第41話 綾をなす糸
その日、六麻は第二班の番所の奥座で袴を着けて来るようにと清水に言われ、来ていた。
座敷の向かいにいつもより凄んだ様子の清水が座っている。
「六麻、急だがお上から使いが来て、今夜、上弦本部へ向かうことになった。この俺に使いが来るということは、多分あの人はお前に用があるということだ。行けるか?」
六麻は何も問題ないことを伝えると、面番所で少し待てとだけ言われ、部屋を後にした。
月影の式部の長は「月天」と呼ばれている。本曲輪からほとんど出ることのないあの男が、何故あの夜、本国から離れた山村にまで出てきていたのか、六麻にはずっとわからないでいた。
男は名は言わず、刀も差していなかった。町の医者のところに預け、僅かな説明だけを残して去っていった。
やがて外も暗くなってきた頃、奥から紋の入った羽織を着た清水がやってきて、六麻に向かって言った。
「六麻、念のために聞くが、お前貨幣は持っていないか? 決まりではないが、本部へ行くときは貨幣も持ってはいかないようにと、ここではそうなっている」
六麻は持っていないと答えると、「では行こう」と言う清水の後について番所を出た。
外はすっかり暗くなっており、空には雲の隙間に月が浮かんでいるのが見える。
月影の本曲輪は、昼は閉ざされており、夜の間だけ、門が開くようになっている。
住んでいる長屋を通り過ぎ、見慣れた家並みの中を歩いていくと、やがて前方に覚代の建物が見えてきた。
左手には堀が続いていてその先は暗闇に包まれている。暗闇のさらに向こうには、ぼんやりとした明かりが空を僅かに白く染め上げている。おそらくあそこが本曲輪の中心になるのだろう。
橋を渡り、本曲輪の南側正門「兎雪門」の前に来た。
門は開いている。左側に門番の男が立っていて、清水の姿を認めると、そのまま二人を中へと受け入れた。
中は微かな明かりで空が白んでいるところが色々なところに見える。その明かりのおかげで外灯石が道になくても辺りが見渡せた。
清水はだいたいの見当をつけながら歩いているようで、六麻はその後をただ黙ってついていった。
やがて辺りに灯篭が並んで見え始め、その先に大きな黒い塀に囲まれた屋敷が見えてきた。どうやらここが上弦の本部のようだ。
「六麻、少しここで待っていろ」
そう言うと清水は、塀の手前で六麻を待たせ、奥の屋敷の方へと消えていった。
中は静かだったが、ときどき灯りが動いたり、人の気配がする。広い庭から水の音も聞こえる。池があるようだ。
塀の外側では遠くの方でもいくつか灯篭が見え、外灯石を持って歩く人の姿も見える。
外で待っている六麻に、一つの外灯石が近づいてきた。
「あの……、四九葉さまのお屋敷はこちらでいいのでしょうか」
手に白い外灯石を持った若い女だった。六麻のことを少し見上げるようにして聞いてくる、まだ年端もいかない少女のように見えた。
ここでいい、と六麻は答えると、女は頭を下げて礼を言い、中へと消えていった。後ろ姿に、帯の辺りくらいまである黒髪が揺れているのが見えた。




