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19 静香のおすそ分け

            第二章

「……お食事中失礼しまーす」

「鈴本か。どうした?」


 隣の班に行くと調理した料理を食べていた四人の視線が一斉に向けられる。


 先程、才賀とは交流したものの、他の班員とは特に話したことも無いだけに緊張感は隠せないが声を掛けた凛太郎に骨付き肉を頬張っていた才賀が視線を向けた。


 肝心の静香はといえば、普段の姿とは打って変わって人見知りの子供の様に凛太郎の背後から顔を覗かせる程度で俯いたまま持ってきたカレーの皿を見つめたまま棒立ちの姿に苦笑いが溢れる。


「あれ? 静香どうしたのー?」


 才賀班の女子の一人が凛太郎の影に隠れている静香に声をかけると流石の人見知りヒロインも一歩前に踏み出すや少し焦りながら持ってきたカレーの入った大きめの容器をテーブルに置いた。


「えと、私たちの班カレー作ったんだけどお裾分けで持ってきたんだよね!」

「わぁー! 静香ありがとうー! あ、後す、すずきくん?」

「鈴本だ」


 流石に女子の友達相手にはいつもの調子で会話が出来た静香にほっと胸を撫で下ろす。


 しかしながら、分かってはいたことだが自分の名前は認識されていないんだなと苦笑を溢すも特に訂正をしなくても良いかと思っていた凛太郎だが、当人に変わって才賀がいち早く訂正した時には思わず笑ってしまった。


 中学の入学当初などは名前の書かれたプリントなどで、なんで鈴木じゃなくて鈴本なんだよー!なんてよく揶揄われてたなと懐かしい記憶を思い出す。


 静香がテーブルに置いた大皿に女子達が手を伸ばせば、一口食べるや否やお互いに顔を見合わせて最高のリアクションが飛んできた。


「え? 静香めっちゃ美味しいんだけど!」

「ほんとだ! 私、カレーそんなに好きなわけじゃないんだけどおいしー!」


 この流れなら流石にいけるだろうと、凛太郎は才賀の方に一瞬視線を向けると隣に棒立ちの静香に肘で軽く合図をした。


 当の本人はといえば凛太郎に目線を合わせるや言葉には出さないが「いけない」と目で訴えかけてくるが、ここまで来てそんな事は許すわけもなく背中を軽く押してやると下唇を軽く噛んだ静香は意を結したのか一歩前に踏み出した。


「さ、さ、才賀くんも、よかったら!!」

「おう。あっ、いや……」


 皿にあるカレーをスプーンで掬い上げて才賀に差し出す静香。


 カレーを掬い上げてスプーンを目の前に差し出している静香だが、真っ直ぐに見れないのか視線は斜め下を見つめているだけにこの状況の違和感に全く気がついていない。


 そう。まさしく今の静香は『あーん』の構図なのだ。


 隣で静観する凛太郎としてはもはや苦笑いしか出ない。


 いくら緊張しているとはいえ小学生でもあるまいし、相手くらいは見ながら話せと言いたいものだがこれが現状の静香の精一杯なのだろう。


 静香以外の現場にいる全ての人間が固まっている中で、その空気に気がついたのか視線を正面に移して現状を認識した静香は頭から湯気が出ても可笑しく無いくらいに一瞬で顔を真っ赤に染める。


「え! いや、冗談!! 冗談だよ? 温かいうちに食べてって事!」

「……びっくりしたぁー! 静香も渾身のギャクかましてくるよね」


 スプーンの向きを変えて持ち手の部分を才賀に渡すと、班の女子のツッコミに救われた静香は掌を高速で振りながら冗談をアピールして笑って見せているが、凛太郎からすれば表情はいつも通りを装っているが真っ赤に染まった耳は丸見えだった。


「……隠しきれてないぞ」


 凛太郎がぼそっと小声で呟いくと足先に強烈な痛みが走る。

 隣では正面の女友達と会話しながらも引きつった笑顔の静香が全力で足を踏みつけたからだ。


「確かにこれは旨いな」


 そんな事は知る由もなく才賀はいつのまにかにカレーを口に運べば驚いた様に目を丸くした。


 基本的にいつも鋭い目つきなだけに表情の変化も分かりやすく、美味しそうの頬張る姿に静香も思わず笑みを溢す。


 良かったな、と心の中で思いながらもここから更にどうやって会話をしていくかと考えていれば葛木の号令にその場にいる全員が視線を向けた。


「よーし! 各班の料理審査は終わったから、まだ食べ終わってないやつは早く食べろー! 他の班で遊んでる奴らも席に戻れー」


 出来ることならもう少し会話をさせてあげたかったのだが、とりあえずの第一歩は踏み出せたので「いくか」と一言声をかければ、静香は女友達に手を振り自分たちの班に戻ろうとした時に才賀から声がかかった。


「鈴本、わざわざありがとうな」

「お、おう」

「それと静香も、とても旨かった。ご馳走様」


 律儀に立ち上がって礼を言う才賀に凛太郎も少しの気恥ずかしさを感じながらも返答を返す。


 静香はその瞬間は「いいよー!」なんていつもの調子で元気に返したが、振り返ると頬を緩ませながら柔らかい笑みを溢すと、そんな様子を横目に見た凛太郎も満点とは行かなくとも交流は成功に終わったという安堵感と静香の嬉しそうな顔を見て胸を撫で下ろした。


「たっだいまぁー!」


 班に合流すると静香の様子からある程度を察したのか、凛太郎に視線を移した萩原の口元は小さく孤を描く。


「洗い物に関しては今漬け置きしてるから発表が終わったら皆んなで片付けようか」


 テーブルに視線を移せば既に先程の食器類などは一切なくテーブルも台布巾で綺麗に拭かれていた。


「ありがとー!」と静香が九条に抱きつくと九条は少し照れくさそうに笑っている。


 辺りの班の生徒も仲のいい友達の所に行ったりと、自由時間を楽しんでいたが、先程の葛木の声に全員が各自の班に戻ると生徒全体が見える位置に立った葛木はこほんと咳払いを一つ落とし口を開く。


「結果発表だ! 呼ばれた各班のリーダーは私の前に来い。素敵なアイテムの授与もこの場で行うぞ!」


 一斉に盛り上がりを見せる生徒達だが葛木が人差し指を口元に立てて静かにという意思表示を見せると静まり返った。




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