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15 いざ林間学校へ

           第二章

 


「よーし! お前達、各班ごと集まって全員揃ってるか確認したらここにサインしろー」


 今日は流石にいつもの白衣スタイルではない担任の葛木が、校庭に集まった生徒達に向けて声ををあげると、各々で賑わう生徒は足早に各班ごとに集まりリーダーが欠席の有無を確認して葛木の元へと向かう。


「九条さんに静香、鈴本とみんな揃ってるね」

「はい」

「私なんて今日はいつもより三十分早く学校ついたからねー!」


 我らが萩原班も呼びかけに集まると、今日も爽やかさ全開の王子様が全員の点呼を取り終えると出席の有無を伝えに向かった。


「でも、私服が良かったよねー。せっかくの林間学校なんだから学校のジャージじゃなくて可愛い服とか選びたかったぁ」

「私はお洋服選びは困りますしこの方が助かりますね」

「えー! 私はきららの私服見たかったなー」


 ここから林間学校での三日間で静香は純粋に楽しむだけではなく、個人的な目的もあるだけにかなり緊張しているのでは危惧していたのだが、凛太郎の想像を良い意味で裏切るかの様にいつも通りの明るい振る舞いに胸を撫で下ろす。


 恋愛相談の際にあれだけ顔を真っ赤にしたり緊張感を醸し出していたので林間学校当日に、余りにもガチガチに緊張されては正直やりづらいなと思っていたのだがその心配も無さそうだ。


 全ての班の点呼が終わると葛城の号令の元、校舎の入り口付近に停車されている大型バスへと向かう。


 バスは各クラス事に振り分けられており、クラス順と同様に四台停車してある中のクラス番号の一年四組と同様の四番車への乗車となる。


 座席に関しても各班ごとに二名ずつ前後で座る配置に決まっており、並びに関しては班の中での取り決めなので男女が両隣に座るも自由なのだが無難に萩原、凛太郎ペア、九条、静香ペアと男同士、女同士で座る形となった。



「さて、それでは今回の林間学校についての説明をする」



 バスが学校を出発して高速道路に入った付近で車内用のマイクを持った葛木が話し出すと賑わっていた生徒達は静かになり耳を傾けた。


「今年の林間学校だが現地に到着してから行うイベントなどに関しては前もって各班に通達した通りの行動日程になる。そして、お前達が気になっているであろう今年度の校外学習担当になった教員は……私だ!」


 そう言うと葛木は口端を上げてどこか含みの感じ取れる笑みを浮かべると、発表を聞いたバス内の生徒達は歓声にも似た声をあげて盛り上がりを見せた。


「真子ちゃんナイスー!」

「葛木先生が担当って事は私達の案が通ってる可能性高そうだよね!」


 バス内の生徒達が盛り上がりを見せているのには理由があった。


 林間学校決定の際に体験したい授業内容や企画案などの事前アンケートが行われ、必ずしもその要望が通るとは限らないのだが、例年林間学校での担当教員の受け持つクラスから案が採用されるという流れがあるからだ。

 

 既に決定されている現地到着後の各班の調理実習やキャンプなどのイベントとは別に、生徒達のアンケートの中から実地されるものが最終日の三日目にシークレットイベントとして行われるのだが、案外とその提案の受け皿は広く、話題になった年では超大型施設でのサバイバルゲームやスキューバーダイビングなどの希望が通った時もあるだけに、高校生からすればその期待は計り知れない。



 そして普通の高等学校とは異なり我が校の校外学習行事というのは一風変わった決まりがある。


 毎年各学年の担任教師の中から代表者となる教師の一人が当年の校外学習の内容や授業内容プランなどを企画提案し、それに従って校外学習をするという特殊な取り組みだ。


 それ故に毎年ごとに校外学習の内容も違うので生徒からしても前年の内容から当年の予想が出来ないだけに大人気の行事の一つだ。


 事前に各班毎に行うイベント計画や準備内容などは伝えられるが事前告知に関しては至ってシンプルなもので、その詳細は生徒達には伝えられない。


 実際に班決めの際に配られたプリントにも初日から二日目までのイベント行事の内容とそれに伴う荷物の準備。


 イベント時の役割決め位のもので細かい時間の取り決めや授業内容などの記載は一切されていなかった。


 勿論、保護者への通達の意味もあるだけに行き先や緊急連絡先、終了後の学校に到着する予定時刻などの表記はあるものの、基本的には現地到着してからのお楽しみという仕様である。


 去年度はかなり遠方になったが他県の山岳に赴き、当時の担当教員のプランで流星群の観測や川下り体験などアクティビティな企画に大好評だったみたいだ。


 偏差値としては中々に高く有名大学への進学率も良いのも特徴だが、実際にこの校外学習や生徒の独自性を重んじる校風が人気で当時の凛太郎も彼女と入学すると思っていただけに、この高校に入学するべく猛勉強したのだがまさか他人の恋路を応援する事になるとは夢にも思わなかった。


「事前に通達した通りに、キャンプでの各班毎での調理実習やキャンプ、私提案という事でお前達には先に教えてやるが“ちょっとしたサバイバル体験”など盛り沢山だ。そしてお楽しみなシークレットイベントはこのクラスの中の案から採用になった!」


 マイクを片手に拳を突き上げた葛木の話を聞いたバス車内の生徒達はドッと盛り上がりを見せる。


「俺、キャンプとか動画で見てて楽しみなんだよな!」

「私、虫無理だからいないと良いなぁ」


 胸を踊らせる者もいれば、文句を言いつつも表情では楽しみが溢れ出てしまっている女子生徒。


 静かに耳を傾けている生徒もいるが大多数がはしゃいでいる中で萩原だけは珍しく真顔のまま沈黙を保っていたが小さく呟いた。


「……ああ、これは大変かもな」


 誰に話しかけたわけでもなく隣に腰掛ける凛太郎がやっと気付くか位の独り言だ。


「ん? 現地についてからの準備とかの話か?」

「いや、まだ分からないけど……まあ着いてからかな」


 何となく噛み合わない会話に眉をひそめて首を傾げた凛太郎に「頑張ろう」と謎の返答を萩原が返した所で前の座席に座る静香が身を乗り出して来ると視線だけを萩原にチラッと向けて凛太郎にアイコンタクトを送る。


 恐らくはこの林間学校での目的である恋愛相談の計画をしたのか?という確認と察した凛太郎は「大丈夫」と一言で告げると静香は直ぐに振り返り自らの座席に座り直した。


 土曜日以降は前日の準備や日曜の昼間に萩原には連絡が繋がらず夜間に事情を説明したために静香への連絡は出来ずにいたので確認をとっておきたかったのだろう。


 そんな静香の様子と返答を聞いていた萩原もその意図には直ぐに勘づいた様子で隣に座る凛太郎に顔を向ける。


「順調そうだね」

「そう見えるか? 俺はかなり一杯一杯だぞ」


 前に座る静香に聞こえないようにため息を吐いた凛太郎を見た萩原は、ふっと小さく笑った。


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