17 第一印象というのは意外と当てにならない
第二章
「まずは火おこしからか」
焚き火台の前まで来た凛太郎と静香の優先事項は火起こしと米を炊くことだ。
最初は中々に難易度が高いのではと思っていたのだが、流石の現代文明という事で各班ごとに配られた設備の使用説明書に目を通せば着火剤と木炭で最も簡単に使えるようになるらしい。
凛太郎が作業に取り掛かろうとしたところ「私がやりたい!」と目を輝かせながら訴えてきた静香に任せたが説明書通りに着火剤を適量引いた上に木炭を設置して火を起した後に団扇で軽く仰いでやればパチパチと音を立てて直ぐに準備は完了した。
「出来たぁー!!」
「お疲れさん」
これなら小学生でも簡単に出来そうな物だと感心したが、あまりにも嬉しそうに瞳を輝かせている静香に余計なことを言うのは無粋な事なので黙って準備した飯盒を手渡せば焚き火台にセットして一旦こちらの作業は終了となる。
正直、薪などを使っての火起こしスタートである程度は苦戦を強いられると想定していただけに、これは嬉しい誤算だ。
他の班はかなり手の込んだ調理をする所も多いだけに準備時間は十分に設けられているのだが、凛太郎と静香ペアの仕事はなるべく潤滑に進める必要がある。
勿論目的は才賀と静香の交流する時間確保の為だ。
事前に静香からの聞き取りから分かった事と言えば、クラス内では多少は話すものの上手く距離感が詰められないという事。
バイト先の先輩の一件のお礼からうまく話せないのかと聞いてはみたが、その会話に至る前に才賀本人が何かしら理由をつけて離脱してしまうらしい。
本人には間違っても言えないが、それってもはや避けられているのでは?という疑念が浮かんだ凛太郎が萩原に相談すれば基本的に才賀という男は女子生徒に対して一定に距離感を置いているとの事で、それならば先ずは友人として位は話せる様にならなければというのが第一歩目の目標となった。
これは萩原の采配なのか偶然なのかは定かではないが、おあつらえ向きに才賀の班は隣のブロックの為に話しかけるには絶好の配置になっている。
問題としては交流がない凛太郎がどうやってその一歩を踏み出すかという事なのだが、頭を悩ませる間も無く裏の司令塔である王子様は颯爽と現れた。
「野菜の下準備とか諸々終わったよ」
「え、流石に早くないか?」
「いや、それがねーー」
凛太郎としては萩原がこの作戦の為に急ピッチで終わらせたのかと思いきや視線を調理用のテーブルに向けると綺麗に並べられていた食材の横でスパイスの調合をしている九条の姿が目に入る。
「ん? カレーって野菜炒めた後にルー入れてって感じじゃなかったけか?」
「一般的にはそうなんだけどね、俺も驚いたよ」
萩原から聞いた話ではこちらと別れて九条さんと作業を開始した瞬間から、普段の物静かな雰囲気はどこへやら。
恐ろしいスピードで食材の皮切りから食べやすい大きさへの切り分け、プロの料理人に匹敵する程のスピード感で下準備を終わらせると自前で用意してきた香草やスパイスなどの調合に入ったらしい。
基本的には何事も手際よくこなせてしまう萩原だが邪魔にならないように作業分担をするのがやっとのレベルで「後は私がやっておくので少しゆっくりして下さい」と言われてしまう程だった様だ。
「それじゃあ行こうか」
「はいよ」
萩原がちらっと視線を移した先には一人で食材であろう肉の下準備をしている才賀の姿があった。
静香は焚き火台の前でパタパタと団扇で空気を送りながら飯盒のセッティングをしていたが、こちらの様子に気がつくと才賀の元に行くと察したのかペコっと小さく頭を下げて敬礼を送ってくる。
恐らくは静香なりのエールと感謝の表現だろう。
「才賀、何か手伝おうか?」
隣の調理場に居る才賀の元に赴き笑顔の王子様が話しかけると視線だけをこちらに滑らせた才賀は作業を続けながら話し出した。
「いや、大丈夫だ。お前等の作業もあるだろう」
「それが、俺たちの班は女子が優秀でね。時間が余っちゃいそうだからさ。な? 鈴本」
萩原が上手いこと話せるように話を運んでくれた意図は察するが、クラスメートとはいえ初対面と言っても過言ではない程に交流のない相手だけに何を話すべきかと考えていると予想外にも先に口を開いたのは才賀だった。
「鈴本……凛太郎だったよな。話すのは初めてだな」
「お、おう、よろしくな」
正直かなりの予想外の一言に瞬間目を丸くして返事を返す。
最近は萩原とは話すようになったものの、基本的に休み時間は一人でアニメ鑑賞していたり学校が終わった後も直帰している凛太郎は入学してからの数ヶ月でクラスの男子との個人的な交流は無い。
それ故に凛太郎のフルネームなど本人ですら担任である葛木位しか認識していないものだと思っていたし、知っているとしてもクラス全員の名前を把握してそうなのは萩原位のものだろう。
そんな中で凛太郎とは違った意味で話しかけにくい雰囲気でそこまで他者との交流が多いとは思えない才賀が凛太郎の名前を認識していた事が意外過ぎたのだ。
「俺の名前知ってるんだな」
自分で言っていて虚しくなりそうな台詞ではあるが、思ったままの疑問をぶつけると相変わらずの鋭い目つきで小さく眉を挟めると凛太郎を不思議そうに眺めてくる。
「入学式での自己紹介の時に言っていただろ?」
「いや、それはそうなんだが……」
「鈴本は一人でいるのが好きそうだからな、話す機会は中々無いとは思っていたが」
正直、入学時の自己紹介で名前なんて覚えられる自信は無いし何よりも当たり前の様に言われた一言が凛太郎自身に突き刺さる。
つい先日まで名前どころか苗字を言われてもそんな奴いたか?と言っていた自分に恥ずかしさを覚えながらも萩原のアシストの元、世間話レベルではあるが初めての会話を始めた。




