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10 王子様との作戦会議

           第二章

「じゃあ、そういうことだから私友達待たせてるし行くね」

「ん、了解」


 静香はカーディガンのポケットから取り出した携帯に視線を移すとベンチから立ち上がる。

 話の途中でも何度か連絡を知らせるバイブ音が聞こえて来たので気にはなっていたが、どうやら友人を待たせているようだ。


 相槌を打つと右手をあげて「んじゃっ!」と言った静香は歩き出し、面白いやつだななんて思いながら去っていく後ろ姿を眺めて焼きそばパンを頬張っていると中庭の出口付近で足を止めて振り返った。


「ーーそれ、あげるよ!」


 静香が指差した場所に視線を移すとベンチには先程まで飲んでいたいちごミルクのパックが置かれていた。

 苦笑しながら「飲めるかよ」と一言返せば、静香は弾けた笑顔を見せて「それじゃ、後片付けよろしくです!」と小さく敬礼して足早に去っていく。


 そんな静香を見て小さく吐息を落とした凛太郎だったがそんなに悪い気もしなかった。



 そこから数日が経過したがアプリでの連絡は順調に続けられていた。


 その日の夜は昼間も会話をしたし、特に話す内容もないので何を連絡するべきかと頭を悩ませていたが、鬼教官様からまさかの助け舟を頂けたのだ。


 萩原は班長ということもあり先生との連絡や、各班長との打ち合わせなど動いているのだが班員もそれなりに役割はある。

 今回の林間学校では各班毎に何を行ったかと、どの様な学びあったかなどのレポート提出の課題があるのだが、そこに関して当日の動きや計画などの提案を静香と凛太郎が割り振られたのだ。


 萩原は班長としての仕事があるだけに時間的にもこの分野は他の班員に回した方が良いだろうし、九条さんに関してはそれを最終的にまとめてレポート作成のメインの仕事を行うという形になった。


 授業中に行われた班ミーティングの際に決まったのだが、静香と凛太郎に割り振られた業務はそれなりに稼働量も多いだけに最初その意図を気づいていない凛太郎は抗議の目線を萩原に送るも、授業中のノートを見れば一目瞭然で要点含めて綺麗に見やすくまとめられている九条さんのノートと静香、凛太郎のノートを机の上に出されて「二人にお願いしてもいいかな?」と、相変わらずの笑顔なのだがとてつもない圧を感じさせてくる王子様に視線を合わせて引きつった笑みを浮かべた二人は「はい」以外の返答は持ち合わせていなかった。


「わ、私にも何かお手伝い出来ることがあれば遠慮なく言ってくださいね」

「んー! ありがとう、きららぁー!」


 萩原の普段の王子様とは違った凄みを感じたのか否かは定かではないが気を遣った九条さんに静香は勢いよく抱き付くと、九条さんは照れた様子で俯いていた。


 側から見れば合理性を考えた当たり前の采配に思えるが、この取り決めをした時の凛太郎に向けられた何気ない視線からこれは萩原の助け舟という事を悟るのに時間はかからなかった。


 そんなこんなで連絡を取り合う大義名分が出来ただけにグループチャットは勿論だが、個人間でのやりとりに関してもある程度自然に行える様になり、そのお陰かクラス内でも自然と静香と会話する機会は増えていった。


 当初、危惧していた嫌な感情も今は身を潜めている状態で少しの安堵と何よりも思っていたよりも静香との会話のし易さに自分自身驚いていた。


 中庭での出来事があったと言うのも勿論大きな要因ではあるが、基本的に静香はネガティブな発言などはなく、何か楽しい事でもあったのか?と聞きたくなるくらいに常に笑顔で明るく接してくる。


 自分から話しかけたり、場を盛り上げたりというのが得意ではない凛太郎にとって話題提供などの心配もなく、常に明るく振る舞ってくれる静香の性格にはかなり助けられていた。


 そしていよいよ翌週の月曜日が林間学校当日に迫った金曜の学校終わり、司令官の王子様より呼び出しがかかる。



「さて、作戦会議と行こうか」

「……お前、そのセリフ気に入ってないか?」


 凛太郎が先に来ていた萩原の座るテーブルに腰掛けると、前回と同様に珈琲を優雅に嗜みながら笑顔で言葉を投げかける王子様に一言入れる。


 当の本人はといえばそんな凛太郎の一言は華麗にスルーしつつ持っていた珈琲をテーブルに置くと議題を続けた。


「個人間の連絡に関しては分からないけど、教室内で見た感じでは大分上手くいってそうだね」

「まあ、言われた通りにはやれてるとは思う」

「よろしい」


 萩原と関わるようになって気づいたことがある。

 基本的に外交的な笑顔を振り撒いている奴だがこの笑顔にも種類があるということだ。


 女子から見れば常に端正な顔立ちから放たれる爽やかな微笑みに見えるだろうが、以前より密に関わるようになった凛太郎には何種類かだけ違いが感じ取れるようになっていた。


 いつもの基本的な隙のない爽やかな笑顔、同様なのだが何故か相手に有無を言わせない圧力を感じさせる笑顔、そして今萩原が凛太郎に対して向けている“何かを企んでいる含みのある笑顔”だ。


 正直最後のこれに関しては内容の想像もつかなければ、分かった所で対象出来る自信もない。


 やれる事と言えば、今凛太郎が彼にむけている出来ればお手柔らかに……という意思表示の引きつった苦笑を浮かべるくらいだ。


「それじゃあ林間学校にて鈴本には最終ミッションに移行してもらうよ」

「……恋愛相談ってやつか?」

「そう。今夜帰ってから静香への連絡でその話題に踏み込んで欲しい。そうしたら林間学校で静香は告白まで踏み切るんじゃないかな?」

「……いや、それって第三者の俺が勝手に関わってそこまで踏み切らせる様なことじゃないだろ」


 あたかも当たり前のように言う萩原に対して苦言を定す。

 当初聞いていたのあくまでも“恋愛相談”だ。

 女子の目線から男子の気持ちや考え方程度のアドバイスであればあくまでも主観にはなってしまうが協力という形くらいなら取れると思っていたのだが告白まで行くとなると話は違う。


 そもそも本当に思いを寄せる人物がいるのかすら分からないし、自分の行動や言動から告白に踏み切って、それによって失敗でもされたらそれこそ自らのトラウマを引き起こす原因にもなりかねない。


 何よりも赤の他人が人の恋路を裏でコントロールしているかの様な状況自体が凛太郎としては好ましくないし、短い期間とはいえ話すようになった唯一の女子の同級生に自分と同じ様な思いはして欲しくないという気持ちがあった。






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