21 キャンプ開幕
第二章
「さて、腹ごしらえも済んだ事だ。この後はメインイベントであるキャンプに向かうから各班片付けを終わらせてバスに集合だから急げー」
葛木の声に生徒たちは意気揚々と後片付けに入る。
やはり、ご飯作りに関して調理実習の延長線上の様なもので各々楽しんでいたとは思うが今回の林間学校のメインはあくまでもこの後のキャンプなのだから当然だろう。
ご機嫌斜めだった静香もコロっと表情を変えて九条と一緒に洗い物を始めると、萩原と凛太郎は使用した調理器具の片付けに勤しんだ。
迅速に片付けを終わらせた四人は忘れ物の確認を終わらせるとバスに乗車する。
なんだかんだで慣れない場所での調理に疲労感を感じた凛太郎が座席に腰掛けようとすると萩原は徐に肩に手をかけて座るのを止めると後ろにいる女子二人に振り返る。
「九条さん、よかったらさっきの料理の話の事聞きたいからキャンプ場まで話せないかな?」
「え? あ、はい。私は構いませんけどーー」
唐突な席替えの提案に凛太郎と静香は固まるが、凛太郎は何気なく向けられた萩原の視線からその意図に気付く。
初日の日程ではここからキャンプでの時間が長いだけに“静香お近づき作戦”をするのであれば本番はこれからだ。
恐らくは静香と凛太郎を話しやすい位置関係にという配慮なのだろう。
「……作戦会議しろってことだ」
流石にこのタイミングで「きららと一緒がいいー!」なんて言われたらせっかくの萩原の配慮も台無しなだけに、今にも不満を言い出しそうな静香に小さく耳打ちをすれば、はっとした表情を見せた静香は「お、お料理教えてあげなよ」と、あからさまに不自然な棒読みで九条に笑顔を向ける。
「は、はい。皆さんがそれでよければ」
静香が凛太郎の隣に腰掛けたのを見て九条も座席に座ると程なくして他の班の生徒たちも車内に集まりバスは走り出した。
「しかし……お前ガチガチだったな」
「えっ……そんなだった……?」
「そんなでした」
走り出したバスの車内で目立たない程度の声で話しかけた凛太郎に静香は苦笑を溢しながら前髪を指で遊ばせている。
その表情を見るからにも、本人にその自覚はある様だがこれから先を考えると不安の方が大きいというのは明白で凛太郎は一つため息を吐いた。
「つ、次はもっと話せるように頑張る!」
ぐっと拳を握りしめて不安気ではあるが凛太郎を見つめて意気込む静香に「頑張ろうな」と一言返したのは良いが、凛太郎自身なにを頑張らせるのかは現段階では明確に説明出来ないだけに困難な道のりなのは間違いない。
兎にも角にもここからはキャンプ場に到着してから、再度タイミングを見て才賀のいる班と交流を計るのは最低条件だ。
細かい当日の日程などが分かっていれば、その機会を事前に予定する事も出来たのだが、なんと言ってもこの学校の校外学習は特殊なだけに時間割も知らされていないのでその場での判断になる。
正直、恋愛沙汰や他人との交流から遠ざかっていた凛太郎からすればかなり難易度の高いミッションではあるが、引き受けた以上は最善をつくすのは静香への礼儀なだけに今後どう話しかけるべきかと考えていると窓の外に見えた物に違和感を感じ声を漏らす。
「あれ……今、看板あったよな」
隣の静香は気がついていなかったようだが、その声に反応したのは前の座席に座る萩で「あったね」という声が送られてくると同時にバスの後部座席の窓を目を凝らして眺めた。
既に通り過ぎてから一定距離を走ってしまってはいるが間違いなく遠目に見える看板には《こちら○○キャンプ場》と記載された看板が立っている。
しかしながらバスは止まる気配は見せずに山中を走っていくが周りの生徒たちは各々に盛り上がっている為か、誰も気がついていない様だ。
大型バスなだけに駐車スペースが別の場所になるのかと思っていたが、窓の外をどれだけ眺めてみても視界に映るのは生い茂った木々と徐々に舗装が荒くなっていく山道。
次第にガタガタと砂利道を走っていくうちに揺れてくるバス車内に他の生徒達もざわつきを見せる。
程なくして山道を走っていたバスが徐々にスピードを緩めると完全に停車した時に葛木は勢い良く座席から立ち上がった。
「よし、お前たち降りろ」
明らかにキャンプ場といった雰囲気ではないだけに「ここで何するのかな?」なんて声が上がる中で凛太郎達四人もバスから下車すると目の前に広がった景色に目を見開いて思わず声を漏らす。
「すっごい……森だね」
「いや、森ってよりはジャングルだろこれーー」
好奇心旺盛に辺りをきょろきょろと見渡す静香につっこみを入れるが誇張抜きに視界に映る景色はまさにジャングルの様なものだった。
目の前に広がるのは生い茂った草と市街では見受けられないような大木の数々。
草木は身長の小さい女子ならスッポリ埋まってしまいそうな程の大きさには育っていて四方八方見渡しても木々に囲まれている。
頭上を見上げれば聞いた事のない様な鳥の鳴き声とバサバサと翼をはためかせて飛んでいく鳥の羽の音がどこからともなく聞こえてくる。
そういえば最近動画で流れてきたアマゾン川付近のジャングルサバイバルもこんな感じだったよな……なんて思いながら呆然と立ち尽くしていた。
ギリギリバスが通って来た道に関しても舗装されている道路などではなくギリギリ通れる幅の砂利道を走ってきた様で、バス一台分のタイヤの後のみが不自然に目立っていた。
学年合同の林間学校なのだが後続のバスが来る気配もなく何やら不気味な雰囲気に、流石に最初は好奇心から目を輝かせていた生徒たちだが、徐々に不安の声が漏れ出した。
「え? ここで何かするの?」
「他のクラスの子達はこないの?」
「真子ちゃーん! これ大丈夫なの?」
騒つく生徒たちを少しの間傍観していた葛木は徐に胸の前で掌を合わせてパンっと叩くと、視線が一斉に集まる中で何か悪巧みをしている悪戯っ子の様な笑みを見せると楽しげに口を開いた。
「なに言ってるんだ? ここが目的地だ、お前らの楽しみなキャンプの始まりだぞ?」
思わず聞き間違いと疑いたくなる一言にクラス全員が沈黙する。
どこからともなく「またまたぁー」なんて声も上がるが満面の笑みを崩さずに沈黙する葛木。
「……おいおいマジなのかこれ」
「本気だろうね」
他の生徒たちと同様に一筋の汗を流した凛太郎が言葉を漏らすと隣に立った萩原は呆れ気味にそっと吐息を一つ吐いた。
動揺を隠せない生徒たちを見つめながら、にんまりと口端を上げた葛木は騒つく生徒たちの声を一蹴するかのように声を上げた。
「さあ楽しいキャンプの始まりだ」




