表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大事なところが抜けてる桃太郎の話


昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおったそうな。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に。それがいつもの彼らのルーティーンです。

しかしある日、おばあさんは思ったのです。毎日毎日毎日毎日、春も夏も秋も冬も川の水に晒されてアカギレだらけの両手を見つめて。




もしかして、自分ばっかり損してなーい?




夜まで悶々と悩んだ末、おばあさんはおじいさんに言いました。



「あたしー?芝刈りしてみたいんだけどー?」



おじいさんは驚いた顔をしましたが、即座に頷きました。



「なら明日は俺が洗濯やんよ!」





そうしてあくる朝、おじいさんは川へ洗濯に、おばあさんは山へ芝刈りに行きました。

おばあさんは山を登りながらニコニコでした。



「ふふふ、おじいさんも洗濯の大変さを知ればいいんじゃがー!」




一方、おじいさんも川へ向かいながらニコニコでした。実はおじいさんも同じ不満を持っていたのです。



もしかして、ばあさんの方が楽してねえ?



と。流石は年季の入った夫婦です。

そんな訳で、二人ともニコニコでそれぞれの本日の仕事場に到着しました。そしておばあさんは芝刈りを始めました。



「こんなもん、鎌を振り回してればええんじゃろがー!」



おばあさんは勢いよく鎌を地面に振り下ろしました。

一方おじいさんは、洗濯物を勢いよく川へと投げ込みました。



「こんなもん、水に浸けとけばええっきゃよー!」








お昼になりました。

おばあさんは舞い散る葉っぱと振り回す鎌に斬られボロボロになっていました。



「ひー、ひー、ひー、おじいさんは毎日こんな事やっとんのかーい!」



そして息も荒く草むらに倒れました。




その頃おじいさんは、当然のごとく流れていった洗濯物を必死に追いかけたおかげでびしょ濡れでした。



「フヒー、フヒー、フヒー、おばあさんはいっつもこんな事やっちょんのけー!」



そして川べりに倒れ込みました。ゴツゴツとした石が頭に当たり、川の水が口の中を流れていきます。

正に石に枕し流れに漱ぐです。





ボロボロになった二人は、夕方まで休んでなんとか体裁を整えてから家路につきました。



「帰ったどー!」



服が乾くのを待っていたおじいさんを、一足早く帰っていたおばあさんが出迎えます。



「遅かったじゃらなっきゃのー!」



おじいさんとおばあさんはお互いの顔を見て今日何があったかなんとなく察し、深くは聞かない事にしました。



「メシにすんじょー」


「せっきゃのー」



おばあさんが作った鍋を二人して啜ります。温かい汁が、慣れない仕事で疲れ切った体に沁みます。



「うんみゃーのー」


「だりゃーのー」



以降は黙々と食べ終わり、いつものようにおばあさんが後片付けをしておじいさんが寝床を敷きました。



「ほんだら寝るっきゃのー」


「みゃー」



灯りを消すと、疲れ果てていた二人は朝までぐっすりと眠りました。





翌朝、朝ごはんを済ませた二人は顔を見合わせて言いました。



「したら今日も頑張ろーかのー」


「にゃー」



何食わぬ顔でおじいさんは鎌を、おばあさんは洗濯物を手にしました。そしておじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へと向かいます。心の中でお互いへの感謝を捧げながら。



めでたし、めでたし!

















※桃太郎の入った桃は、眠っ(気絶し)ているおじいさんの前を流れ去っていきました。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ