にこの様な行事を特定の人と楽しむ事を目的にしていたのだが、今となっては億劫でしかないイベントだ。


「……行きたくねえなあ」


 盛り上がる教室内の温度感とは真逆の深いため息を吐いた凛太郎は小さく言葉を溢した。


「班決めに関してだが男女各二名ずつの一組四名での団体行動になる」


 この言葉を受けた瞬間に教室内では、じゃあ俺と組もうぜ!私たちで、など動き始める生徒達だがそれを遮るように葛木が手を叩くと。


「ちなみに! 班のペアに関しては私の独断で決めさせてもらったからな」


 瞬間静まり返った教室だが一斉に起こるブーイングを予測していただろう葛木はこほんっと咳払いをひとつ。


「あくまでもこれは授業の一環だ。普段中々交流のないやつと団体行動をすることによって得られる経験も大切になってくるからな。お前らなら理解してくれるな?」


 そう言った葛木の表情は紛れもなく笑顔なのだが目の奥底は笑っていない様に思えて「お前らこれ以上文句いったら分かってるな?」と言わんばかりな無言の圧力を感じさせる。


 まだ数ヶ月とはいえ肌感でそれを理解している生徒たちは瞬時にそれを理解したのか引き攣った苦笑と共に『はーい!』とそれはもう元気よく返事をした。 


 その姿を見た葛木は一言「よろしい」と言って屈託のない笑顔を見せると男女別に各ペアの発表に入った。


 同性のペアに関しては葛木が決めたものの、同班の異性のペアに関してはくじ引きで決めるとのことで男女ともに誰々と同じにならないかなという声が聞こえてくる。


「この方が青春っぽいだろ?」と言って笑う葛城のこういった遊び心が恐らく人気の理由なのだろう。


 とりあえず自分とのペアを確認するべく名前の書かれている黒板に視線を移すと相手が誰かを確認し終える前に肩を軽く叩かれて目線を移した先には笑顔で立っている男子生徒の姿があった。


「よろしくな、鈴本」

「……おう」


 相変わらずの爽やかスマイルで立っていたのは女生徒たちの王子様こと萩原である。


 男子間で多少会話はすることはあっても交友関係と呼べる程の関係性は誰とも築けていないだけに同じクラス内でも親しげに話しかけてくる友人は居ないのだが、そんな凛太郎に向けても爽やか全開の好意的な笑顔で話しかけてくる萩原とのペアは確かに葛木の意図を感じた。


 萩原とペアになったことによって、女子たちの視線を浴びる事になり瞳を眇めてため息を一つ落とすと、女子とのペア抽選のくじ引きは始まった。





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