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01 図書室からの贈りもの

            第一章

「鈴本、この資料図書室に返しておいてくれないか?」


 授業終了を知らせる鐘が鳴り帰り支度をしていると、突如かけられた声に頬をひきつらせた凛太郎は一瞬動きを止める。


 自分に対して向けられた声という事は認識しているのだが、視線は鞄から逸らさずにあくまでも聞こえていない様子に徹するが、勿論それを見過ごすわけのない担任の葛木真子(かつらぎまこ)は、帰り支度を終えて教室を出ようとする凛太郎の首根っこを掴むと半強制的に振り向かせた。


「……一応聞きますがなんで俺が」

「鈴本、私が気づいてないと思うか? お前、今日も朝方教室にーー」

「行かせていただきます!」


 凛太郎が引きつった表情で質問をした瞬間、彼女は口角を少し上げると「なるほど、私とやる気なんだな?」と言わんばかりな挑発的な視線を向ける。

 目は口ほどに物いうとはよく言ったもので、葛木が話し終える前に全てを察した凛太郎は綺麗な四五度のお辞儀を披露して白旗を上げると葛城は「よろしい」と満足げに笑みを溢し最後の授業で使った分厚い参考資料を手渡した。


 年齢で言えば20代半ば、腰まである長い黒髪は手入れが行き届いているのが見て取れる美しさで、顔立ちも凛として端正な日本的美人の彼女は生徒からの人望も厚い。


 性格は明るく生徒に年齢も近い分、〝真子ちゃん〟なんて愛称で呼ばれていたりもするが、凛太郎としてはそんな外見の美しさより第一印象で『なぜ、現国の教師が白衣を羽織っているのだ?』という疑問の方が遥かに大きく、初対面から群がっていく男子生徒とは一線引いた目線で彼女を見ていた。


 この葛木真子という教員は観察眼が恐ろしいほどに鋭く公言は一切していないにも関わらず凛太郎がアニメが好きという事実も把握はしているし、初めて早朝に登校して睡眠をとりに来た際も、登校時は生徒含めて誰にも会っていないのにも関わらず帰りのホームルーム終わりに「朝練の申請出ている奴ら以外はダメだから程々にな」と誰にも聞こえない様に伝えてくるとポンっと肩を叩かれた。


 本来であれば規則である以上、この時間帯の登校は禁止だ。で終わる話なのだが何故だか黙認という選択肢を取ってくれた彼女には頭が上がらないのだ。


 学校生活を送る上で親密的に教師と関わることもなければ自分みたいなタイプは尚更な事、問題でも起こさない限りは一定以上の距離は置かれるだろうと思っていたのだが何故だかやたらと話しかけてくる教員だが不思議と悪い気はしなかった。


 参考資料の本を片手に教室を出て行く凛太郎の後ろ姿を、やれやれといった面持ちで葛城は見送った。




「参考資料の返却に来ました」


 扉を開けると本特有のインクの微かな香りと他の教室とは異なった落ち着きのある空間がそこにはあった。 


 入室して周りを見渡すが人の気配はなく、どうしたものかと悩んだが返却と書かれたプレートのある棚が目に入ったのでそこに本を置く。


 高校に入学してからは基本的に直帰の生活で、入学当初の学校案内以来、足を踏み入れていない図書室だが、この雰囲気は割と好きでとても落ち着く気持ちになれた。

 意外なもので少し古いものにはなるが漫画も貸し出しされており図書室内をふらっと見て回ると、読書用のテーブルの上に携帯が置かれているのが視界に入る。


 一時的に退室して置いてあるだけかもしれないし、忘れ物なのかは定かではないが変に触れてしまっても持ち主が帰ってきた時は面倒な事になりそうなので気に留めずに、そのままにしておくかと思ったのだが、ディスプレイが表示されたままの状態で画面に映し出されている写真が目に止まると息を呑んだ。


 映っていた写真はこの図書室なのだろうという事は、棚や物の配置ですぐ分かったのだが、夕暮れ時に撮ったであろうその写真は橙色の夕日が図書室を真っ赤に染め上げていて自分がいるこの空間と同じとは思えないほどに綺麗でどこか切ない雰囲気を醸し出していた。


「……そら?」


 画面をしっかり見てしまった凛太郎だが、どうやらそれはブログのようで画面の左上にはアカウント名と思われる名前がアルファベットで記載されている。

 シンプルにsoraの四文字だったので恐らくはこのままの読み方だろう。


 どちらかといえば、こういう美術的な分野に関しては得意な方ではないし特段興味もあるわけではないのだが、その写真は目に焼きつくというか、つい見惚れてしまう美しさだった。


 他人の物ではあるし触れはしなかったが、暫くその画面に映る写真を眺めていると帰りのバスの時間を知らせる携帯のアラームが鳴り我に帰った凛太郎は図書室を後にした。














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