第27話 古代の叡智
洞窟の内部は、壁や地面に人の手が加えられたような跡は一切なく、左隅の方には川までが流れていた。
「用水路です。外周を流れて東側二番街へ続いているんです」
気になって川岸へ下りていった右門に向かって後ろから雲海が言う。
用水路だって――?
それはどこからどう見ても自然の川にしか見えなかった。よく見ると魚が泳いでいるのも見える。右門は振り返って川の流れてくる方を確認した。
洞窟の外の町並みに川が延びている。川があるのはわかっていたが、ここに来るまでどこから流れてくるのか気にしていなかった。町の奥までそれは続いていた。
洞窟に入ると建物の数は急に減り出した。
その代わり仕切りで区切られたような小さな屋根のない小屋のようなものがあちこちで見られる。隙間からは明かりも漏れている。
「こちらが避難している人のお住まいです。魔物の活性区域を外周まで押しやったので、この奥までが町の方たちの居住エリアになります」
どうやら奥まで同じような小屋が空洞内に点在しているようだ。
元々あったと思われる外灯石が壁に埋め込まれている。それが奥まで続いて見える。
「石化階段から下が冒険者ダンジョンとなるため、表の三番街は遺跡と魔物の管理をする人たちの住まいになっています」
「石化階段?」
聞きなれない言葉に右門が尋ねると、雲海は背負っていた鞄から一つの小さな石を探し出して取り出して言った。
「古代紫石といいます。魔物はこの石を好みます。古代遺跡のダンジョンは奥に行くほどこの紫石が多くなり、地下街では少なく、あの大きな階段には全く含まれていません。だからあそこから上には魔物は行けないようになっています」
右門は降りてきたあの階段を思い出した。
あの階段にはそういう意味があったのか。おそらく町を囲んでいたあの石壁もきっと同じなのだろう。
ダンジョン非活性化――。
道中の魔物を倒しながら、洞窟内の紫石を回収する。
それがどうやら、この日の任務の内容のようだった。
洞窟内では屋根のない小屋が無数にあるばかりで、魔物はおろか人も姿を見せない。雲海の話によると、洞窟の中は空気も薄く、住民も寝ている人が多いそうだ。ときどき子どもが物音を聞きつけ、小屋の外に出て二人を珍しそうに見ていた。
どうやら外周と呼ばれるところまでもう何もないらしい。
町の四つの出入り口からは一晩で回収は済まされたようだ。
やがて大きな空洞の先に行き止まりの壁が見えてきた。
あそこがどうやら外周のようだ。
月影の古代遺跡は、地上の町をちょうど囲うような形で地下に巨大な周回通路があるようだ。せっかくだからそこを少し探索しようということらしい。
外灯石を手に持って洞窟の先を照らすと、雲海は右門を見ながら言った。
「ここからが赤山さんの出番ですね。この先は私も初めてですので」
暗がりの向こうには外灯石が壁にないところがある。どうやら未探索部分のようだ。
雲海は完全に頼り切ったような目で見ている。戦闘が起きたら全部自分がやるようだ。
大丈夫だろうか――。
右門の中でまだ魔物の境がはっきりしていない。
あのときの人形のようなのが、また来るかもしれない。
小さな川の音だけが、暗闇の中でただ静かに聞こえていた。




