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18 九条さんはお料理上手

            第二章

 長い時間は話せなかったのだが、才賀司という男の印象は凛太郎の中で著しく変わった。


 高身長に体格も良く鋭い目付きと近寄り難い雰囲気から、不良などと呼ばれる事も少なくない才賀だが第一印象とは異なり話してみれば意外と話しやすく思えた。


 側から見ればあまり感情の起伏を感じさせない表情と雰囲気から威圧感がある様に見られがちな才賀だが、話してみて思った印象は意外にも現代には珍しく硬派な男だということだ。


 萩原が話の流れで凛太郎はアニメが好きと言い出した時はそんな話をしても興味はないだろうと思っていたのだが、否定的な意見は何一つ出さずに黙って話を聞いていた才賀が口を開けば、どういうものが好きなのか?などの質問を単調ではあるが返してくる。


 自分の一番の趣味な訳だが年頃の男子高校生の間では理解され難いであろうと思いつつも、ラブコメアニメというワードを出してみても否定をするどころか、何か好きな作品があれば教えてくれとすら言われた時には驚きを隠せなかった。


 基本的に会話の中で相手を否定したり嫌な雰囲気は一切見せずに受け入れる姿勢の才賀に、見た目で人を判断してはならないとはこういう事なのだろうと深く反省する。


 そんな二人のやり取りを見ている萩原も途中からは会話に加わることもなく満足気にその様子を眺めていると、才賀の班の女子が調理作業に入るとの声で一旦その場はお開きになりお互いの班に戻る事となった。


「なんつーか、思ってたよりも話しやすいやつだったな」

「そうだろうね、鈴本には合うやつだとは思ってたよ」


 人は見た目で判断しちゃいけませんなんて幼少期の教えは誰しもが聞く言葉だが、実際の社会では基本的に見た目で判断される事は多い。


 それは学生の中でも同様で、見た目も良く笑顔の多い萩原と教室の中で特にコミュニケーションを測ろうともせずに見た目にも特別気にかけない凛太郎とでは周りの対応は雲泥の差だ。


 凛太郎自身ですら才賀に対しては周囲の噂話や、見た目の印象から勝手に相容れないだろうと思い込んでいただけに、当たり前の様に凛太郎とは合うと思っていたという萩原の一言は外見や他人からの情報では無く自分から見た内面や性格で判断しているのだろうなと感心する。


 二人が持ち場に戻れば、あからさまにそわそわとした雰囲気を隠しきれていない今回のメインヒロインは凛太郎に視線を向けると待ちきれなかったのか駆け寄ってくる。


「ど、どうだった?」

「どうってまあ、話してみたら案外と良いやつそうだった」

「そうでしょ! 凛太郎見る目あるじゃん!」


 まるで自分の事を褒められているかの様に笑みを見せる姿に思わず凛太郎も小さく口端をあげると、静香はきょとんとした表情を見せる。


「笑ったね」

「笑ってねえよ」


 自分でも無意識のうちに表情に出ていたのかは分からないがその一言に口をへの字にした凛太郎をみた静香は嬉しそうに笑うと萩原の呼び出しに全員調理用テーブルに集まる事となった。


 調理用テーブルの上には普段のカレー作りでは見ることのない数々のスパイスが並べられていた。


 クミン、コリアンダー、シナモン、ターメリックと名前くらいは聞いた事はあるが嗅ぎ慣れない独特の香りが鼻腔を刺激する。


 他にも何種類か用意されていたが説明された所で理解も出来ないので説明をしてくれる九条さんの話を黙って聞いていればカレーとしてのベースを作るために玉葱やトマト、にんにく生姜などをペースト状になるまで炒めて欲しいとの事で各自作業に取り掛かる。


 当初はもっと簡易的で一般的なカレーの調理と思っていたのだがエプロン姿が着慣れたユニフォームの様に見えてくる九条の指示の元、各自が割り振られた作業をこなしていけば後は煮込むだけという所まではあっという間に終わった。


 他の班に関しても続々と完成の報告が上がり出してくると時刻は調理終了の正午を迎える。


「よーし! お前達出来上がり次第各自盛り付けに入って食べて良いぞ。各班のリーダーは私の所に審査用の料理を持って来てくれ」


 葛木の呼びかけに萩原が煮込んでいる鍋の蓋を開けてみれば、ふわっとスパイスの香りがが鼻腔を刺激する。


 自宅で作る物とは若干違うスパイシーな香りが無意識の内に口内に唾液が溢れ出てくるのを感じた。


 流石に全班の審査をするだけに何口かの小さいサイズに盛られたカレーを葛木に持っていくと、萩原が戻ってきた所で各自好きな量に盛り付けてテーブルに着く。


『いただきます』


 一口食べて驚いたのは明らかに今までに食べてきたカレーとは明らかに違うということだ。


 口の中に広がるスパイスの心地良い香りと、最初にきた野菜の甘味の後を追うように来るしっかりとした辛味。

 汗が滴ってくるじわっとした辛味なのだが、ただ辛いという訳でもなく次の一口を運びたくなってしまう。


「……旨いな」

「きらら天才だわ」

「とても美味しいよ」


 三人が声に出した視線の先には一番の立役者の九条がいる。

「み、みんなで作った物ですから!」と謙遜する九条に静香がこれでもかという位に賞賛の声を送ると顔を真っ赤にして照れていたが間違いなく彼女の力量のなせる技だろう。


 あっという間に食べ終えた静香と凛太郎は視線を交わすと隣の班を見る。


 視線の先にはもちろん才賀の班があり、ちょうど食べ始め所みたいだ。


 萩原はそんな二人の様子に気がついたのか九条にスパイスや他の料理の話題などでの会話を初めてくれたので、使っていないお皿にカレーを盛り付けると凛太郎と静香は才賀の元へと歩き出す。


 ここからが本番、仲良くなる作戦その一開始だ。



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