23 お水って大切なんだよな
第二章
「ジャージで良かった。本当に」
静香は珍しく訝しげな表情を見せながら重いため息を吐き出した。
それもその筈、葛木の号令の元開始されたキャンプ先への各班での移動だが歩き出してから小一時間。
どこを見渡しても草木が生い茂り着ているジャージは既に葉や土埃に塗れていた。
「後、どれくらいで着きそうなんだ?」
「んー、もう三十分もすれば着くと思うよ」
草木を掻き分けながら効率よく歩くために先頭を歩く萩原に声をかければ絶望的な返答が飛んでくる。
元々、運動部出身の凛太郎からすれば近況では動いていないが体力はそれなりに自信があったので良いものの、流石に女子二人には相当堪える様で後ろを定期的に振り返るとその返答に唖然とぽっかり口を開けた静香は更に重いため息を吐き出した。
何よりも気になるのは最後尾にいる九条で明らかに文系女子の彼女は体力には自信がない。
定期的に萩原も振り返って声をかければ「大丈夫です」との返事は来るものの大分呼吸も荒くなってきているのは見てとれた。
更に言うのであれば直射日光は木々で防げて入るものの、真夏にはまだ遠いが気温と何よりも湿度が高くサウナの様な状態が体力を奪っていく。
「……のーどーかーわーいたぁ!!」
滴る汗で額に張り付いた前髪を掻き上げると静香が項垂れるように声を出す。
定期的な水分補給はしているが開始時に渡されたペットボトルの水は既に歩き始めてから三十分後の休憩で飲み干しておりここ三十分はひたすらに歩き続けていた。
女子優先に水分を小まめに補給させてはいたが流石の凛太郎も口内の唾液もなく唇が張り付く渇きに萩原に声をかけようとすれば突如足を止めた萩原が人差し指を口元に
沿えて静かにっとジェスチャーをした。
何のことかも分からずに立ち止まった全員が歩みを止めれば微かに聞こえてくる水の流れる音。
「……水の音か?」
「予定通り、この近くに小川があるからそこで一回休憩しよう」
「み、みずぅー!!」
「よ、よかったです」
生い茂る草木を掻き分けて足早に突き進めば小さい小川が視界に入る。
辿り着いた川沿いの砂利に先頭の萩原が地図を一旦しまい凛太郎が荷物を下ろせば九条はへたり込むように腰を落とした。
「あれ?静香は……」
後ろを振り返ると、先程まで後ろを歩いていた静香の姿がなく視線を移せば前方を指さす萩原の向けた指の先にいた少女は先程までの疲労はどこへやら。
とてつもない速度で小川に向かって走り出すと、綺麗に弧を描くようにーー飛んだ。
「え」
勢い良く飛び込んだ小川に身長程の水飛沫が上がる。
空いた口が塞がらない状態の凛太郎が呆然と固まっていると「相当暑かったんだろうね」何て言いながら萩原はリュックの中から空のペットボトルを数本取り出していた。
「いや、暑いからとかそういう…… って、おい!!」
「ーーんまいっ!!」
視線を前に向ければそれはもう幸せそうな顔で川の水を飲んでいる静香に声をあげる。
気持ちは分からんでもないのだが、流石に日本の水は綺麗といえど煮沸させない状態で川の水を飲むのは些か不安の方が大きいだろう。
焦って止めようとする凛太郎だが既に彼女は止まる気配が無い。
「大丈夫だよ。先生に出発前に確認したけど飲む基準値はクリアされているかなり綺麗な水源みたいだから」
凛太郎の心配を察したのか萩原が説明をするとペットボトルに水を汲んで九条に手渡していた。
その言葉に安堵の息を吐いた凛太郎も両掌で水を掬って喉を潤せば川に飛び込んだ静香も落ち着いたのか上がってくると羽織っていたびしょ濡れのジャージを脱いで水気を絞り出す。
「お前、いくらなんでも急に飛びこむーーーーっておい!」
「ん?」
呆れるように声をかけた凛太郎だが目の前の静香から勢いよく視線を逸らした。
体操着の上に羽織っていたジャージを脱いで水気を絞り出しているのは良いものの水はもちろんその中の衣服にも染み渡っており水気を帯びた体操着にはくっきりと下着のラインが顕になっていたのだ。
「あぁ……凛太郎のえっち」
顔を赤く染めて視線を逸らす倫太郎を揶揄うように静香が呟く。
「良いから早く上も着ろ!」
「別に大丈夫だよ、水着とかの方がよっぽど露出多いじゃん」
「そ、そういう問題じゃないだろ」
ひと通り揶揄い終えて満足したのか体操着の水気をさっと取るとジャージを羽織った静香に安堵のため息を吐き出した。
「はーい! そこで遊んでないで一旦集合ね」
そんな二人のやりとりを眺めていた萩原が声をかければ「遊んでねえ」と不満げに返す凛太郎に笑みを溢すと話を続ける。
「さて、とりあえず水分の補給は出来たけどここからの動きについて把握しておいて欲しい」
「キャンプ地に向かうんだろ?」
「そう、なるべく早くにキャンプ地に向かうんだけど今夜の食料の確保と何よりも火を起こさないといけない。更に寝るにしたって俺と凛太郎ならまだしも女の子二人を草木の上にって訳にはいかないから簡易的なテントも作らないとね」
「地面に寝るのは絶対に嫌ー!」
「わ、私も出来れば屋根のあるところが良いですね」
「まだしもが気になるな、俺だって嫌だからな」
萩原の言葉に全員が頷くと少しの休憩の後に立ち上がりキャンプ予定地点へと向かいさらに歩みを進めた。




