第32話 イカヅチ
同刻、月影第二支部内。
暗がりを何かを引き摺る音が聞こえる。
「……六麻。何をしている」
後ろから男が声をかける。黒の同期憑衣を着たその男はそのまま少し離れた場所で立ち止まった。
右手に脇差の鞘を掴んでいる。
「鞘ならここだ。それはそこの藪の先に置いておけばいい」
そう言うと男は床に鞘を置き、そのまま去っていった。
少年は振り返ると、床に置かれた鞘を取り、開け放たれた廊下を降りてその先の藪の中へと入って行った。
少しして藪から出てきた少年は、鞘に納められた刀だけを持ち、そのまま脇の柴折戸を抜けて外へと出ていった。
薄明かりが灯る街路を歩いて行くと、時折、人が声をかける。
他愛もない挨拶だった。
通りを行く子どもがただ黙って見上げている。
民家には所々、明かりが灯っている。
まだ壊れた家が多いが、少しずつ直されて人が戻っている。
やがて町の外れまでやって来た。
辺りはまだ瓦礫しかなく、人の気配もないせいか、悪魔による薄暗さが底に残っている。
遠くに外灯石が見える。
歩いてきた道だ。
六麻は初めて後ろを振り返った。
正面に歩いてきた道が見える。
そして背後に夥しい視線を感じた。
「……誰だ、お前」
そのまま六麻が声をかけると、背後にいる何かが地面を揺らすような沈んだ声を出して言った。
“わたしは、九尾の雷”
声はそのまま、何一つ変えずに六麻の背後から伝いつづけた。
“おまえは、魔物を殺しすぎる”
六麻は、ただ無言のままそこに立っていた。
“わたしが、見張る”
十二月十三日、未明――。
対の宿魔がこの日、月影の町に下りた。
静かに風が、枯れ残りの草木を揺らしていた。




