第28話 青い文字
暗闇の中を二人は東側へ出ると思われる右方向へ折れた。
川は通ってきた洞窟を奥まで行くと西からの流れとぶつかり、そのまま明かりのない暗がりの先へと続いていた。外灯石が通路の壁に灯っている。それが少しずつ減り、遠くでは一つも見えなくなっていた。
「あの先は未解決エリアといって、探索の際に外灯石を壁に打つのですが、何故かしばらくするとあのように消えているのです」
雲海が指さした向こうには、まるで暗闇へ連れていこうとするような外灯石がひっそりと延びていた。
奥には川の流れ以外何も感じない。雲海の表情からも明るさは消えている。
ここを通るのは三番街の「名折り」だけだという。専属冒険者のうち、森羅万象を持つ開拓専門の冒険者を月影ではそう呼ぶ。
何故、未解決の外周区を――?
昨日の晩、雲海が尋ねたとき、三番街の頭領である九間憲寿は手に持った紫石を金槌で割って見せた。
それは明かりを消した暗闇の中で薄い光を放っていた。
紫石は魔物の気配に呼応するときがある。
しかし、長年この場所にいて光を放つのを見たのは、本部の加勢が近くに来たときだけだという。加勢の宿魔【蛇羅米土】でさえ周囲のほんのすぐそばの紫石しか光らせることはないという。
しかしその晩、紫色の光が地下街の全ての石に灯ったのは、ほんの一瞬だけだった。
まるで何かを知らせるかのようなその光景に、九間憲寿は通るたびに不可解だったあの通路を思い出した。
雲海は外灯石を前に掲げながらゆっくりと歩き始めた。右門は遅れずにそれに続いた。
紫石はこの日、まだ一度も光っていない。
通路を歩く音と、微かな水の音だけが洞窟の中で聞こえていた。
右門は短剣があることを確認し、いつでも出せるようにした。
意識で雲海をかばうようにしながら歩く。雲海は行く先を明かりで照らしている。
そのとき、通路の右側、壁の隅に何かがあるのを見つけた。
上の方には外灯石がまだ残っている。暗闇はまだ少し遠くの場所だった。
そこには、青い文字で小さくこう書いてあった。
“a secret place”
右門が見つけたその文字を雲海がしゃがんで覗き込んだ。
外灯石を近づけてよく見てみた。本当に小さい文字だった。
「何でしょうか。絵、じゃないですよね」
右門も後ろからそれを確認する。まるで見たこともない、異界の文字のようだった。
「おそらく何かを表しているものだと思う。多分この場所か、そのすぐそばの」
この世界には一つの表記文字しかない。それは二人がまだ目にしたこともないものだった。
薄暗い洞窟の中。小さな文字は何を意味するのだろうか。
おそらくこれは予告なのだろう。
通路の先の暗闇に、それを感じていた。
不安そうな雲海に無言で答えた。
殺しができない冒険者――。
雲海は、ただ黙ってその背中に従った。




