22 キャンプというよりサバイバル!?
「思っていたよりも色々入ってるね」
葛木の号令に集められた各班のリーダーは大型のリュックを受け取り班員の元へ戻ると中身の確認に入る。
萩原も同様に大型のリュックを右肩にかけて班に戻れば中身の確認に入った。
荷物の中身には厚めの圧縮されたビニールシートや緊急時の医療ケース、サバイバルナイフ、方位磁針、水が一本に空のペットボトル、板チョコ、無線機、火起こし用の道具、寝袋、小さいフライパンなどが入っていた。
割と本格的な品の数々に興味を惹かれる男子も入れば、既に意気消沈している女子生徒も少なくない。
中学時代は運動部で毎日の様に汗に塗れていた凛太郎だが、近況では快適な部屋の中でネットアニメ三昧の日々に浸かっているだけに前のめりになれるはずもなく、渋い表情で黙々と確認を進める萩原の後ろ姿を眺めていた。
「この道具を使ってキャンプをするのでしょうか?」
「みたいだねーなんかさ……わくわくしてきた」
物珍しそうに道具を眺める九条に、静香は少年のように瞳を輝かせている。
しかしながら、キャンプに必要不可欠なある物がどこにも見当たらない事に違和感を覚えた凛太郎が「あれ?」と言葉を漏らせばその答えは葛木より知らされる事となる。
「荷物の確認は終わったか? そうしたらリュックの脇にあるポケットの中に各班の行き先が記載されている地図があるから確認しろ」
葛木の声に萩原がリュックの中にある地図を取り出すと、三人は囲むように視線を移した。
地図には現在地のクラス全員がいる広場を中心として半径数キロ圏内の地理が詳細に記載されていた。
その中でキャンプ予定の場所が赤く円で囲われており、現在地からは一キロ程の距離だった。
何故だかキャンプ予定地から離れた場所で大型のリュックを渡されて、しかも地図の中心地が現在地という状況に嫌な予感しかしない凛太郎がごくりと息を呑むとそれは他の生徒たちも同様だったようで声を上げようとするが先回りしたかのように葛木が言葉を投げた。
「ここからは各班でキャンプ予定地まで班行動となる。暗くなってきた森は危険だから早めに移動することをオススメするぞ?」
ざわついていた生徒たちが沈黙するとその言葉の意味を理解したのか一斉に響めき出す。
それもそのはずだ。ここに到着した時点で目の前に映った景色はどこを見渡しても森。
四方八方生い茂った草木に囲まれており人が歩くために舗装された道やハイキングなどでもある手すりや柵なんてものは皆無だ。
唯一、あるとすればバスが通ってきた砂利道だが地図に記載されているキャンプ予定地点は明らかにその方角ではない。
「なるほどね、やっぱりそうか」
呆然と立ち尽くしている中で、萩原の声に視線を向ければ先程上位入賞していた班のリーダー横山が萩原と共に地図に目線を落としていた。
意図は分からぬがその声に引かれるように凛太郎も二人の手の持たれた地図に視線を落とせばその違和感は直ぐに飛び込んでくる。
萩原が見ている地図に記載されているキャンプ予定地と横山班の地図に記載されているキャンプ予定地の場所は明らかに違うのだ。
こんなジャングルのような場所で印刷ミスなんて洒落にならないと声をあげようとすれば他の班もそれは気がついた様子で動揺する生徒たちを見ながらニヤリと笑みをこぼした葛木が口を開く。
「見ての通りキャンプ地点は各班別の場所にある、ここからは四人での班行動で各々目指してもらう」
あくまでもクラス全員での団体行動と思っていただけに不安が隠せない生徒が質問を投げかける。
「先生、でも道に迷っちゃうかもーー」
「なんの為の地図と方位磁針だ? 大丈夫だろう」
「あの、そしたらテントとか必要器具はキャンプの場所にあるんですか? 持っていくとしたら大変ーー」
「立派なビニールシートと寝袋があったろう?」
「先生、でも飲み物とか夜ご飯はーー」
「広大な緑豊かな土地だ。いくらでもあるだろうさ」
現代の高校生がこの状況下に置かれたのであれば至極真っ当な質問だろうが、一蹴するかの如く即答で尚且つ満面の笑みで返される。
会話のラリーどころか、こちらが打った球を全てスマッシュされているかの様な破壊力抜群の返答に返す言葉もない。
勿論、素直に従おうとする生徒ばかりではなく「いや、流石にこれは無理だって、帰ろうぜ!」なんて声も聞こえてきたが、葛木は生徒達の背後を指差すとふうと吐息を落とした。
「どうやって……帰るつもりだ?」
背後から聞こえるエンジン音に視線を移せば先程まで停車していたバスがゆっくりと迂回して走り去っていくのが見えた。
「お、おい! 待ってくれってー!」
先程、帰らせろと言った生徒の一人が追いかけながら叫ぶが無論止まる気配などはなく、視界から遠ざかっていくバスの姿に膝から崩れ落ちたのは言うまでもない。
「これって……マジなやつだよな?」
「そうだろうね。見てみなよ?」
引き攣った表情を見せた凛太郎が萩原に言葉を投げ掛ければ萩原が視線を移した先にいる葛木はそれはもう楽しそうに瞳を輝かせている。
さながら新しい玩具を買ってもらった少年の様に溢れ出すワクワクが止められないといった様子だ。
「……この人、本当に教員だよな?」
「こういう人なんだよね」
これはもう受け止めなければならない現実と認識した凛太郎が皮肉混じりに軽口を叩けば、萩原は呆れたようにため息を一つ吐いたがその表情はいつもの張り付いた笑顔ではなく、どこか嬉しそうな雰囲気が感じられたのは気のせいだろうかと凛太郎は首を傾げた。
「先生はどこかの班と一緒にいくの?」
皆が呆然と立ち尽くす中で声をあげたのは静香だった。
確かに唯一の移動手段であるバスが立ち去った以上取り残されたのは葛木も同様で、こうなったからには出来れば大人に引率して貰いたいという思いが生まれたのか「それなら俺たちの班と」なんて声も上がり出すが、葛木は首を横に振る。
「何言ってるんだ、お前たちばかりに頑張らせては教師の名が廃る。私も同様に別行動で野宿するから安心しろ」
誰よりも楽しそうに笑顔を見せた葛木は肩にかけていたショルダーバックのジッパーを開けてみせると、中にはサバイバルナイフと方位磁針が入っていた。
「え? それだけーー」
思わず声を漏らした凛太郎の声に気がついたのか葛木は視線を向けるとどこか誇らしげに言葉を投げる。
「私はこれだけあれば十分だ。まあなんだ、ハンデみたいなものだな」
「……ハンデって誰とも戦ってないですよ……」
「鈴本。細かいことなんて良いから今を楽しめ!」
もはや何を言っても無駄なことを理解したのは倫太郎だけではなく生徒全体が重いため息を吐き出したが、そんな事はお構いなく葛木は両掌をパンっと勢い良く叩くと声を上げる。
「さあ! 校外学習一日目楽しいキャンプの始まりだ!」




