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夜想人  作者: 小作
第一章 はじまりの村
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第3話 退魔の力

 森を抜け、村の中に戻るとたくさんの人が避難していく姿があった。家があちこちで燃えている。みんな家を飛び出し、村の外へ避難しようとしている。


 年寄りは、子供は――。


 もうギルドでも手に負えない状況のようだ。抵抗しようとする姿を見せるものはどこにもいない。戦える者はおそらく全員やられた。


 くそっ、待っていろ――。


 殺意に混じり、怒りが沸く。そのとき。


「右門……」


 振り返ると、女の子が一人、こちらを見上げていた。


「どうした、早く逃げろ」


 しかし、女の子は無言のまま動こうとしない。目に涙を浮かべ始めた。どうやら右門の姿を見て感情が溢れたようだ。親をやられたのか、おそらく家も。すると――。


「右門、くび……」


 さっき切った首の切り傷を見つけ、さらに泣き出しそうな顔をする。


 通りすぎる村の人間たちは誰も気づきもしなかったのに――。


「大丈夫だ。ごめんな、俺が助けてやるから」


 女の子はその場で涙を零し始めた。その後ろにはもうほとんど誰もいない。

 大人たちは幻術にやられたのだろうか。


 女の子を背に隠し、目の前の炎に身を向けた。

 すると前方から肉の焦げるような匂いが漂ってきた。


 人間のか――いや、違う。


 これは、人形のだ――。


 目の前にあの人形が現れた。

 それは巨大な肉の塊だった。人形がいつの間にかそんな形に変わっていた。


 炎で燃え、焦げて尽きたあとにまた肉が盛り上がってくる。

 どう見ても生きた体だ。しかし、やはり生命の躍動は感じない。これが、やはり魔物なのか?

 何もかもが初めてのことでわけがわからない。

 するとそのとき――。


“EAT細胞という、偽の肉体だ。殺して構わない”


 声が聞こえた。あの声だ。幻でも何でもない。

 殺していい――。


 右門の中で何かが疼いた。

 感覚が何かを伝えようとしている。



 殺したくないと願うやつは、本物の殺しができる。

 この世界でそれだけが、悪魔を殺せる――。



 短剣から伝わる声がそう言った。


 何もやりたくなかった。

 だけど生きていくには何かを殺さないといけないと言われた。泥や雑草で生きていける訳じゃないんだ。

 殺すくらいなら生きる必要ないと思うときもあった。

 だから俺はできるだけ何もしなかった。

 何の取り柄もないし、誰かの役に立つこともほとんどなかった。だから雑草すら踏むのも躊躇っていた。

 俺は弱いから、殺すという行為が怖かったんだ。


 そうじゃない――。


 父さんも言っていた。

 殺しができないとあそこで冒険者はやれない。俺は落ちぶれた出来損ないだ。お前は、俺によく似ていると。

 その通りだ。この村で俺は何もせずに終わる。



 ――だがその前に、あいつは俺が殺す。



 少ないながらも俺の姿に心を寄せてくれるものがいる。

 俺は死んでもそれは守る。


 どうせ死ぬのなら、間際に何かを殺しても、もう構わない。



 右門は無言のまま短剣を持ちかえた。

 息を吐き、その力に意識の全てを集中させる。


 暗黒滞留――悪魔殺し――。


 森羅万象、殺戮の気燃。


 次の瞬間、薄い青の炎が沸き上がり、右門の全身を包んだ。

 殺意と共に破壊衝動と戦闘能力が引き上がる。


 右手の短剣が同じく水色の炎を纏った。



「ニンゲン、失セヨ」


 オオオオオオオッ――――!!


 ゴオッ


 巨大な人型の肉塊に飛び付き、刃を突き立てた。

 炎を帯びた刃は、押し戻そうとする抵抗ごとその細胞核を貫いた。

 人形の目が死を思わせる色に変わる。


 追い打ちをかけるように青い炎が人形の赤い炎を薙ぎ払い、再生不可能な状態まで焦がした。


「うるせえよ、黙れ」


 崩れ落ちる人形の塊に、右門は言葉を吐き捨てた。

 悪魔、滅殺――。


 赤山右門。彼はこの日初めて、殺しを犯した。

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