第24話 地下の町
あの後、右門はダンジョンの場所を教えてもらった。
月影の南側のダンジョン入り口は森の中だった。
「この先をずっと進んだらいい」。
夏目にそう言われ、森の中を進むと石造りの見たこともない建物が突然、目の前に現れた。
鬱蒼とした木々の向こうに石の壁のようなものが見え、木々を抜けてそこまで行くと絶壁のような石壁が目の前に立ち塞がった。
大分古い時代のもののようで、あちこち崩れ、至るところに苔が生えている。
どうやらこれがダンジョンのようだ。右門はどこかに入り口がないかと、壁に沿って歩き出した。
足元には苔の他にシダなどがたくさん繁っている。その葉の生え方で方角は何となくわかった。
石の壁を回り込んで方角が変わると壁のない開けた部分が見えた。そこまで歩いて中を覗いた。
古代の町並みが、そこに見下ろせた。
はるか遠くまで続く、信じられないような光景がそこには広がっていた。
壁が途切れた場所から、下へと続く階段が伸びていた。
その先に、月影の持つ古代遺跡。それが一望できた。
そこは盆地というにはあまりに切り立ち過ぎている。石壁は滑落を防ぐものだった。壁の内側はまるで崖のようで、その下には見たこともないような造りの街並みが広がっていた。
基本的には全て石のようだった。しかし、所々に木の建物も見える。人の影も見える。石の建造物は大体が崩れていたが、木の建物には煮炊きしていると思われる煙も上がっている。崖際の家屋は大部分が影で暗い。見渡すと他にもいくつか壁の隙間から階段が下に伸びている。
そして驚くべきことにその異様な街並みは、途中から口を空けている巨大な洞窟の内部へと続いている。右門の遥か前方にまるで屋根のようにその街を洞窟が覆っているのだった。
その上には何もなかったかのように、またあの深い森が続いていた。
一体、どこから理解すればいいのだろう――。
その全ては人によるものとしか思えなかった。何も計画なしにこのような光景を自然がつくりだせるはずはない。
しかし、人間がどのように動けば地形をここまで完成させられるのか、とても想像がつかなかった。
出来のよい造形物を眺めるように、右門はただその有り様を受けとめるしかなかった。
階段は石のようだった。いくつもの切り出された石が積まれて出来ている。地面は土のようだ。降りながら周りを見ると、木立や隅の方に林があるのもわかる。
動物や鳥の飛んでいる姿も見える。まるで自然をここだけ静かに下に降ろした世界のようだった。
階段を下りるとそばに小さな建物がある。
右門を見つけ、そこから人が出てきた。
「ここから月影【三番地下街】です。ギルド証はお持ちですか?」
若い男のようだった。
右門はギルド証を差し出し、経緯を説明した。
すると男は右門の左手を取り、カードを戻した。
「気燃が空ですね。探索は明日以降に行って下さい。奥に探索者用の宿があります。それかダンジョン手前までの店は全て貨幣の他、ギルドポイントでもご利用になられますので、自由に過ごしてもらってかまいません」
男がそう言うと、右門は礼を言い、そのまま街の中へ進むことを選んだ。
気燃が空――。
どうやら、昼間の出来事で大分消耗していたようだ。
時々聞こえる、あの声の正体もまだわからない。
言われた途端、体に疲れを感じ、右門はちょうど表通りで軒を連ねる木の建物の一つの小さな旅館に入ることにした。
日は傾きかけていた。
まだ何が起きているのかは結局わからない。
夏目と名乗った少女に事情を聞きたかったが、彼女は本部の人間だと言った。
第三支部に従っている手前もあったし、あまり突然に深入りはしたくなかった。
何より右門はこの町が気に入っていた。
ほとんど崩壊していたけれども、何故か懐かしさを感じていた。
その理由は、まだわからなかった。




