第33話 御側守役
朝、目が覚め、窓の障子を開けると街道を歩く人の中に一人の男がこちらを見上げ、立っている姿が見えた。
甚平姿の町人風のその男は、腕を組み、ただ黙ってこちらを見上げていた。
部屋からそれを確認した後、右門は白の同期憑衣服に着替え、部屋を出て階段を下りていった。
昨夜、別れ際に雲海からその服をもらい、もう一度宿舎に来るようにと言われていた。
玄関を出ると、右門のいた部屋のすぐ下でその男は立って待っていた。男の方も気付いたらしく、右門のそばまで来ると、軽く自己紹介をし始めた。
「九間憲寿。緒月御前に仕える御側守役の一人だ。昨日は世話になった。雲海から大体は聞いていると思うが」
男はそう言うと、朝の街道を過ぎてゆく人々にいつものように挨拶を返しながら通りを眺めていた。
「はい。今日あなたの元へ行くよう伺っています」
そう言うと右門は、自分のギルドカードを取り出し、九間に手渡した。
九間はしばらくギルドカードを眺めていたが、思い直したように右門の元へと戻すと、自分の宿舎へと歩き始めた。
右門はただ黙ってそれに続いた。
宿舎では昨日のように雲海が戸口で待っていた。
昨日のような冒険用の服ではなく、簡素な麻の上下だった。
「おはようございます、右門さん。お体の具合はどうですか?」
「ああ、おかげでゆっくりと休めたよ」
「今日は探索スキルの指南だそうです。私ではなく、頭領が直に教えてくれるそうです」
そう言うと、九間は奥の訓練場へと二人を案内した。
――冒険者スキル。
冒険者が覚えるスキルには、大きく分けて二つの種類がある。一つが探索用スキル、そしてもう一つが戦闘用スキルだ。
スキルを獲得するには【修得気燃】というものが必要になる。冒険者ギルドでは、これをギルドポイントという形で具体化している。
修得気燃がどれほどあるかを正確に知る方法は限られており、ギルドでは任務の内容によって本人にランクと難度に応じたポイントを振るようにしている。
本人が任務外で修得気燃を獲得することもあり、ギルドポイントは一つの目安でしかないのだが、自由な状態で獲得した修得気燃も本人が覚えてさえいればいいわけなので、できるだけ早くに教えた方がいいと九間憲寿は考えた。
九間が受け取ったとき、右門のギルドカードのランクは最低のEだった。
田舎ではたいした任務もこなしてはいないはずだが、九間はあの道を通るときに気燃が出せなかった。
雲海の話によると、右門はスキルを所持していないという。
赤山右門――。
九間の脳裏に、一つの後ろ姿が思い浮かんだ。
それはかつて、どんなに追い続けても届くことのなかった、堪えがたい、一人の男の姿だった。




