第8話 東の都
右門は浅田と出会ったその翌日、冬牙村を発った。
浅田から渡された村の復興のための金貨を一枚だけ餞別として村長がくれた。あまり気が乗らなかったが、金がないと月影にたどり着けない。ギルドカードがあれば身分証として月影に入国できたのだが、今はないから金を払う必要がある。
地方にあるギルドからは定期的に伝達係がその国の本部ギルドへ出向いて、終わらせた任務を報告し、貨幣を受けとる。こうして国内の治安はその土地のギルドに任されているが、伝達が一定期間来ないとギルドは閉鎖とみなされ、国の領土から外され、開拓済みではあるが無主地となってしまう。
あの男はそれを確認しに来たのだろう、と村長は言っていた。しかしこちらからの伝達は年に一度でいい。大した仕事はしていないが伝達は欠かしたことはない。何故あのような事件は起きたのだろう。月影に属してはいたが、近隣で自立している村もある。これからはここもそれでいいと村長も言っていた。だから月影に誰かが向かうのは反対だった。しかしあの男が来た。
都で何かが起きていてそれにこの村も絡んでいるようだ。真相を確かめた方がいいかもしれない、と村でも話されていたところだった。
冒険者登録は十五歳から可能になる。
右門はその条件も全て満たしている。何かあったときも金には困らないはずだ。必ず戻って伝えてほしいと念を押され、皆に見送られた。
子供たちからは薬草を使った傷薬をもらった。読み書きのできる子供は自分の名前を包んでいる紙に書いていた。
あの現場でただ一人、魔物を間近で見た由良のことがずっと気になっていたが、傷薬を渡すことを決めたのが由良だと聞いて少し安心した。由良にとってはあの人形を間近で見たことより、右門の首から血が流れていたことの方がショックだったのだろう。
子供たちにも別れを告げ、右門は冬牙の村を後にした。
月影までは歩いて一週間ほどかかる。その間は野営をしたり、通りかかった集落で宿を借りたりした。
この世界では貨幣は貴重だ。都会では当たり前に流通しているが、地方の村ではほとんど目にすることもない。
金貨など両替できるはずもないだろう、と言って村長が蓄えの銅貨も少しくれた。宿ではそれを渡して泊まらせてもらった。
道中は急いだこともあり、五日で月影のもうすぐ手前まで来ることができた。時刻はまだ明け方だった。
検問所が見えてくる。
しかし――。
右門は目を疑った。
そこには信じられない光景が広がっていたからだ。
――廃墟。
目の前の都は見る影もなく崩壊していた。
全ての建物が影も形もなく、崩壊している。目の前に広がる景色は全て瓦礫の山だった。
かなりの場所で火も上がったと見える。遠くでは黒い煙もまだ上がって見える。
一体何が――。
右門は同じように崩れた検問所の建物の前で、即席の机と椅子だけが置かれた場所で待っている守衛のところへ向かって尋ねた。
「あの、ここ月影ですよね?」
「はい、西側検問所になります」
若い男の守衛は制服を着て当たり前のように答えていた。緊急時の人員でもないように見える。
右門は続けて質問をした。
「何があったのですか、ギルド本部に用があって入りたいのですが」
守衛は表情を変えず、慣れたように要を得た説明をしてきた。同じような入国者が他にも多くあったのだろうか。
「一昨晩、当国ギルド本部内において捕獲中のAランク魔物による気燃暴発が起こりました。現在は討伐処理され鎮圧されましたが、町はご覧の状況です。入国は可能ですが、ギルド本部は現在は立ち入り禁止となっております。西側の第三支部なら入れますので、まずはそちらへ向かうといいでしょう。身分証はお持ちですか?」
それを聞いて右門は身分証はないと答える。すると身分証がない者は入国はできないという。
困った――。金でも入れないらしい。ここだけは緊急時の対応になっているようだった。
すると、どこから来たのかと守衛が言う。
右門は使えなくなってしまった冬牙村のギルドカードを取り出し、守衛に見せた。すると――。
「ああ、ギルドカード、あるじゃないですか。少しお待ち下さい」
そう言うと守衛は何かの帳面を開いて確認し、ギルドカードと照らし合わせた。
「ありました、冬牙村。冒険者、赤山右門様ですね。大丈夫、入れますよ」
入れる――?
どうやらこの月影のギルド本部の方では冬牙村のギルドはまだ生きているということになっているらしい。
よく考えると伝達は確かにまだ期限前かもしれない。しかし、あの男がギルドの閉鎖を確認し、本部に間違いなく伝えているはずだ。みんなそう思っていた。
やはり中に入って確認しなければならない。
右門は守衛に礼を言うと、そのまま西側から月影へと入国をした。




