1、憑依
「君! しっかりして!」
「誰か、救急車を!」
……私、死んじゃうの? 誰か助けてよ。お母さん、お父さん、死にたくないよ。助けて。お、願い。嫌、嫌だよ。
「やだっ!」
……ここ、は? あれ?
「っ!」
突然凄まじい頭痛に襲われる。それと同時に沢山の映像と言葉が頭に流れ込んできた。これは、記憶? 私の記憶? そうだ。私は確かに死んだ。だけど、今、こうして生きている。どういうこと?
「……気持ち悪い」
それに何だか熱っぽい。いきなり色んな情報が流れ込んできたからだろうか。考えようとしても上手く頭が働かない。しかも、何故だろう。涙が溢れて止まってくれない。そのまま3日間、泣いて、泣いて、泣いて、そして私はやっと理解したのだ。自分の身に何が起こったのかを。
私はあの日、確かに死んだ。14歳だった。だけどそれで終わりではなかった。私は転生してしまったのだ。いや、憑依した、というべきなのだろうか。この体の持ち主だった、イレーネ・ピュリスに。
イレーネは恵まれた子ではなかった。両親の顔も知らずに、ずっと孤児院で暮らしてきた。そして私が寝込んでいても見に来てくれる大人がいなかったことから想像はしていたが、ここでは劣悪な環境で本当に最低限の養育をするばかり。誰からも愛されなかった。
それでも、彼女は諦めなかった。何とかしてここを出ようとした。その為に自分の能力をどうにかして活かそうとした。
「治癒魔法」
彼女は魔法の使い手だったのだ。そして、あることを思いついた。もしハンターになれたなら、誰かが私を必要としてくれるはず……! そう思って、本もろくに手に入らない環境で死にものぐるいで勉強に励んでいた。
この環境で文字を読めるようになるのが、どれだけ大変だったんだろう。なのに、それなのに12で死んでしまったのだ。無理が祟って。
そうして、死んでしまった彼女の体には、私という新しい生命が吹き込まれた。そしてそれを理解した時、私はあることを決意した。イレーネの頑張りを、血の滲むような努力の日々を、私は無駄になんかしない。彼女の悲願だったハンターになって、絶対に幸せになる。
だから、自分の死を悲観するのはもうやめだ。だって私は愛されていた。家族にも、友達にも、充分すぎるくらいに。死にたくなかった。やりたいことがいっぱいあった。伝えたいことだってまだまだあった。それでも生きていかなければならない。それならばイレーネとして、夢を叶えてみせる。そう誓ったのだった。